椎名 賢也 123 『ダンクの想い 2』
翌日。
親父の傍で目覚めた俺は、腫れあがった目をポーションで治してからテントを出た。
そして昨日、ケンヤから提案された話を思い出す。
彼は全身石化した状態を治療出来るかも知れないと言っていたが……。
エクスポーションでは治らないコカトリス・クイーンの石化を元に戻せるのは、ケンヤとナオトくらいだろう。
しかし全身となると、教会の枢機卿クラスでなければ不可能だ。
俺には枢機卿と会う伝手もないし、法外な値段を要求されると分かっているから諦めていた。
だが、もしそれが可能なら試して欲しいとお願いした。
本当は治癒術師としての腕を隠しておきたかっただろうに、そう言ってくれたのだ。
勿論、治療した人間を秘密にするという条件を呑んださ。
サラちゃんは優しい子だからな。きっと兄に、お願いしてくれたんだろう。
朝食を済ませてから、俺は両親のパーティー全員の遺体をマジックバッグに入れて、メンバーと共にダンジョンを出た。
治療する約束は金曜なのでメンバーに休暇を与え家へ戻る。
あまり期待しないように駄目だった時の事も考えながら、お墓の準備をした。
母さんは白くて可愛らしい花が好きだったから、お墓の周辺に植えておこう。
家に居る時間は少ないし、手間のかからないシロツメクサにしよう。
親父が冒険者として稼いだ金で建てた大きな一軒家を見渡し、殺風景な庭を眺める。
建てたばかりの家に両親が住んだのは数日だった。俺のほうが長く住んでいる。
「冒険者を引退したら、庭に果物の木を沢山植えるのよ」と、笑っていた母さんの顔を思い出す。
それまで住んでいた家には庭がなかったから、楽しみにしていたな。
雑草が生えた庭を見たら悲しがると思い、俺は放っておいた草を抜き始めた。
庭に草がなくなった頃、日当たりの良い場所に墓石を埋める。
名前は、まだ刻んでいない。その周辺にシロツメクサの苗を植えて水をやった。
金曜日まで家の大掃除を済ませ、一室の床に毛布を敷き詰め両親達を横たわらせる。
そうしてサラちゃん達が訪れるのを待った。
呼び鈴の音がした瞬間、急いで玄関の扉を開け3人を招き入れる。
それから両親達の遺体がある部屋へ案内して、ケンヤとナオトが治療する様子をじっと見つめた。
緊張で喉が渇き手には汗をかいていたが、その場から動かず経過を見続ける。
ケンヤは母さんを、ナオトは親父の治療に当たっていた。
ケンヤが母さんに触れた部分の肌色が戻っていく。
それを見た2人が顔を見合わせ頷いたので、否が応でも期待が高まった。
生き返ってくれ!!
それから僅か数分で、母さんの体全体が肌色に変化する。
治療を終えて立ち上がったケンヤを見た瞬間、俺は走り出していた。
もっとよく見ようと膝を突き、視線を合わせるように屈みこむ。
硬質で灰色だった肌は、柔らかく自然な色に戻っている。
今にも動き出しそうだとドキドキしていると、母さんの両目が開いた。
あぁ、感謝します!
俺は感極まって母の体を抱き締め、大粒の涙を零した。
そのまま体温がある体をぎゅっと抱き続ける。
母さんが生きている! ずっとずっと会いたかった!
「え? ちょっと、あなた誰? この変態! 寝てる間に何しようとしてるの!」
しかし、その感動は一瞬のうちに途切れた。
目覚めた母に不審者扱いされ、思いっきり強く平手打ちをされたからだ。
20歳も年がいった息子の顔が分からないのは理解出来るが、この仕打ちは酷い。
かなり痛いぞ……。
「俺だよ、息子のダンクだって!」
分かってもらおうと、頬を押さえながら焦った声を出す。
しかし、続いて目覚めた親父からも険呑な気配を感じて泣きたくなった。
「俺達に自分より年上の息子がいるわけないだろ! 息子のダンクは、まだ20歳だ!」
「いやだから、俺の顔をよく見ろって。親父達がダンジョンから帰還しないまま20年経ってるんだよ!」
「はぁ? 何をわけの分からない事を言ってるんだ」
「ちょっと顔をよく見せてちょうだい」
聞く耳を持たない親父と違い、母さんが俺の顔をまじまじと見て考え込む。
「う~ん、息子に似てるような?」
確信は持てないのか、疑問を浮かべた表情に困って、
「あぁそうだ、俺が息子だって分かる話がある。親父ごめん。俺が15歳の時、初めて王都へ連れて行ってくれたよな。母さんには内緒だって、綺麗な女性達がいたあの高級店……、店の名前は確か『蝶……』」
「お前、それ以上言うな!」
つい母には秘密にしていた、親父との約束を破ってしまった。
俺は最後まで店の名前を言う前に、親父に口を塞がれる。
聞いた母さんの顔が見る間に怒りを湛えたものに変化したのを見て、しまったと後悔したが遅い。
なんで息子だと証明する話を、もっとよく考えなかったんだ……。
幼少期にいたずらした事や失敗談でもよかったのに……。
あわや夫婦喧嘩勃発かと思われた時、サラちゃんが間に割り込んでくれた。
「ちょっといいですか? 事情を説明したいんですけど……」
見知らぬ少女の姿を見て母が一瞬目を瞠り、父と視線を交わした。
話を聞く態勢になったようで、ほっとする。
それから彼女がこれまでのいきさつを説明する間に、ケンヤとナオトは他の4人の治療を済ませていた。
目が覚めた4人が両親の元に集まり、一緒になって話を聞いている。
大体の事情が分かったところで、治療したのが誰かという事を秘密にすると約束してくれた。
彼らが最後に覚えている記憶は、コカトリスの討伐中に治癒術師だった母さんが石化されて、守ろうとした場面らしい。
最初に治癒術師の母が石化されたため、全員治療を受けられず石化が進んでしまったようだ。
サラちゃん達が家を出たあと、母さんが真剣な表情でメンバー全員に治療した人物を絶対に口外しないよう何度も言い含めていた。
「しかし、20年も眠ったままだなんて急に言われても信じられないな。息子のダンクが成長している姿を見れば、嘘じゃないんだろうが……。お前達も戸惑っているだろうが、これからの事は明日改めて話そう。今日は一旦解散だ」
リーダーからの一言で両親のメンバーは、それぞれの家に帰っていった。
そして残された俺達はというと……。
「あなた、私達は少し話し合う必要があるみたいね」
目を吊り上げた母さんに耳を引っ張られ、親父は寝室に連行されていった。
俺にとっては20年以上も前の出来事だが、母さんにとっては見過ごせない一件らしい。
社会見学だと言い、親父が連れて行ってくれた店は、そこまで不健全な店じゃなかったんだが……。
お触り禁止で、綺麗な女性が酒を注いでくれるだけの店だ。
その分エール1杯の値段が高くて、ぼったくりかと思った。
親父は若い女性にちやほやされて鼻の下を伸ばしていたけどな……。
俺も話したい事が沢山あったが、夫婦喧嘩に巻き込まれるのは避けたい。
話し合いが終わるまで待っていよう。
30分後、部屋から出てきた親父の両頬には手形の痕が残っていた。
治癒術師の母さんが治療しないのは、許す気がないからだろう。
親父、本当にごめん。俺の失態だ……、だからそんなに恨めしそうな目で見ないでくれよ。
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