03 大きな変更点①アスタの正体
自分は初期構想の大筋に従って書き進めてきたと申し述べましたが、もちろん細かい内容に関しては流動的に変更されております。
なおかつ、決して細かくない重要な部分においても、途中で大きく軌道修正することになりました。
自分にとってもっとも重要であったのは2点、すなわち『アスタの正体』と『最後の敵』となります。
まずアスタの正体に関してですが、初期構想においては津留見明日太当人が異世界に転移したという設定になっておりました。
現世で死んだ津留見明日太が西方神の手によって再生されて、大陸アムスホルンで生きていくための肉体を授かった、という設定になります。
自分では日本語を喋っているつもりでも、実際には現地の言葉を喋っているという設定も、この時点で採用されております。
ですが当作を書き進めていく内に、自分の中で釈然としない思いが生まれました。
父親と幼馴染の玲奈に悲しい思いをさせたアスタが異世界でのうのうと幸せになって良いものか、という疑念でございます。
作中の早い段階から、アスタにはその傷を抱かせていたつもりです。
ですがやっぱりアスタが大きな後悔などを抱えていると物語が暗くなってしまいますため、あくまで心の奥底に隠した傷、ということにしておきました。
ですがやっぱり、それではつりあいが取れないように感じたのです。
父親や玲奈はアスタを失うという絶望を負うのですから、そちらにはまったく救いがありません。
自分としては、主人公のアスタがもっとも大きな苦難を背負うべきだと判じたのです。
そこで、現世においては津留見明日太がきちんと生き残っているという新たな設定が生まれました。
その設定が生まれたのは、おそらくフェルメスが登場する直前ぐらいでありましょう。そこから新たな設定に従って、「聖アレシュの苦難」や「火傷を負った謎の人物」のエピソードが生まれた次第でございます。
よって、それより以前に書かれた玲奈の番外編、第14章の『群像演舞』における『二人の道』では、アスタと玲奈がそれぞれ異なる場所で幸せになるという含みで書き進めておりました。
二人はいつか別々の人生を歩むのかもしれませんが、少なくともあの火事で死に別れることはありません。
現世で生き残った津留見明日太に関しては、いつか『異世界料理道 異伝』としてお披露目したいと考えております。




