椎名 賢也 110 迷宮都市 地下12階 クラン『白銀の剣』の撤退 2&迎えを忘れた沙良
俺と旭が解体ナイフを試している間、沙良はコカトリスのキングとクイーンを倒し、巣から卵を回収していた。
コカトリス・クイーンの卵は大量に卵料理を作る時に重宝するので、妹は食材として逃したくないんだろう。
まぁ肉も美味しいし、鶏肉の代わりに使用出来る。魔物肉は高Lvになる程、美味くなっていくのだ。
豚肉として食べているハイオークも、上位種が居ればもっと美味いのかも知れない。
午後から2回の攻略を終えた俺達は安全地帯に戻った。
沙良がうどんを取り出したので、夕食は肉うどんらしい。
アマンダさんとダンクさんのパーティーは、飽きずにバーベキューをするようだ。
ダンクさんはねぎまが気に入ったのか、リリーさんに作ってもらっている。
アマンダさんは、にんにくを丸ごと焼いたものが好きなようでケンさんが沢山焼いていた。
女性なのに臭いは気にならないのか?
出来上がった肉うどんを食べ、今日もデザートに沙良が桃を取り出した。
その瞬間、冒険者の視線が桃に集中して周りが騒然となる。
「サラちゃん、俺は信じてたよ~」
「ありえね~、どうやって見付けてくるんだ!」
「3回連続で負けた……」
「私は連勝だよ。負けたやつは金出しな!」
どうやら桃の賭け事を再開したようで、3回連続負けたケリーさんが肩を落とし、パーティーメンバーから睨まれていた。
そしてアマンダさんのパーティーは、全員勝ったのか満面の笑みを浮かべている。
相当儲かったらしいが、怖くて金額は聞けなかった。
沙良が冒険者達にみかんを配り、桃を剥き始める。
それを見たアマンダさんが、ちゃっかり隣をキープして皿に置かれた端から食べていく。
気付いたケンさんが、袖を引っ張り止めさせようとしていたみたいだが、彼女は無視して1個丸々食べたあと自分のみかんに手を付けていた。
余程、桃が好きなんだろう。俺もマンゴーがあったら全部1人で食べるしな。
デザートを食べながら、自然と居なくなった『白銀の剣』の話題に移る。
「あいつら3週間も粘りやがって。いい迷惑だ!」
ダンクさんが怒りを露わにして話し出すと、
「居なくなってせいせいするよ。一体、何がしたかったんだい」
続いてアマンダさんが嫌悪感を見せながら言葉を発する。
「あ~俺らのクランメンバーが言うには、昨日『白銀の剣』全員が迷宮都市を去ったらしい」
ケリーさんは知らない情報を教えてくれた。
エンダのパーティーだけじゃなく、クランごと消えたのか……。
予想より状況が好転していて安堵する。これでサリナの件も解決だ。
「クランを立ち上げて7ヶ月で撤退か? 本当、何しに来たんだろう?」
「どうせ王都のダンジョンを潜ってたやつらだ。迷宮ダンジョンを舐めてたんじゃないか?」
「ダンジョンにも格があるって知らないんだね」
リーダー達が交わす会話を聞き、ダンジョンによって魔物の強さに違いがあると分かった。
多分、最終階層が何階まであるかで決まるんだろう。
例外は旭みたいにダンジョンマスターが居た場合くらいか……。
リースナーのダンジョンは地下10階までしかなかったが、旭がメタルスライム、ハイオーガ、オリハルコンゴーレムを召喚したから、他のダンジョンではありえない強さの魔物が居た。
もし他にもダンジョンマスターがいるダンジョンがあれば、通常出現しない階層に強い魔物が居る筈だ。
迷宮都市のダンジョンは、まだ地下12階までしか攻略してないため、ダンジョンマスターが居るかどうか判断出来ない。
このまま攻略を続けて最終階層に人間のダンジョンマスターがいたら、沙良は召喚してダンジョンから出してやるんだろうか?
召喚枠は限られているので、無関係な人間を召喚するのは止めさせるべきだが……。
そんなかなり先の事に思いを馳せていると、
「王都に戻ったのなら、安心して地下12階を攻略出来ますね。ちなみに私達は、あと5週間したら地下13階へ拠点を移す予定です」
沙良が7パーティーに拠点を移動する時期を報告していた。
アマンダさんとダンクさん以外の5人のリーダーが、またかという顔をして悩み出す。
次の階層では更に魔物が強くなるので迷っているんだろう。
元々、地下10階を攻略していた冒険者だ。
3階層下の魔物を倒せる腕がなければ、諦めたほうがいい。
食事を終えた冒険者達が、みかんの皮を回収してバーベキューに使用した網を掃除する姿を見ながら、俺達はテントに入った。
エンダ達が居なくなったので、火曜日~金曜日は普段通り果物採取と魔物を倒し冒険者ギルドで換金を済ませる。
その後、製麺店で売上の確認をすると、うどんは毎日完売しているようで従業員の顔色がいい。
沙良が常備品のポーションを追加する必要があるか尋ねていたが、怪我をした人はいないそうだ。
バスクさんに、りんご、みかん、桃を20個ずつ渡して店を出る。
次に向かったのは肉うどん店で、沙良が何かを伝えに行くらしい。
店内に入ると、母親達が夕食の後片付けをしているところだった。
「オーナー、今日はどうされたんですか?」
「シチューの販売時期が過ぎていたのを忘れてました。すみません、冬季限定だったのに……」
そう言って謝る沙良に、
「いえ、女性客からシチューを冬季だけじゃなく、店のメニューにしてほしいと要望が多くあったので、私達からは言わなかったんです。日曜の炊き出し160人分に比べたら50食なんて、大した量じゃありませんから」
母親の1人が笑顔で答えた。
「じゃあ、シチューは店の定番メニューにしても大丈夫ですか?」
「はい、売り上げも上がりますし。私達も、その方がいいです」
「では、よろしくお願いしますね」
俺もすっかり忘れていたな。
肉うどんだけじゃ客も飽きるだろうから、シチューも選べるようにメニューとして残したほうがいい。
マジックバッグに在庫を補充し、ファイアースライムの魔石を入れたあと、沙良は子供達に、りんご、みかん、桃を2個ずつ手渡していた。
「お姉ちゃん、いつもありがとう~」
果物を貰った子供達から笑顔でお礼を言われる。
「また来ますね」
母親達に声を掛け、俺達はホームへ戻った。
沙良に居酒屋まで送ってもらい、旭と店の中に入る。
「お疲れ様~」
生ビールで喉を潤し、注文した串カツを手に取った。
「『白銀の剣』が迷宮都市から居なくなって良かった~。沙良ちゃんがサリナを気にしてたから心配事も減ったし、次の階層に行くまでもう問題は起こらないよね!」
「あぁ、そうだな。意外と早く連中が去ってくれて助かった。多分……、沙良に直接接触しようとしたのが冒険者の耳に入ったんじゃないか? 前回の事があるし、迷宮都市の住民も良くは思わないだろう」
「沙良ちゃん陰で、クラン・クラッシャーって呼ばれてるもんね」
「その渾名が今回は役に立った。子供達の支援をしている事や、美味しい料理を提供するオーナーだという事もあって、沙良は住民から信頼されている。その妹に害をなす存在は嫌われても当然だ。『白銀の剣』は自滅して、解散せざるを得なかったのかもな」
「何にしても、俺達の出番がなくてほっとしたよ」
最悪2人で彼らを片付ける算段を付けていたので、旭は手を下す必要がなかった事にほっとしている様子だった。
まぁ、俺も沙良に内緒で暗躍しなくて済んだのは良かったと思っているが……。
それから4時間経っても沙良は迎えに来なかった。こりゃ忘れられているな……。
仕方なく店を出てビジネスホテルに泊まり、翌日歩いて家まで向かう。
朝から20km以上歩くのは結構辛いが、毎週ダンジョンを駆けまわっているおかげで3時間程で辿り着いた。
やれやれ、こんな時は連絡の取れないホーム内が恨めしい。
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