05 最終回の時期
当作は、その気になればいくらでも執筆を続けられそうな内容であったかと思われます。
ただし、自分の中では明確に最終回の構想がありましたので、どこかできっちりと終わらせる必要がありました。
先にも申し述べました通り、自分は5年目の段階で最終回に必要な布石を配置し終えておりましたので、最終回が遅くなればなるほど齟齬が生じてしまうのです。
最終回の布石とは、すなわち「顔に火傷のある男」「フェルメス」「ガーデル」の三点となります。
アスタが「顔に火傷のある男」の正体を知ったことで不安定な状態になり、フェルメスに『星無き民』の正体を聞かされることで安定を取り戻す。そうしてハッピーエンドに向かうかと思いきや、土壇場でガーデルが牙を剥くというのが自分の構想でありましたので、そこは崩すことができなかったのです。
「顔に火傷のある男」とは何者なのか。そんな謎を6年以上も引っ張ってしまったのは、やはり小さからぬ齟齬でありましょう。
フェルメスに関しては、アスタと絆が深まることでひとまず問題にはなりませんでした。ただ、外交官としての赴任期間がやたらと延長されたことが、齟齬といえば齟齬となります。
そして問題の、ガーデルです。
最後の敵として設定されている彼は、アスタと絆を深めさせることもままなりません。
それでいつまでも腰が落ち着かない状態のまま、作中の不確定要素としてふよふよ漂うことになりました。
飛蝗の騒ぎや藍の鷹の事変でガーデルが古傷を再発させたのも、なるべくアスタから遠ざけるための苦肉の策でありました。
そしてもう一点、自分としては看過できないポイントがありました。
それは、アスタとアイ=ファの関係性になります。
最終回でアスタとアイ=ファが婚儀を挙げることが決定しているため、それまでは二人の仲を進展させることができないのです。
結果的に、作中における三年強で最終回を迎えましたが、やはりこれ以上長引かせるのは難しかったように思います。
ちなみにこの時期に最終回を迎えたのは、《銀の壺》と建築屋の面々にも二人の婚儀を見届けてほしかったからに他なりません。
それを理由に、自分は青の月の間に完結させるのだと決意いたしました。
そのおかげで、前月の緑の月からアスタたちのスケジュールはえらいこっちゃになっております。
建築屋の来訪に始まり、新たな宿場の視察、竜神の民の来訪、《銀の壺》の来訪、家長会議、東の王都の使節団の再訪、女衆を主体にする家長会議、ラウ=レイとヤミル=レイの婚儀と、アスタたちは目の回るような忙しさでございました。
この中で、新たな宿場の視察と女衆を主体にする家長会議は、外すことのできないイベントでありました。最終回を迎える前に、きっちり決着をつけなければならなかったのです。
ラウ=レイとヤミル=レイの婚儀に関しましては、いっそ本編で描かずに外伝集に回してしまおうかという考えもありました。
ですが、家長会議を書き進めている間に「ここだ!」というタイミングを見出しましたため、力ずくで敢行した次第です。
よって、作品の根本に関わらない突発イベントは、竜神の民の来訪と相成ります。
自分としても、このエピソードを本編に組み込むかどうかは思案しておりました。最終回の間際にばんばか新しいキャラクターを登場させるのは如何なものだろうという思いもあったのです。
ですが最終的には、やはり書かずにはいられませんでした。
さかのぼれば、ポワディーノ王子の一行も同様です。「シムの王子が来訪する」というエピソードは比較的後年になって生まれた構想でしたので、削ろうと思えば削ることもできたのです。
しかしそれを言うならば、当作は想定外の出来事の積み重ねで構成されております。
アルヴァッハ、ダカルマス殿下、ティカトラスの3名も、初期構想には存在しないキャラクターでありました。彼らを登場させなくても、当作を綺麗に完結させることは可能であったでしょう。
しかし自分としましては、思いついたエピソードをすべてぶちこむというのが当作の醍醐味であろうという思いがありました。
おかげさまでこのように長大な物語になってしまいましたが、悔いはありません。アルヴァッハたちもポワディーノ王子も竜神の民たちも、この物語には必要不可欠な存在であったのだと思っております。
ただ竜神の民が自分の中で引っかかってしまうのは、すでに最終回が間近に迫っていたことと、外来の一団が多すぎるという思いがあってのことでありました。
東の王都の使節団の一件がようやく落着したところでまた新たな勢力かという思いがぬぐえなかったのです。
そこで告白いたしますが、実は自分はもうひと組、驚くべき外来の一団というものを想定しておりました。
しかしさすがにこれ以上のエピソードを詰め込むのは難しかったですし、外来の一団ばかりでは食傷してしまいます。それで、その一団だけはすっぱりあきらめて、竜神の民だけでも登場させようと決定いたしました。
その未公開に終わった一団に関しましては、いずれ後伝という形でお披露目しようかと思案しております。
こうして本編の最終回を迎えた現在におきましては、最終回の後のエピソードとしてお届けするのがもっとも適切であろうという考えに落ち着きました。
いずれそちらが公開されたあかつきには、お楽しみいただけたら幸いでございます。




