椎名 賢也 70 迷宮都市 地下7階 店の購入
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
沙良が店の条件をいくつか出し、カマラさんが候補を紹介する。
図面だけだと状態が分からないので、気になった店を5軒ほど見て回った。
沙良は、その中で2階に3部屋ある店が気に入ったらしい。
1階の店内は広く、置いてあるテーブルと椅子をそのまま使用してもいいと言われたのが、決定打になったんだろう。
初期費用が安く済むと嬉しそうにしている。
椅子の数を考えると30人は集客可能だな。
初めて経営する店だし、これくらいが丁度いいか。
契約金は金貨50枚(5千万円)だが、割引され金貨49枚(4千9百万円)になった。
店を購入した事で必要になる機材や、親子の着替え等を買いに走る。
沙良は、なるべく早く親子が安心して暮らせるようにしたいと思っているようだ。
それは多分、母親達の表情が気になったからだろう。
俺でも分かるくらい彼女達は疲弊していた。
最悪な状況になる前に、救ってやりたいという気持ちは理解できる。
ホームに戻ると、沙良から店のメニューを何にするか相談された。
悪いが、そっち方面はさっぱり分からん。
「う~ん、お店の事は沙良ちゃんに全て任せるよ! 力仕事があれば手伝うから言ってね」
旭は少し考えてから沙良に丸投げした。
「異世界にない、珍しい料理の方がいいんじゃないか?」
俺は一応アドバイスらしき発言をして、料理名の答えを避けた。
何も作れない俺の言葉に説得力はないだろう。
何でも解決できると期待するなよ?
俺達の返事を聞いた沙良は相談相手を間違えたと気付いたのか、夕食にすると言ってアイテムBOXからハンバーガーセットを取り出した。
役に立たない俺達に料理を作る気が失せたのか……。
少し悲しい気分でハンバーガーに齧り付く。
いや美味しいんだが、夕食にファーストフードはちょと違うんだよなぁ~。
インスタントラーメンを出されるよりましか?
月曜日。
冒険者ギルドで地下7階の地図(銀貨70枚)を購入後、沙良が受付嬢に宝箱の情報を聞いていた。
迷宮都市のダンジョンでは宝箱が出現しないと知り、ショックを受けている。
ゲームと同じように、異世界の大型ダンジョンにはあると思っていたらしい。
それは俺も残念だ。
宝箱を発見するのは冒険者の醍醐味じゃないか! 何故ないんだ!?
ダンジョンに入り、地下7階の安全地帯まで駆け抜ける。
安全地帯にマジックテントを設置して、地下7階の常設依頼を確認した。
【ダンジョン地下7階 常設依頼 C級】
ミノタウロス1匹 銀貨20~22枚(魔石・本体必要)
オーガナイト1匹 金貨12枚(魔石・剣・盾・本体必要)
※レッドタートル1匹 銀貨50~55枚(魔石・本体必要)
※ブルータートル1匹 銀貨50~55枚(魔石・本体必要)
ガーゴイル1匹 銀貨5枚(魔石)
タートルは色が変わっただけだな。
旭がダンジョンマスターとして呼び出したミスリルゴーレムとメタルスライムは、迷宮都市のダンジョンに出現しないようだ。
今回も沙良が色違いのタートルを、1匹ずつコレクションすると言って喜んでいる。
駐車場に置いたり部屋に飾ったりしないなら、好きにするといい。
5日後。冒険者ギルドで換金を済ませた俺達はホームへ戻り、旭と飲みに出掛けた。
生ビールをゴクゴク飲んで喉を潤わせた旭が口を開く。
「沙良ちゃん、何のお店にするんだろうね~」
「この世界はパンが主食だから、サンドイッチのような軽食じゃないか?」
「喫茶店みたいに、紅茶とセットメニューにすれば利益が出そう!」
まぁ、飲み物の原価は安いので手っ取り早く利益を出すなら、それもありだろう。
モーニングの文化はなさそうだし、飲み物代だけでトーストが無料で付けば人気が出るかもな。
1個200円する卵は日本より高くて、ゆで卵は無理かもしれないが……。
異世界にある食材で飲食店を開くとなれば、あまり冒険は出来ない。
その辺は沙良も考えてメニューを決めると思う。
「コーヒーもあればいいのに、紅茶しかないなんて異世界人は可哀想」
「最初から選択肢がなければ平気だろう。俺達だって知らなければ、飲みたいと思わないし」
「それもそっか~。お店が繁盛して、お母さん達が元気になるといいね!」
旭も何か気付いていたのか、言いながらニコニコと笑う。
確かに閑古鳥が鳴くような店じゃ、せっかく従業員として雇っても母親達は安心出来ないだろう。
開店後は、俺達も客として行った方がいいかもな。
そんな事を思っていたが……。
日曜日。
炊き出しを手伝ってくれた母親達と子供達を引き連れ、契約した店へ向かう。
「今日は、お手伝いありがとうございます。皆さんには住み込みで、このお店の従業員となり働いてもらいますから、よろしくお願いします。まずは店内の掃除から始めましょう!」
そこで沙良から予想外の提案をされた母親達が一瞬ぽかんとなり、次に驚いて声を上げた。
「えっ!? この店に住み込みで雇ってもらえるんですか?」
「はい、頑張って下さいね」
「ありがとうございます!!」
口を揃えて感謝する母親達は頭を下げ、目には涙を浮かべている。
店内と2階の部屋を使えるよう掃除したあと、汚れた体を洗えるように沙良が店内の物を全て収納し、大きな盥を5個出した。
沙良は、これから店で出す料理を作るそうだ。
盥の中に魔法でお湯を張り、母親達に子供を洗わせる。
子供の年齢は5歳なので、大きな盥で充分風呂代わりになるだろう。
俺と旭は石鹸で洗い終わった子供達を、シャワー状の魔法で洗い流してやった。
子供達が綺麗な状態になる頃、よく知る匂いが店内に漂う。
うん? これは異世界にない醤油を使った料理じゃないか?
盥の残り湯を店の裏庭に捨て、収納したテーブルと椅子を出した沙良が料理を運んできた。
料理を見た瞬間、旭と顔を見合わせる。
沙良が考えたメニューは『肉うどん』だった!
本当に、それで大丈夫なのか?
「どうぞ、試食してみて下さい」
沙良に促された母親達は、見た事もない料理に目が点になっている。
箸の使えない母子達は、恐る恐る『うどん』をフォークで掬いながら食べ始めた。
「もちもちしてる~。お肉の味が美味しいよ!」
未知の味に子供達が反応する。
「あらっ、とても不思議な食感がするわ。それに、塩じゃない味が……」
「でも、凄く美味しいです!」
母親達は不思議そうにしていたが、その味には満足したようで全員完食していた。
少し遅れて子供達も残さず食べられたようだ。
今食べた料理を店で出すと聞いた母親達の顔が、真剣な表情に変わる。
自分達が働く店で出す料理が、受け入れられるか検討を始めたんだろう。
飲食店では清潔さが求められるため、沙良は母親達が毎日体を洗えるようにファイアーボールの魔石を幾つか渡した。
厨房に設置した魔道調理器で業務用寸胴鍋に湯を沸かせば、大人には少し狭いが盥の中で体を洗える。
ファイアーボールの魔石は、ダンジョンでファイアースライムを倒せばタダで手に入るから薪を使用するより経済的だ。
詳しい内容は明日話す事にして、俺達は店を出た。
翌日月曜日からはダンジョンの攻略を休み、店の開店準備に充てる。
短期間で『肉うどん』の作り方と接客方法を学ぶ母親達は大変そうだが、皆生き生きと楽しんでいるように見えた。
沙良は従業員の給料を1ヶ月銀貨5枚(5万円)と決め、先払いで払うらしい。
住み込みで子供と一緒に働ける環境などないから、金だけ持って逃げられる心配はしなくて済む。
そして肝心な『肉うどん』の価格は、鉄貨7枚(700円)に決定した。
塩を振って焼いただけのファングボアの串焼きが、鉄貨5枚(500円)で売られているのを考えれば妥当か?
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