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椎名 賢也 112 迷宮都市 地下12階 肉うどん店と製麺店の懇親会&王都 高級服店『金の鈴』の思惑

 火曜日~金曜日まで、沙良が溜め込んだ魔物の魔石取りの処理に追われ、なんとか全部を片付けた。

 その間、妹は大人しく魔石の洗浄をしていたが、俺達の手を(わずら)わせた事はそのうちしれっと忘れそうだ。

 冒険者ギルドで換金したあと、沙良が肉うどん店と製麺店に寄り、日曜日に懇親会(こんしんかい)をすると伝えに行く。

 場所は製麺店の裏庭で、教会の炊き出し後に行うらしい。

 2店舗が好調に売り上げを伸ばしているため、従業員に利益を還元しようと考えたようだ。

 従業員同士の交流も図れるから、懇親会を開くのはいいアイデアだな。

 話を聞いた従業員達は、楽しみだと言い、参加すると笑顔で答えてくれる。

 懇親会が何か分からず、きょとんとしていた子供達には沙良が、


「美味しい料理が沢山食べられるよ」


 食事会をすると伝えていた。

 

 日曜日。

 教会で炊き出しを済ませ、母親達と子供達を迎えに行き、製麺店の裏庭へ向かう。

 そこには既に10人の従業員が(そろ)い待っていた。

 沙良が店内にあるテーブルと椅子を裏庭に移動させ、4個のバーベキュー台を出して、火を起こすようお願いされる。

 俺と旭が炭にファイアーボールで火をつけると、沙良は製麺店の料理担当者に切った食材を渡して焼き始めた。

 いつの間に準備したのか、ねぎまが大量にあった。

 ミノタウロスの肉も用意されていたから、母親や子供達は初めて食べるんじゃないだろうか?

 そして取り皿には、焼肉のタレがたっぷり入っている。

 冒険者には売っていたが、店の従業員は無料なんだな。


「皆さん、お店で働いてくれてありがとうございます。今日は、肉うどん店と製麺店の懇親会です。まだ材料は沢山あるから好きに焼いて食べて下さい。それでは、お疲れ様です!」

 

 充分な数が焼き上がったところで、沙良が開始の挨拶をする。


「オーナー、ありがとうございます。私達、これからも頑張って働きますね」


「お姉ちゃん、ありがとう! 今日は、お肉が一杯だね~」


「私達も、ありがとうございます。麺打職人として誇れるよう頑張ります」

 

 従業員や子供達がお礼を述べると、


「皆さんは私の大切な従業員です。今日は、お腹一杯食べて下さいね」


 沙良は追加の材料が載った皿を各テーブルに配っていった。

 皆が待ってましたとばかりに、焼いた肉や野菜を焼肉のタレにつけて食べ出す。

 

「お母さん、このたれ(・・)? に付けると美味しいね~」


「私、玉ねぎが甘くて好き!」


「ミノタウロスの肉なんて初めて食べたわ! 美味しい!」


 母子達から声が上がり、元冒険者の従業員はねぎまに夢中だった。

 最初に焼いた材料がなくなると、皆が好きな食材を焼き始める。

 食欲旺盛(おうせい)な彼らの姿を見ながら、沙良は満足そうに笑っていた。

 俺達も冷めないうちに食べよう。

 出来ればビールを飲みたいが、子供達がいるので沙良も出すのを控えたんだろう。

 食事の間、従業員達は本当に楽しそうにしていた。

 母親の一人がバスクさんへ積極的に話しかけていたため、もしやロマンスが生まれるのか? とつい気になってしまう。

 まぁ彼と女性の年齢差を考えれば、あり得ない組み合わせだと分かるが……。


 俺にも話題を振られたが、オーナーの家族として気を使ってくれたんじゃないかと思う。

 そんな(なご)やかな懇親会も2時間で終わりを迎え、最後に沙良が配ったみかんの皮で使用した網を綺麗にする技を教えて解散となった。

 今回使ったバーベキュー台は、2台ずつ各店舗にプレゼントするらしい。

 焼肉のタレが入った壺も、沙良が秘伝だと言って渡している。

 妹が店の経営をしなかったら、こうして従業員達と関わりを持つ事もなかったと考えれば、得がたい時間だ。

 俺達が迷宮都市に馴染んでいるのは、2店舗があるおかげといってもいい。

 店に食べに来た客は、自然と美味しい料理を出す店のオーナーとして沙良の存在を認知する。

 子供達の支援をしている冒険者だと知らなくても、好意的に受け入れられる。

 エンダ達のように他領から来た冒険者じゃない限り、周囲の目を気にして俺達に不用意な接触を図る人間はいない。

 意図した事ではないが、結果的に俺達3人は迷宮都市で安全に行動出来た。


             ◇  ◇  ◇


 【金の鈴 店主】


 私は王都で30年以上続いている高級服店『(きん)(すず)』の店主だ。

 貴族からも信頼が厚く、贔屓(ひいき)にして頂き御用商人として貴族邸に呼ばれる事も多い。

 この長く続いた老舗店を守るべく息子には後を継いでほしかったが、どうしたものか息子は冒険者になると言い家を飛び出してしまった。

 冒険者なんて不安定な仕事の何がいいのやら……。


 命の危険もあるのにと最初は心配していたが、B級冒険者となってからは収入も安定したようだ。

 今は王都のダンジョンを攻略しているらしい。

 王都で有名なクランへ入ったと自慢気に報告するため家に戻ってきた時、この店の後継者は従業員から選ばなくてはならないのを残念に思ったものだ。


 店も順調だったある日。

 月1度のオークション会場で、傷一つないシルバーウルフの皮が出品された。

 迷宮都市の冒険者ギルドが、態々(わざわざ)王都でオークションにかけた最高級の逸品(いっぴん)だ。

 うちの店でも取り扱った事などない。

 これは絶対に()り落とさねばと、5枚出品された中の3枚を金貨50枚(5千万円)でなんとか確保した。


 懇意(こんい)にして頂いている侯爵や侯爵夫人のもとを訪ね、最高級のマントに仕立て上げると約束する。

 金の鈴の威信(いしん)をかけ職人に仕立て上げられたマントを着た侯爵は、冬の社交界で大きな注目を浴びマント2枚に金貨40枚(4千万円)を(こころよ)く支払ってくれ、更にはお()めの言葉を頂いた。

 店には多くの問い合わせがあったが、残り1着分のマントは侯爵の嫡男(ちゃくなん)が成人になった時用に確保しているもののため、欲しいとの要望には応えられなかった。


 これは店の目玉商品になると、冒険者をしている息子を呼び出し、迷宮都市のダンジョンでシルバーウルフを倒せないか聞いてみる。

 王都のダンジョンを攻略している息子に狩れるなら、オークションで競り落とす金額より安く入手が可能だと思ったのだ。

 息子のエンダは迷宮都市ダンジョンの情報を、一度調べてから連絡すると言う。

 この時、何故(なぜ)今まで一度もシルバーウルフの傷がない皮が、オークションにかけられなかったのか疑問に思うべきだった。


 そして1週間後。

 店に現れた息子から「シルバーウルフは迷宮都市ダンジョン地下10階の魔物で、王都のダンジョン地下12階を拠点にしている自分のパーティーなら問題なく狩れるだろう」と言われた言葉を信じ送り出した。

 あれから2ヶ月以上が経ったが、(いま)だに息子から連絡はない。

 王都から迷宮都市まで往復1ヶ月掛かるとはいえ、遅すぎはしないだろうか?

 簡単に狩れるから直ぐ戻ると言っていたのだが……。

 もしかして迷宮都市のダンジョンを攻略中、怪我をしたのかと私は不安になった。

 迷宮都市の冒険者ギルドに早馬を出し、息子へ手紙を送る事にする。

 毎日冒険者ギルドから手紙が届いていないか、店の者に確認させているがなしのつぶてだ。


 3ヶ月が経過する頃、息子から迷宮都市で自分達のクランを立ち上げたと(ようや)く連絡が届く。

 思ったよりシルバーウルフを傷のない状態で倒すのは難しく、今少し時間が必要らしい。

 私が無理をせず、来年の冬までに集めてくれたらいいと返事を出すと、息子から『ダンジョンに潜ると1ヶ月は地上へ帰還しないので、連絡は1ヶ月後になる』と書かれた手紙が送られてきた。


 しかし王都を出て7ヶ月。息子からの連絡は途絶えてしまった。

 一体、迷宮都市で何があったというのか……。どうにも嫌な胸騒ぎがして仕方ない。

 息子のエンダは無事でいるのか、焦燥(しょうそう)ばかりが(つの)っていった。

 それから(しばら)くして連絡もなく突然帰ってきた息子は、冒険者を辞めて家を継ぐと言う。

 理由は話してくれなかったが、依頼したシルバーウルフの皮を持ち帰ってこなかった事と関係しているのだろう。

 私にとっては、息子が跡を継ぐ気になってくれたなら何もいう事はない。

 これから仕事を教え込み、金の鈴を任せられるまで成長してくれるのを願うだけだ。

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読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。

応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。

これからもよろしくお願いします。

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