第892話 恐竜の魔物が棲む島 双子達の家をホームに設定
※椎名 賢也 110 迷宮都市 地下12階 クラン『白銀の剣』の撤退 2&迎えを忘れた沙良をUPしました。
「新しい能力については、あとで検証してみましょ。それより今後の問題なんだけど……」
私は双子達へダンジョンに設置された罠にかかり、海に囲まれた島へ独りで飛ばされ帰れない状況にある事を話し、上手くいけば1ヶ月後にカルドサリ王国へ戻れると説明した。
その間、2人は国に戻れないからホーム内で生活して欲しいと告げる。
「その……貴方達が異世界に転生しているとは思わなかったから、勝手に召喚しちゃってごめんね。その上、若返った状態になってしまったけど、元の生活に戻りたいなら若返りの効果があるギーブの実をあげるから、そう事情を説明したらいいわ。それでも、1ヶ月行方不明なる理由を考えないといけないけど……」
「いや……、王子の身分に未練はないし若返った説明をするのも面倒臭い。せっかく家族と再会出来たんだ。これからは、一緒に行動を共にするよ。遥斗もそれでいいだろ?」
「うん、俺も家族と一緒のほうがいい。雫ちゃんとも会いたいしね」
双子達はそう言ってくれたけど、母の表情は暗い。
「この世界で貴方達を育ててくれた両親と離れるのは寂しくないの?」
2人には異世界で別の家族と過ごした20年がある。
母は親の立場から、その事実を慮り心配しているようだ。
「あ~、母親はもう亡くなってるし、俺達は第二王妃の子供だから王と会う機会も少なかった。第一王妃の子供達とはそりが合わなかったから、この世界の家族とは希薄な関係なんだ。だから、母さんが不安に思う事はないよ。いずれ第一王子が王太子として王位を継ぐだろうから、王家の血が途絶える問題も起きないしね」
「そうなの? 無理はしてない? 私は家族一緒のほうが嬉しいけど……」
不安そうな母に雅人が安心するよう声を掛けたけど、納得いかずに聞き返していた。
「大丈夫だって! 王子の身分のせいで、年中行事に出席させられて辟易してたんだよ。そもそも俺達は王子なんて柄じゃないし~」
続けて遥斗が雅人の意見に同意するのを聞いて、漸く母は安堵したように肩の力を抜いた。
「そう、でも王子が2人も消えたら国が混乱しそうね。沙良が皆と合流出来たら、手紙を送ったほうがいいわ」
「王家を出る理由でも考えておくよ。それより、お風呂に入りたい!」
「あっ俺も、ずっと入りたかったんだよね!」
異世界生活が長かった双子達は湯船に浸かりたいらしい。
その気持ちはよく分かるので、私は皆でスーパー銭湯に行こうと提案した。
1人ずつ実家の狭い風呂に入るより、大きな風呂がある場所のほうが嬉しいだろう。
マッピングでスーパー銭湯に移動すると、一瞬で場所が変わった事に2人が驚きの声を上げる。
「わぁ~、この移転の能力は凄すぎる! 沙良お姉ちゃんだけ、皆と能力の差がありすぎない?」
「本当に一瞬なんだな。今まで、馬車で移動していたのが馬鹿らしいくらいだよ」
「マッピング能力は優秀なの。これを使えば、場所を移動しなくても魔物を倒せるんだから」
私が言った言葉に、冒険者をした経験がない2人はピンとこなかったようで、
「ふ~ん、便利なんだね」
「地図を作成する以外にも使い道があるのか……」
理解していないみたいだった。
女湯と男湯に分かれ、1時間後に待ち合わせをする。
私は母の背中を流しながら、少しだけ大きくなったお腹を見て香織ちゃんに語りかけた。
「あったかくて、気持ちいいね~。もう少ししたら、温泉旅行に行くよ」
赤ちゃんに向かって声を掛けているのに気付いた母が笑っている。
「沙良は、本当に生まれてくる弟妹が嬉しいのね。そんなに子供が好きなら自分で産めばいいのに」
「異世界で相手を見付けるのは至難の業だよ。今はガーグ老と結婚してる事になってるし」
「偽装結婚だと分かってくれるわよ。それに、お相手は案外近くに居るんじゃないかしら?」
母は、そう意味深に言ったあと露天風呂に入りに行った。
私はジェットバスで体をマッサージしよう。
1時間後、ほかほかと温まった体をクールダウンさせて母と双子達を待つ。
時間通りに出てきた2人がアイスを食べたいと言うので、アイテムBOXから〇-ゲンダッツを取り出し渡してあげると、飛び上がらんばかりに喜んだ。
異世界の食事事情を知っている私は、さもありなんと苦笑する。
食の発展していない異世界には、氷菓子くらいはあってもアイスクリームはないだろう。
双子が好きな抹茶味と苺味を出したので、懐かしい味に顔を緩ませている。
「あ~、食事が最悪で日本に何度戻りたいと思ったか!」
「和食が食べたくて死にそうだったよ」
そんな意見を聞き、これからは美味しいものを食べさせてあげようと思う。
「夜は自分達の家で寝る? ホームに設定出来るよ」
「20年も経ってるけど、まだ俺達の家があるのか!」
「異世界に転生したのが茜と同時期だとすれば、日本ではまだ数か月しか経ってないし、あるんじゃないかしら?」
「自分の家があるなら行ってみたい!」
「分かった。先に、お母さんを家まで送るから待っててね」
双子達をその場に残して、私は母を実家に送り届けて戻ってきた。
マッピングで双子達の家を探して移転する。
部屋の前まで歩き、ホームに設定してあげた。
「中に入っていいよ」
目の前にある家を見て目を赤くしている2人の背中を押すと、雅人がゆっくり玄関の扉を開け、靴を脱ぎ中に入っていく。
そのあとに遥斗と私が続いて室内に入ると、
「本当に俺達の家だ……」
「何も変わってない……」
2人が小さく呟く声が聞こえる。
「あれ? でも、何だか全てが新しくなってるような……?」
「あっ、ホームに設定すると家の中が現状回復されるの。だから皆、新品になってる筈よ。残念だけど、スマホもPCのDATAもリセットされちゃうから」
PCの中身が消えてショックを受けてた兄を思い出し、そう告げると、
「そんな……カスタマイズしたPCが……」
「それは……一番嬉しくない」
職業柄、PCに思い入れのある双子達は絶句し、固まってしまった。
あ~、ごめんね。でも、もうSEの仕事をする事もないし、これからはそんなにPCを使用しないでしょ?
それとも、お宝映像が消えたのが悲しいのかしら?
「じゃあ、私も家に帰るわ。明日の朝、迎えに来るからゆっくり休んで」
嘆く2人を置き去りにし、再び実家に戻ってくる。
まだ起きていた母に双子達の召喚を家族に内緒にするのは流石に拙いと話して、連絡を入れる事にした。
王族の誘拐犯になるのは避けたい。事情を話せば、兄も理解してくれるだろう。
『お兄ちゃん、聞こえる?』
『沙良? まだ起きてたのか?』
『遅い時間にごめんね。お父さんも一緒に居るかな?』
異世界の私の家は2階が6部屋あるから、皆一緒に寝ていないだろうと聞いてみる。
『この部屋には旭と俺しか居ない。父さんに話す必要がある内容か?』
『うん、呼んできて』
兄が通信を切って父を呼びに行くのを待つ間、ドキドキしながらどうか怒られませんようにと願う。
5分程して、通信の魔道具から父の声が聞こえた。
『沙良、何かあったのか?』
『お父さん? ホームに1ヶ月間待機している時間が勿体ないと思って、双子達を召喚したの。そうしたらね、何と2人共が既に異世界に転生していたんだよ。今はカルドサリ王国の王子になってるんだって。でも第二王妃の子供だから王位は継がなくていいみたい。王子の身分に未練はないから、私達と一緒に居たいと言ってくれたんだけど……』
私は途中で遮られないよう、早口で捲し立てた。
『聞き間違いか? 双子が王子だと聞こえたが……』
『父さん、現実逃避してる場合じゃない。沙良は王族を誘拐したらしい』
『……そんな話は聞きたくなかった。王族の誘拐は謀反と見做され、犯人は確実に処刑になる。お前が召喚したなら、2人は今いくつになってるんだ?』
『12歳になってます』
『王子の姿のまま若返っているんだよな?』
『はい』
私はだんだん声を落として、次の言葉を待った。
※ギーブの実は書籍の2巻に登場する、白い蕪のような体の上に双葉が付いている植物です。
好きな音楽を聴かせると、お礼に黄金色の実を付け、その実は貴族に重宝される貴重なもので、若返りの効果があるらしいといわれてます。
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