椎名 賢也 105 迷宮都市 地下12階 うどんの直接販売開始&地下10階 魔物のテイム 1
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
それから沙良は毎日、安全地帯のテントに移動してエンダのパーティーが居るか確認していた。
そう簡単に諦めないようで彼らの姿が消える事はなく、俺達は移転で桃とみかんの採取だけしてホーム内で過ごす。
金曜日の夜になると、沙良がエンダのパーティーが眠りに就くまで何度も確認に行き、テントを回収して冒険者ギルドで換金を済ませる。
少し遅い時間になってしまったが、製麺店に寄り報告を受けた。
リーダーのバスクさんから状況を聞き順調だと判断した沙良が、うどんの増産の指示を出した。
今まで135食だった数を倍の270食にして、肉うどん店に卸す135食以外は製麺店で直接販売させる予定らしい。
客との遣り取りが出来れば、バスクさん達も張り合いがあるだろう。
迷宮都市では、うどんが主食として定着している。
肉うどんを食べた事がある人なら、購入してくれる可能性も高い。
妹がずっと何かを考えていたのは、これだったのか……。
在庫を補充して店を出たあとホームに戻り、俺と旭は近所の居酒屋へ向かった。
「うどんだけを売り出すなんて、考えもしなかったよ」
旭が注文した生ビールを飲みながら、ぽつりと漏らす。
「いいアイデアじゃないか? 肉うどんは毎日完売しているから、うどん好きな客が買ってくれるだろう」
「売れると思うけど、いきなり倍にして大丈夫かな?」
「そこは沙良がバスクさんに確認してただろう? 製麺するのにも慣れてきたから、増産は問題ない筈だ」
心配そうな旭を安心させるため、きっぱりと言い切る。
ただ、うどんが135食売れるかどうかは分からない。
でも妹が増産に踏み切ったのは、勝算があるからだろう。
肉うどん店で働いている母親達からリサーチしている分、俺より情報量は多いに違いない。
うどんが欲しいという要望が上がっていても、おかしくないしな。
「ちゃんと売り切れるといいね」
「そうだな。今週は『白銀の剣』を避けたが、やつらは来週もまだ居るだろうか?」
製麺店の今後について話をしたあと、エンダ達の件に触れる。
「あ~、どうかなぁ。居たら、ダンジョンの攻略が出来なくて困るよね。冒険者ギルドで薬草だけ換金した時、沙良ちゃんがしょんぼりしてたし……」
稼ぎは充分あるのに毎週の換金を楽しみしている沙良は、今日の金額を見てガッカリしていたな。
「テントまで回収したのは理由がありそうだ。もしかして、来週からは別階層で攻略する気かもしれないぞ?」
「あっ、それはありそう! エンダさん達の居ない階層なら、ダンジョンの攻略が出来るもんね」
俺の予想だと、十中八九そうなるだろう。妹は金を稼ぐ事に貪欲だ。
桃とみかんを採取してホーム内に戻った後、「暇だぁ~」と叫んでいたからな。
俺と旭がジムに行っている間、スーパー銭湯で岩盤浴をし、漫画を読んでいたが毎日だと飽きるらしい。
土曜日。
沙良は肉うどん店へ行き、母親達にうどんの販売をする事を伝えに行くと言う。
店内に『月曜から製麺店で販売開始 うどん一玉 鉄貨3枚』と書いた看板を置き、宣伝してくれるようお願いするのだと出掛けて行った。
それなら看板を見た客が、うどんの販売を知る事が出来る。
製麺店の場所も、母親達に聞けば分かるだろう。
良い方法を思いついたなと感心しながら沙良を見送り、俺と旭はレンタルショップに向かった。
そろそろ新作が出ている頃だ。
同じ作品を手に取った旭と顔を見合わせ、思わず苦笑する。
本当に俺達の好みはブレないな……。
月曜日。
地下12階の安全地帯へ行く前に、沙良がマッピングでエンダ達を確認して溜息を吐く。
「あ~、やっぱり今日も居るよ。安全地帯に寄らず、果物の採取だけしよう」
沙良の提案を受け、桃とみかんの採取をすると、
「せっかくダンジョンに来たから、地下10階で攻略してもいい?」
案の定、妹はエンダの居ない階層でダンジョンの攻略がしたいと言う。
「いいぞ、多少はLv上げにもなるしな」
了承した途端、全速力で地下10階まで駆け出す沙良を慌てて追った。
地下10階の安全地帯に到着すると、顔馴染のパーティーリーダーが挨拶に来る。
20パーティーいた内の7パーティーが地下12階に移動したので、残っているのは13パーティーだ。
「サラちゃん、久し振りだね。いつまでいるんだい?」
「それが決まってなくて……、気分次第でまた地下12階へ戻ります」
滞在期間を聞かれた沙良が、もごもごと返事する。
沙良の言葉を聞いた冒険者達は、非常に残念そうな顔をしていた。
3時間毎に治癒術師の治療が受けられる事は滅多にない。
俺と旭が居るだけで、冒険者活動の安全性が高まるから無理もないんだが……。
地下10階を攻略するのは、エンダ達が消えるまでの期間限定だ。
その代わり、この階層にいる間は怪我の治療を任せてくれ。
ホームで休憩したあと安全地帯を出て、魔物を索敵した沙良に付いていく。
ナイトメア(男性体)は沙良がドレインで昏倒させ、魔石を抜き取っていた。
次のシルバーウルフも同様に昏倒させ、首筋を槍で突き刺す。
1週間、魔物を狩れなかった沙良は意欲的に倒していた。
アウラウネは、魔石取りが出来ると張り切っていたが……。
それも植物系の魔物で、練習になっているとは到底思えない。
アラクネ(上半身が女性の体をした蜘蛛の魔物)の魔石取りは、俺にまわってきた。
本当に魔石取りの練習をする気があるのか、大いに疑わしい。
俺が妹をじっと見つめると、
「マジックキノコ以外でも、魔石取りが出来たでしょ?」
視線を逸らし、子供のような言い訳を始める。
まだ哺乳類系の魔物は無理のようだ。
3時間後、安全地帯に戻るとテント前に怪我人が居る。
旭が治療して金を受け取り、ホームに戻った。
昼食はハンバーガーが食べたいと希望を言い、てりやきバーガーセットとフィッシュバーガーを出してもらう。
しかしセットの飲み物がアイスコーヒーだったので、俺はコーラを買いにコンビニへ走った。
炭酸が苦手な妹に付き合う必要はない。
旭も買ってきたコーラを見て笑顔を浮かべ、喜んでいた。
食事を終えて2回目の攻略の最中、
「お兄ちゃん。シルバーウルフに魅了を掛けたらどうなると思う?」
「はっ!? また変な事をする心算か!」
沙良が好奇心に目を輝かせ、尋ねてきた。
「だって、テイム出来るかもしれないじゃん。そうしたら、背中に乗って草原を駆け巡るという私の夢が叶う!」
「沙良ちゃんって、結構チャレンジャーだよね~」
それを聞いた旭は興味を持ったのか、にこにこ顔で妹を見る。
「はぁ~、やってみればいいんじゃないか」
魔法が効かなくても、俺が瞬殺すればいい。
内緒で試されるよりはマシだろう。遠い目をしている間に沙良がシルバーウルフを発見した。
様子を窺っていると、獰猛なシルバーウルフが尻尾を振り、こちらに向かって来るじゃないか!
まさか、本当にテイム出来たのか!?
大人しくなったその姿を見て、沙良が恐る恐る近付き頭を撫でている。
そして、ステータスを確認したのか声を上げた。
「やったよ! テイム出来た! MPが100減ってるけど……」
こんなに簡単に魔物がテイム可能とは思わず、愕然とする。
魅了魔法でテイム出来るなんて、想定外だ。
「よし、これから貴方の名前はシルバーよ!」
「「シルバーかよ!!」」
何の捻りもなく付けられた名前に、思わず旭と声を揃え叫んでしまった。
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