変えられなかった運命
「やあ!悪いね。」
お兄様に連れて来られた部屋は応接間だった。
しかもクロード殿下は既にお茶をしているではないか…。
「ごめんね?クロードが二人を呼ぶからさ…ちょっとだけ付き合って?」
お兄様は申し訳なさそうに私達に頭を下げるので、私もリオンも頷くと…席に座るように促された。
「バレンタインという面白いイベントをしたと聞いてね…はい!」
クロード殿下は和かに笑顔を作り…手を差し出した。
何で手を出されてるのか分からず、私もリオンも首を傾げる。
「あれ?僕にもチョコレート用意してないの?」
…してないよ?
とは、言えない。
………はぁ……
顔には出さないけども、心で大きな溜息を吐く。
スッと立ち上がり「お持ちします。」と声をかけてから…足早に厨房へと向かう。
殿下に渡さないとなれば問題になる…そうなっては色々と宜しくない。
だが、皆んなに渡したチョコレートに予備は無いし…パウンドケーキの端っこを出すわけにもいかない。
…残ってるチョコレートは一つしかなかった。
そう…私専用のチョコレートサラミ。
私専用なんだよ!
誰かの為じゃない私の為の物なの!!
昨年はリオン達に見つかったから…今年こそはって頑張って作ったやつなの!
バーンッと厨房の扉を開け、ハイムさん達が驚くのを横目に私は冷蔵庫からチョコレートサラミを取り出して、切り分ける。
高価なお皿を用意してもらい並べると、何も残らなかった。
…私は結局…私専用のチョコレートを独り占めする事が出来なかった…。
今年こそは…と、頑張ったあの日。
そう…私は自分専用のチョコレートを独り占めする事が出来ない運命だったようだ。
どこかで思っていた…今年もダメなんじゃないかって。
リナリアとお茶をする事が決まった時にも嫌な予感はした。
予感はしていたのに、どこかで大丈夫だと思ってしまった。
運命など…変えられるものだって…心のどこかで思っていたのかも知れない。
結局、私にはこの運命を変える事なんて出来なかったのだ…。
「お待たせしました。」
何食わぬ顔で応接間に戻ると、クロード殿下の前へとお皿を差し出した。
お兄様も初めて見るチョコレートサラミに、お皿と私を交互に見る。
「あれ?リーマスも貰ったんだろ?」
クロード殿下はお兄様も顔を不思議そうに見ると、お兄様は首を横に振った。
「いえ、僕の貰った物とは違う物です。」
そう言ってチラッと私の方を見たお兄様。
そんなお兄様に私は少しションボリして見せる。
…これくらいしたって良いじゃない…私専用だったんだから。
クロード殿下の側で控えていたソムリス様がチョコレートサラミを小さく切り、先に毒味する。
毒味なのに、躊躇なく嬉しそうに食べるソムリス様。
彼は私の作るお菓子には安心してるのか、美味しそうな顔でゆっくり咀嚼していた。
「まだか?」
クロード殿下がいつまでも咀嚼しているソムリス様に催促すると、少し残念そうな顔で「大丈夫です。」と言ってクロード殿下へとチョコレートサラミを渡す。
クロード殿下は嬉しそうな笑顔で受け取ると、パクリと口に含み暫くチョコレートを味わっていた。
「先日頂いたティラミスというのも美味しかったが、これも美味しいね。」
そう言って二つ目もパクリと口に含み美味しそうに咀嚼するクロード殿下。
「リリア、僕も貰っても良いかな?」
お兄様も味見がしたいのか、私に食べても良いか確認する。
「待て!これは僕のだよ?僕に聞くべきじゃないか?」
私が頷く前にクロード殿下がお兄様に反論する。
確かに…クロード殿下用に出した物なので、所有権は既にクロード殿下にあるのかもしれない。
…私のだったのに。
「クロード、一つだけ味見させてくれない?」
「…仕方ないなぁ、じゃあ借りって事で一つどうぞ!」
うわぁ…凄い黒い笑顔。
お兄様は頬を引きつらせながら、笑顔で「ありがとう。」と言ってパクリと口に入れた。
そして、暫くの間…お兄様は固まってしまった。
「ところで、そのバレンタインというイベントはどうだったんだい?」
お兄様が固まってるのを完全に無視しながらクロード殿下は私とリオンに話しかける。
その質問に私は一瞬だけ肩がビクッと揺れたが、何食わぬ顔で答える。
「はい、王都に居る家族にも領地に居る家族にもチョコレートを渡せて良かったです。」
…平常心、平常心。
こういう時は無だ、無になるんだリリア!
ニッコリと微笑みながら、バレンタインの感想を述べればクロード殿下の唇の端が少しだけ上がった…ような気がした。
「では、あのアレスにも渡したという事かな?」
和かに笑うクロード殿下。
…平常心、平常心…へーじょーしーん!!
「はい、喜んでもらえました。」
…事実だ。
事実…アレスは喜んでくれた。
『リリア、リリア。』
リオンが何故かテレパシーを送って来るので、何事かと思い振り返ってしまった。
どうやら平常心ではいられなかったようだ。
テレパシーなのに、振り返っちゃったよ。
『…リリア、見ちゃダメじゃん。』
『仕方ないでしょ?心が乱れてるんだから…。』
むぅっと唇を尖らせリオンに、私も同じように唇を尖らせる。
「何?睨めっこしてるの?」
クロード殿下が面白そうに私達を見るので、首を左右に振って…笑って誤魔化した。
「やっぱり二人には二人だけの秘密があるようだね?」
ニヤニヤしながら聞いて来るので、更に笑って誤魔化す。
「まだ教えてくれないのか…いつか、教えてね?」
諦めたのかと思えば、まだ諦めてないようだ。
一年以上前から私達の秘密を暴きたいと思っているのか、クロード殿下は何かと私達双子に絡んでくる。
…そうはさせませんけどね?
「「何のことでしょう?」」
私とリオンはいつものように、コテンと首を傾げて笑顔で返すのだった。
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2頁前の冒頭をやっと回収しました。
リリアは自分専用のチョコレートを独り占め出来ない運命のようです。




