椎名 賢也 120 迷宮都市 地下12階 最後の攻略週&ケリーさんの父親 1
月曜日。
ダンジョン地下12階の安全地帯に到着して、今週で最後となる攻略階層を思う。
ランダムで生る桃を見付けるのは、お宝を探すようで楽しかったが地下13階にも同じような果物があるだろうか?
きっと沙良がマッピングを駆使して発見しそうだな。
森のダンジョンが続く限り、階層ごとに果物が生るのは変らないような気がする。
きっとダンジョンにも法則のようなものがあるに違いない。
そう思いながら、沙良と旭と別れ桃を探しに行く。
異世界で感知能力が開花したのか、俺は魔素のようなものを感じ取れるようになっていた。
感覚を広げれば不思議と桃が生っている場所が分かるのだ。
見付けるには便利な能力だが魔物の居場所は分からず、役に立つんだか立たないんだか大いに悩むところだ。
同じように魔物も感知出来ればいいんだがな。
今のところ、視認した瞬間にライトボールで倒しているから問題ないが、魔法の効かない魔物が出てきた場合は対処のしようがない。
時間のある時にでも、旭から剣を習っておくべきか?
異世界に召喚されると分かっていたら、父に鍛えてもらったのに……。
妹の茜に教えてもらうのは、兄としてのプライドが邪魔をして考えられなかった。
考えている間に桃が生る木に辿り着き、採取を始める。
桃が傷つかないように繊細な魔力操作でライトボールを使用しているが、Lv10から上がらないのは上限に達したためなのか?
基本Lvがもっと上がれば、魔法のLv上限が解放されるのかは不明だった。
全ての桃を採取したあと、周辺の木になっているみかんを取り、沙良達と合流した。
安全地帯に戻ると、テント前に怪我人が運ばれていた。
ハイリザードマンが持っていた槍で刺されたようで、右肩が貫通しており傷口が深い。
槍が刺さったままのほうが、出血は少なく済むんだが……。
旭と一緒に革鎧を手早く脱がせ、棒を噛ませる。
俺はウォーターボールの水を大量に掛け、槍の欠片が残っていないか確認してから旭に合図を出した。
彼は軽く頷きを返すとヒールで治療を開始する。
僅か数秒で貫通していた傷口が塞がり、怪我人にお礼を言われ、リーダーから治療代を渡された。
心配そうに様子を見ていた沙良も、ほっとしたような顔になり肩の力を抜く。
大丈夫だ。俺達が居る間、死人は絶対出さない。
自宅に戻り、昼食のお弁当を開ける。
麻婆豆腐、ニンニクの茎と豚肉炒め、キクラゲの卵炒め、それに卵とコーンの中華スープが付いていた。
ピリ辛で胡麻油が利いたキクラゲは、コリコリとした食感がいい。
熱々の麻婆豆腐は白いご飯が進むな。優しい味の中華スープにほっとする。
今日も妹の美味しい料理で幸せになりながら、午後からの攻略を開始した。
この階層は今週が最後だからか、いつにもまして熱心に沙良がコカトリス・クイーンの卵を探している。
換金額が高いのもあるんだろうが、食材として幾つか確保したいようだ。
俺と旭は沙良に付き合い、コカトリス・クイーンとキングを倒しながら周囲の警戒に専念する。
途中、見掛けたリザードマン系の魔物は俺が瞬殺しておいた。
午前中に沙良が倒した魔石取りが必要な魔物の処理もしておく。
全部で12個の卵を発見した沙良は、嬉しそうに卵を撫でていたが……。
頼むから、孵化させようと考えるんじゃないぞ? きっと、その卵は無精卵だ!
2回の攻略を終え安全地帯に戻ると、ダンクさんのご両親のパーティーが居た。
そういえば、金曜日に1日だけ地下12階に来ると言っていたな……。
息子が冒険者として上手くやっているか、気になり見に来たんだろう。
今夜は地下12階の安全地帯で泊まるらしい。
沙良が夕食の準備を始めると、冒険者達もバーベキューの用意をし出す。
バーベキュー台を初めて見たダンクさんのご両親は、とても驚いた様子で息子にあれこれと質問していた。
野菜や肉を網の上で炭焼きにして食べる料理は、新鮮に映ったようで小皿にほんの少し入れられた焼肉のタレを興味深く見ている。
そして実際に口にしたルイスさんが目を輝かせ、「焼肉のタレが欲しいわ!」とダンクさんに詰め寄っていた。
それを聞いた沙良がすかさず、「銀貨3枚(3万円)です」と営業を掛ける。
「買うわ!」
ルイスさんからお金を受け取った沙良は、ほくほく顔で焼肉のタレが入った壺を渡して、バーベキュー台をプレゼントすると戻ってきた。
俺達のメニューは、シチュー、ナン、キッシュか……。
沙良がコカトリ・クイーンの卵を取り出したので、8パーティーの分も焼く心算だな。
9個出来上がったキッシュは6等分にされ、8パーティーに配られた。
受け取ったルイスさんが遠い目をしていたのは、冒険者が食べる卵じゃないからなんだろう。
「美味しいけど……勿体ねぇな」
「コカトリス・クイーンの卵だぞ?」
ジョンさんの呟きが聞こえ、メンバー達の絶句した様子に苦笑する。
地下12階を攻略中、卵が獲り放題だった沙良は換金額を気にしてないからな。
食後のデザートの時間になると、冒険者達の視線が妹に集まった。
桃の賭け事も今日で最後となる。
沙良が桃を取り出した瞬間、冒険者達の悲痛な叫び声が上がった。
あぁ最後に大穴を狙ったのか……、馬鹿な真似をしたものだ。
しかもジョンさんのパーティーまで参加していたようで、ルイスさんに拳で殴られている。
彼女は治癒術師だと聞いていたが、冒険者の女性は逞しいな。口の中が切れていそうだ。
ポーションを飲めば簡単に治る傷でも、反省を促すためにそのままの状態だろう。
「あああぁ~、俺の金が消えてなくなった!」
そんな中、ケリーさんが大声を上げて地面に崩れ落ちる。
リーダーの様子をメンバーが呆れたように見ていた。
「ケリーさん、賭け事は身を滅ぼしますよ」
沙良が忠告するようにケリーさんの肩をポンポンと叩くと、
「ん? ケリー?」
ジョンさんのパーティーメンバーの1人が、ケリーさんの名を聞き近付いていく。
「もしかしてお前の母親は、ガルシアって名前じゃないか?」
憔悴して地面から起き上がれない彼の顔を覗き込み、尋ねた。
「えっ? なんで知っているんだ?」
「それは俺が、お前の父親のハリスだからだよ!」
交わされた会話に、沙良がビックリして飛び上がる。
俺も、まさかここで親子の再会が繰り広げられるとは思わず息を呑んだ。
言われたケリーさんは、事態を把握出来ずに硬直したまま動かない。
周囲の冒険者がざわつき始めたので、ハリスさんはケリーさんの腕を持ち上げマジックテントの方へ引っ張っていった。
しかし、確かケリーさんにも石化された彼らを見てもらった筈だが……。
20年で父親の顔を忘れてしまったんだろうか?
最後まで勝ち続けたアマンダさんが集金から戻り、満面の笑みを浮かべて沙良の隣に座る。
どのくらい稼いだのか、彼女のメンバーもかなり嬉しそうだ。
リーダーが当然のように桃を口に入れている姿に、メンバー達は視線を逸らしていたが……。
長く続いた桃の賭け事は、冒険者達の阿鼻叫喚の叫び声を呑み込んで終わった。
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