椎名 賢也 74 迷宮都市 地下10階 子供達の家 1
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
地下10階からはLv上げのため3ヶ月の間、拠点を移さず攻略する。
ずっとテント内で食事をするわけにもいかず、夕食は安全地帯で取る事になった。
あぁ、この不味くて硬いパンが主食とは……冒険者活動をする上で唯一避けたい食事時間が憂鬱で仕方ない。
旭は沙良の作る食事なら、なんでも美味しそうに食べているがな。
ダンジョンマスター時代は飲食出来なかった所為か?
いや、母親の作る料理に比べたら変な味がしないだけ、ましなのかも知れん。
何人か怪我人が出て、旭が男性冒険者の治療をする機会が訪れた。
治療した男性に手を引かれ、テント内に連れ込まれるのを沙良と無言で見送ると、悲鳴を上げた旭がテントから走って逃げてきた。
相当怖かったのか俺に抱き着きブルブルと震え、青ざめた顔をしている。
そう、異世界は怖い所なんだ。お前は特に注意したほうがいいぞ?
旭に逃げられ後を追ってきた男性冒険者に、沙良がお礼の必要はない事を伝え、アマンダさんにしたような説明をすると、彼は名残惜しそうな表情で去っていった。
治療した縁で仲良くなったアマンダさんのパーティーと、一緒に夕食を食べる機会が増えた。
沙良が経営している肉うどん店の紹介をすると、「皆で食べに行くよ」と胸を叩きながら言う。
サバサバした彼女は少女に見える沙良を気遣い、何かと声を掛けてくれるようになった。
地下18階を攻略していたのなら、クランを率いている立場だろう。
迷宮都市に来たばかりの俺達は知り合いもいないため、仲良くなれたのは運がいい。
ただ、クランリーダーがいるパーティーの所為なのか、メンバーは無口だった。
統制の取れた動きは、冒険者というより軍人を彷彿とさせる。
上下関係に厳しいクランなのだろうか?
そんな事を気にしながら最終日の金曜日を迎えた。
沙良が毎週日曜日に教会で炊き出しをするため、金曜日にはダンジョン攻略を中止すると伝えると、アマンダさんは呆気に取られたあとで感心した様子を見せる。
これで俺達が、路上生活をしている子供達を本気で支援していると分かってもらえるだろう。
ダンジョンを出て、冒険者ギルドへ向かい換金を済ませる。
予想通り、傷のないシルバーウルフの毛皮は常設依頼の金貨5枚より金貨3枚多く買い取りされ、沙良が嬉しそうにしていた。
解体場のおじさんが、「こんな綺麗な状態の皮は滅多にない」と言い喜んでいたが……。
狂暴なシルバーウルフを無傷で倒せる冒険者は、いないみたいだな。
貴族がマントにするそうで、高く売れるらしい。
ファングボア肉を5体分引き取り、肉屋でファングボアの肉を3体分卸し肉うどん店に寄る。
売り上げと在庫の確認後、補充を済ませホームに帰った。
沙良に旭と飲みに出かけると伝え、気になっていた手羽先の店へ行く。
電子メニューから生ビール、手羽先と数品の料理を選び乾杯した。
生ビールを一気飲みした旭が、
「賢也さぁ~、男性冒険者も治療のお礼をするって知ってたよね?」
俺をジト目で見ながら聞いてくる。
「何事も経験だ。これで、気を付ける必要があると分かっただろう?」
「口で言ってくれたほうが良かったよ! いきなり服を脱がされそうになって怖かったんだから!」
おや? 俺の時は、相手が服を脱ぎ出したんだが……。あぁ、こいつは立場的に……。
実は、あれから男性冒険者が全員お礼をするわけじゃないと聞いたんだよな。
ダンジョン価格の治療代の2倍出して、お礼を回避する男性もいるらしい。
同性相手は、どうしても無理だという冒険者もいる事を旭には黙っておくか。
その方が危機感を持つだろうし。
「沙良が治療のお礼は不要だと言っているから、その内周知されるんじゃないか?」
「う~ん、それまで大丈夫かなぁ。治癒術師だとバレてからパーティーに誘われる事も多いし、毎回断るのが面倒なんだよね」
そう言って複雑な表情をする旭だが、沙良のいないパーティーで冒険者をする心算はないだろう。
沙良は、旭が美人局でもされないか心配していたがな。
「お前は、いつ告白するんだ?」
「えっ!? 突然、そんな事を聞かれても……まだ心の準備が出来てないよ」
俺の言葉に焦る旭を見て、こりゃ当分無理そうだと思う。
若返ったぶん時間はあるが、あまりのんびりしてると誰かに取られるぞ?
今はまだ秘密を沢山抱えて恋愛どころじゃない沙良も、好きな人が出来たら気が変わる可能性だってある。
秘密を打ち明けてもいいと思える人に出会えば、家族や幼馴染の優先順位は低くなるだろう。
最悪、俺達と離れて暮らす選択をするかも知れない。
そうならないために、お前とくっついてほしいんだがな。
「旭。告白するのが難しいなら、男性として意識されるように頑張れ」
長年、幼馴染としての立場に甘んじていた彼が、妹に異性と思ってもらえるかは疑問だが……。
完全に兄妹枠だしなぁ。しかも、兄ではなく弟のように扱われている気がする。
「うん、頑張ってみる!」
ビールジョッキを掲げて威勢よく宣言する旭を横目に、空回りしそうだと思った俺は、小さく溜息を吐いて手羽先に手を伸ばした。
久し振りに食べた手羽先は、胡椒が利いて美味い!
カラッと揚がった鳥皮もパリパリして香ばしいな。
この店は当たりだ。また来よう。
日曜日。教会に行き、肉うどん店の母親達と沙良が炊き出しの準備を始める。
朝早くから列に並ぶ大人達を、旭と警戒しながら子供達が来るのを待った。
以前、横取りしようとした男の顔はしっかり覚えている。
列に並んでいるその男を睨みつけると、舌打ちされたあと忌々し気な視線を向けられる。
ふっ、いつでも相手になってやるぞ? いっそ事を起こしてくれれば、他の大人達への牽制になっていいんだがな。
一度ファイアーボールを撃って脅した所為か、男はこれ以上絡む心算はないようだ。
子供達が集まりだすと、巾着の交換で忙しくなる。
出来上がったスープとパンを笑顔で食べる子供達の姿を見守りながら、来週には家を購入出来るだろうと思った。
翌週の土曜日。
沙良が子供達の住む家を購入したいと言ってきた。
2週間で旭が治療した人数は5人。治療代の合計は金貨60枚(6千万円)になる。
それだけあれば、全員が住む家を用意出来ると思っていたが……。
冒険者ギルドで家の値段を調べると、1軒が金貨10枚もする。
迷宮都市は町に比べて物価が高いのを忘れていた。
取り敢えず6軒購入し、残りの物件を沙良が押さえてくれるよう交渉した結果、金貨10枚の家4軒以外は金貨15枚の家になるそうだ。
冒険者ギルドを出てから子供達に必要な物を買い揃え、購入した6軒の家へ運び込む。
いつでも人が住めるよう、きちんと管理された家は綺麗に掃除されていた。
これなら明日の炊き出し後、子供達を連れて来れるだろう。
1軒に10人住めるから今回は60人か……。
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