04 大きな変更点②最後の敵
続きましての大きな変更点、最後の敵でございます。
それはすなわち最終話間際で暴走を見せたガーデルのことを指しております。
アスタが悪漢にさらわれて火の海に閉じ込められるという構想は、ごく早い段階から存在いたしました。
火事で生命を失うところからスタートして、最終回の間際でまた同じようなシチュエーションに見舞われるという発想でございます。
ただし、アスタをそんな目にあわせる悪漢の存在が二転三転いたしました。
自分が最初に想定していたのは、なんとディガ=スンでありました。
ディガ=スンは作中において、アスタとアイ=ファの次に登場した第三のキャラクターです。そういう初期キャラクターが最後に牙を剥くというのは何ともドラマチックな展開ではないかという考えがありました。
しかし、スン家のエピソードを書き進めていく内に、だんだんその意欲が失われていきました。
ディガ=スンを最後の敵とするならば、それまでの期間はどこかに潜伏させなければなりません。生死不明の行方知れずか、あるいは罪人として禁固の刑とするのが常道でありましょう。
ただそうすると、ディガ=スンは悪人のまま一時退場ということになります。
それではスン家のエピソードが綺麗に終わらず、ヤミル=スンの覚悟も報われないのではないかと思い至りました。
それでとりあえず最後の敵を誰にするかは保留にして、ディガ=スンは情けない小悪党ということでスン家のエピソードを終了させました。
ディガ=スンとドッド=スンが似たもの兄弟であることは、そこに起因しているかもしれません。本来はディガ=スンは悪党のまま終わり、ドッド=スンだけが改心するという設定であったのですが、二人仲良く改心したわけでございます。
そうしてスン家のエピソードが終了し、トゥラン伯爵家のエピソードに移行したとき、新たな候補が誕生いたしました。
天下の大罪人、シルエルでございます。
このシルエルの登場にも、実は紆余曲折がありました。
もともとの設定では、サイクレウスこそが諸悪の根源であったのです。
ただ、それではあまりにひねりがないと思い至り、急遽、シルエルという悪役が生み落とされることになりました。
最初からそういう設定であったならば、シルエルはもっと早い段階で登場させていたことでしょう。
たとえばアスタがリフレイアに誘拐されたエピソードで、顔出しぐらいはしていたかと思います。ですが、シルエルを諸悪の根源にしようという設定は決戦の直前に取り決められましたため、いささか唐突な登場となった次第です。
ともあれ、このシルエルこそまぎれもない極悪人です。
実の父と長男を暗殺し、次男のサイクレウスを傀儡として好き放題に悪事を働いていたのですから、同情の余地はありません。登場した当時はマッシュルームヘアーのボンクラ貴族でありましたが、自分は救いのない極悪人に仕上げようと画策しておりました。
そんなシルエルは罪人として苦役の刑が科されましたので、最後の敵として十分な下準備が整いました。
いずれシルエルが脱獄して、アスタに復讐の牙を向けるという、そんな設定が完成いたしました。
ですが、作品を書き進める内に、新たな構想がむくむくとわきおこってまいりました。
それが、『南の実りと東の颶風』のエピソードとなります。
かつてカミュア=ヨシュと《ギャムレイの一座》によって捕縛されたゲルドの盗賊団がシルエルと同じ刑場に送られており、ともに脱走して悪事を働く。それはそのまま最後の敵として活用する設定とも矛盾しませんが、それもひとつの通過点にしてしまったらどうだろうと思い至ったのです。
そこで生み落とされたのが、シルエルの隠し子であるガーデルでありました。
シルエルが死んでも隠し子のガーデルに怨念が継承されるということで、ようやく最後の敵が決定したのです。
なおかつ舞台裏におきましては、もともとディガ=スンが最後の敵でありました。
メタ的な視点におきましては、ディガ=スンからシルエル、シルエルからガーデルと、「最後の敵」というバトンが渡されていったのです。
よく言えばライブ感、悪く言えば行き当たりばったりの限りでございますが、自分としましてはそういった紆余曲折を楽しみながら書き進めるのが醍醐味でございました。
皆様にもお楽しみいただけていたら幸いでございます。




