本当に怖いのは生きている人間
クロード殿下の冷たい目線の先にいたジュード殿下は顔を真っ青にし、俯いた。
自分がしようとした事は必ずしも相手を喜ばせるとは限らない。
まして…その相手は腹黒…いや、クロード殿下なのだ。
「僕が王太子になれるようように、優しいジュードは自ら犯罪に手を染めたんだって?リナリア嬢が王太子妃に適任だから婚約解消になるようにしたって?…ふーん。」
言葉は軽やかなのに、声のトーンは少しずつ下がり…部屋には重苦しい空気が立ち込める。
居心地の悪い空間は…息をするのが精一杯で、とても声など出せるものでは無かった。
威圧かと思ったが、そうでは無いらしい。
この空気はクロード殿下が作り出しているようだ。
「…ジュードは僕よりも偉い立場なのかな?人に施す…というのを目上の者にしたらどうなるかとか考えた事はあるのかな?された方はどう思うのかな…そんな風に相手の立場になって物事が考えられないって事でいいかな?」
ジュード殿下を覗き込むように見て、口の端を上げたクロード殿下に…ジュード殿下はヒッと喉を鳴らす。
その額からは汗が流れ…体は小刻みに震えている。
あれが自分にされたのだと考えただけで、胃がキュウッと痛んだ。
「ジュードは一から学び直した方が良いみたいだね…どうだろう、この事件が解決したら初等部からやり直した方が良さそうだと国王陛下に進言しておこうかな?…それで構わない?」
見えない刃が心を切り刻むような…もしくは、傷口を素手で抉るように…人の心を攻撃するクロード殿下を改めて怖いと感じた。
ホラー映画を観るよりも肝が冷え、関係のない私まで冷や汗が背中を伝う。
「…申し訳…ございません。」
震える体で途切れ途切れに紡がれたジュード殿下の言葉を…無表情で聞くクロード殿下。
先程の方がまだ表情があったのだなと思った。
…こんな恐ろしい兄弟喧嘩は王城でやって欲しい。
公爵家でやらないで欲しいとリオンを見ると、リオンも同じように私を見ていた。
その顔には困惑の色が浮かび、よく見れば頰を汗が伝っていた。
どうやら同じ意見のようだ。
「…謝る相手は他にも居るだろう?」
一層冷えた声で呟かれたクロード殿下の言葉に、ジュード殿下はスッと立ち上がるとリナリアの前に膝をついた。
その姿に珍しくリナリアは動揺を隠せず、ジュード殿下へと駆け寄ろうとしたのをリーマスお兄様が止めた。
「リナリア嬢、君への数々の暴言…そして酷い態度。私によって苦しんだ全てを許してくれとは言わない。ただ…謝らせて欲しい…すまなかった。」
深く下げられた頭にリナリアはどう答えるべきかと逡巡する。
隣にいたリーマスお兄様は、そんなリナリアに優しく声をかけた。
「リナリアの思うように答えなさい。」
リーマスお兄様の言葉に一度目を閉じたリナリアは、直ぐに目を開きジュード殿下を見つめた。
「すぐに許す事は出来ません。私の心は確かに傷つき…その傷を癒やしたのは兄姉でした。…出来る事ならばジュード殿下に癒やして欲しかったです。その事だけ…出来たら覚えていて下さい。」
リナリアは私やリオン、お兄様を順に見ると、再びジュード殿下を見た。
深い傷と共に負った痛みは今は癒えたのだろうか…?
それはリナリアで無ければ分からない事。
「忘れず胸に刻む。私に謝罪する機会を与えてくれた事、感謝する。」
ジュード殿下は頭を下げたまま、リナリアへと告げた。
それに対しリナリアは、ジュード殿下へ頭を上げてソファーへ戻るようお願いしていた。
どうにも居た堪れない気持ちがヒシヒシと伝わってくる。
「さて、こんな所かな?…ジュードは国王陛下より、リリア嬢に協力する事を命じられている。事件解決後に裁かれる予定だ…これは特別な措置だと重々、理解は出来ているね?」
「はい!」
クロード殿下の言葉にジュード殿下は返事をすれば、クロード殿下の顔にはいつもの笑顔が戻っていた。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。




