椎名 賢也 118 迷宮都市 地下12階 ダンクさんの両親 2
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
また後日、ご両親がお礼を伝えたいそうなので、俺達はダンクさんの家に再訪問する心算だ。
それから5日後の金曜日。
冒険者ギルドで換金を済ませ、ダンクさんの家に向かう。
玄関の呼び鈴を鳴らすと、ダンクさんの母親が家の中に案内してくれた。
前回来た時と違い、観葉植物が置かれ花瓶には花が生けられていた。
生活感の無かった部屋には温かみが生まれ、テーブルクロスが掛けられている事で雰囲気が大分変わっている。
リビングに通され促されたテーブル席に着くと、ご両親が席を立ち頭を下げながら挨拶してきた。
「先日は、ちゃんとしたお礼も言えなくてごめんなさいね。私がダンクの母のルイスです」
「みっともないところを見せて悪かったな、助けてもらい本当に感謝している。俺がダンクの父のジョンだ」
座ったまま挨拶を受けるわけにもいかず、俺達も慌てて腰を浮かし自己紹介する。
「パーティーリーダーのサラと申します」
「沙良の兄の賢也です」
「メンバーの旭です」
お互い挨拶を済ませてから、全員が席に座った。
「今日は、治療のお礼をしたくて招待したのよ」
「謝礼が少なくて申し訳ない、家を買ったばかりで手持ち資金が減っていてな。まぁその家も20年経ってるようだが……。新築を建てたのに損した気分だ」
母親のルイスさんに続き、父親のジョンさんが口を開く。
20年前に家を建てたばかりだと聞き、それは災難だったなと思う。
家は人生で一番大きな買い物だ。そう何度も買えるものじゃない。
誰も住んでいない家は傷むのが早いと言うが、息子が住んでいたなら少しはマシだろう。
その点、俺のマンションは沙良がホームに設定すれば原状回復されるので新築同様になる。
異世界に召喚されてからの経年劣化を心配しなくて済むのは助かるな。
「私達のクランも解散しちゃったようでね。残りは、また後日渡すから少し待ってくれるかしら?」
「いいえ、残りのお金なんて要りません。兄達が治療したのを秘密にしてもらえればそれで……」
先日、治療代を受け取った他にも金を渡すと言われた沙良が困惑した様子で答えを返すと、
「駄目よ! 私も治癒術師としてある程度は治療出来るけど、全身石化した状態から治療するのは、あのお礼金では足りないわ。正当な対価を払わなければ、治癒術師の立場が低くなるでしょ? ダンジョンでMPを使うのは、それだけ自分と仲間の命を危険にする行為なの。ダンジョン価格は、その報酬として冒険者が払うものなんだから」
ルイスさんに捲し立てられるよう言われ、目を瞬いていた。
確かに彼女の言い分も間違っていない。
基礎値の低い異世界人がダンジョン内で治療するのはリスクを伴う。
限られたMP量を使用してパーティーメンバー以外を治療するには、正当な対価を受け取る必要がある。
沙良も、その理由に思い至ったのか、
「分かりました。でも無理はしないで下さい」
ルイスさんの言葉に同意を示した。
「ええ、勿論よ。私達、来週からダンジョン攻略を始めるから、1日だけ地下12階にお邪魔するわね」
「幸いダンクがクランを作ったらしいから、俺がクランリーダーに代わり地下19階を攻略する。半年潜れば金も貯まるだろう」
ダンクさんが話していた件は決まったようだ。
やはり、ジョンさんがクランリーダーを代わるのか……。
「息子からサラちゃんは料理上手だと聞いたわ。私の料理を食べてもらうのは恥ずかしいんだけど、沢山作ったから遠慮せず食べてね」
そう言ってルイスさんが席を立ち、台所に行く姿を見た沙良が、
「私も、お手伝いしてきます」
あとを追う。
良かった。異世界の固いパンを、また食べさせられるのかと思ったよ。
沙良が手伝うなら、ナンを焼いてくれるだろう。塩味のスープも改善される可能性がある。
正直、異世界の料理は口に合わないので、お礼として食べさせられるのは勘弁願いたい。
2人が食事の準備をしている間、俺と旭はジョンさんから地下19階と地下20階に出現する魔物の話を興味深く聞いていた。
地下12階までに出てくる魔物の上位種が多いようだが、新しく習得可能な魔法を使用する魔物はいないみたいだな。
魔物の名前を聞いても、特に手強そうな相手はいない。ライトボールで無双出来る魔物ばかりだった。
少しして沙良とルイスさんが料理を運んできた。
チーズナン、シチュー、ステーキがテーブルに並ぶ。
どうやら沙良がルイスさんの料理に手を加えたらしい。
これなら俺と旭も美味しく食べられるだろう。
「これはナンといいます。パンの代わりに食べて下さい。中にチーズが入っているから、熱いので火傷しないよう注意して下さいね」
見た事もない食べ物を注視していたジョンさんは、沙良にそう言われてチーズナンに手を伸ばす。
そして一口食べるなり、目を瞠った。
「なんだこれ!? めちゃくちゃ美味い! ルイスも食べてみろ」
「じゃあ、私もいただくわね」
夫が絶賛した食べ物を、ルイスさんは小さくちぎって口に入れる。
「これ本当にパンなの!? 中に入っているチーズ? が美味しいわ!」
彼女も気に入った様子で、今度はナンを大きく取り分け食べていた。
俺も冷めないうちにシチューを食べよう。
普通にシチューをスプーンで食べ始めると、
「なんか、いつものスープが白いんだが……」
ジョンさんがスープの色に躊躇いを見せながら感想を漏らす。
シチューを知らなければ、白いスープに驚くだろう。
「それ、サラちゃんが味付けしてくれたのよ」
どんな味がするかも分からないため、手を止めていたジョンさんはルイスさんの言葉を聞いて、恐る恐る口にする。続いて、ルイスさんもシチューに手を付けた。
「白いが美味い!」
「本当に美味しいわ! サラちゃん、料理上手なのね~。なんだか招待した私達が、ご馳走になってるみたいで悪いわ」
「いえ、そんな事ないです。すみません勝手に味を変えてしまって……。このシチューは、冒険者ギルド近くにある『肉うどん店』で食べられます。是非、足を運んで下さいね」
ルイスさんの言葉に恐縮しながらも、妹はちゃっかり自分の店を宣伝している。
ステーキにはスライスしたニンニクが入っており、胡椒が掛かっていた。
ニンニクの味を気に入ったジョンさんは、食材リストに追加するみたいだ。
ダンジョン内の食事は、20年前も同じなんだろうな。
3食同じメニューが半年も続くと思ったら心が折れそうだ。
まぁ、これからはダンクさんが沙良の作った料理を母親に教えるだろう。
食後に、沙良がお土産として持参したダンジョン産の果物を切り分けた皿を持ってきた。
「これは、ダンジョンの地下11階と12階で収穫した果物です。甘くて美味しいですよ」
「桃じゃないか! よく見付かったなぁ~。俺達も、一度だけ食べた事があるんだよ」
冒険者のジョンさんが目敏く桃に目を向け、感心した声を上げる。
ランダムで生る桃の存在は、冒険者に有名らしい。
今なら、沙良が奏屋に卸しているから店で買えるけどな。
「このりんごの形、可愛いわね~」
ルイスさんは、うさぎ型に切られたりんごの形が珍しいのか手に取って眺めていた。
異世界に飾り切りの文化はないんだろう。
今まで会った人達も知らないみたいで、沙良が毎回教えていた。
そのまま食べるかと思いきや、りんごを皿に戻して桃を嬉しそうに食べていた。
まっ、りんごと桃じゃ俺も桃を先に食べるが……。
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