事件のあらまし
「ジェシカが…娘が、ポンシュワール伯爵家の令嬢に暴力を振るわれた件とは…いつ、どこで起こった出来事なのか教えてもらえないか?」
長い沈黙の後に…チャミシル辺境伯が話し出す。
だが、その言葉に私達は困惑した。
チャミシル辺境伯の表情を窺えば…。
忘れた…と言うよりは、知らなかったと言った方が正しいように思う。
私達三人は互いに顔を見合わせると、ルービン先生が事件の詳しい内容を話した。
事件はリオンが中庭でポツンと置いてきぼりにされた日から二週間後…私達が魔法省の国家資格の取得に励んでいた頃に遡る。
リオンから見事、ジュード殿下に鞍替えしたクレア様は毎日のようにジュード殿下に纏わりついていた。
ジュード殿下は、その時はまだ来るもの拒まずスタイルだった為…特にクレア様を拒絶する事なく毎日楽しく過ごしていたそうだ。
そんなクレア様をよく思わない令嬢がいた。
そう、メアリ様御一行である。
先日のチャミシル様のように、中庭にクレア様を呼び出したのだ。
だが、当のメアリ様と取り巻き達はクレア様が離れた時を見計らいジュード殿下に擦り寄り…一緒にランチを楽しんだそうだ。
呼び出されて、すっぽかされたクレア様は腹を立てた。
そして、その日の午後…偶々見かけたチャミシル様に詰め寄り口論となる。
チャミシル様の事はメアリ様御一行の最後尾に居たのを覚えていた…と、クレア様が言っていたらしい。
…らしいと言うのも、そもそもこの事件の報告書にはチャミシル辺境伯の証言しかなく…加害者側の証言は何一つ書かれてなかったのだ。
そんな事ってあるの?と、疑問に思ったが…チャミシル辺境伯の圧に負けた学園長と事務員さんが、それで通してしまったようだ。
…後から問題になるとは思わないのかね?
話を戻す。
口論の末…クレア様はチャミシル様を突き飛ばした。
チャミシル様は華奢で…体格的にはクレア様の方が”がっしり”していた為、チャミシル様は勢いよく地面に叩きつけられる。
そして…その現場を偶々通りかかった私とチャミシル様は目が合ったそうだ。
…違うけど。
きっと…その頃は国家試験受けてたし。
そして、別邸に帰ると医師を呼び治療をし…その出来事を偶々王都に来ていた父親に話す。
その後、激怒したチャミシル辺境伯が学園へ乗り込んだ…と言うのが事件のあらましだ。
ルービン先生が話し終えると、向かい側に座るチャミシル辺境伯は一度…深い溜息を吐く。
そして…両手を組み、その手に額を乗せるように俯いた。
「…娘が入学してから、王都に来たのは片手で足りるほどだ。だが、その何れも…時期が合わない。…合うとしたら、国境の塀に関する報告を上げた頃だとは思うが時期がズレる。…私が王都に来た時は必ず別邸で一泊し、翌日に領地に帰るのだが…。」
チャミシル辺境伯は凄まじい早さで言葉を呟くと、使用人を部屋へと呼ぶ。
そして、事件が起きた日に自身が別邸に居たかを確認すると…使用人は首を振り否定した。
更に医師を呼んだという事実も無ければ、チャミシル様が怪我をされて帰ってきた事も無かったらしい。
…つまり。
「誰かが私の名を勝手に使い…学園に乗り込んだようだ。」
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