椎名 賢也 103 迷宮都市 地下12階 石化の治療&地下12階に来た『白銀の剣』
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
月曜日。
ダンジョン地下12階で桃とみかんの採取を終え、昼食を取りにホームへ戻る。
炊き込みご飯、鰤の照り焼き、なすの煮びたし、厚揚げそぼろ煮が入っている和風の弁当と、豆腐、ネギ、ワカメの味噌汁を飲みながら美味しく食べていると、
「薬草採取をしている時に、エンダさんのパーティーを見掛けたよ」
沙良がしれっと報告してきた。
それを聞いて、つい嫌な予感が当たったと表情に出してしまう。
見掛けたという表現からすると、妹は直接会ったわけじゃなくマッピングで見たのだろう。
サリナの件があるから、『白銀の剣』とは距離を置きたいと思っている筈だ。
「あ~避けてきたのに、こりゃ逃げられないかもな」
「安全地帯に7パーティーが集まってるし、居場所もすぐバレそうだよ」
「なるべく穏便に帰ってほしいが……」
俺は、それほど気にしていない風を装って旭に視線を向ける。
もしエンダが沙良に何か仕掛けてきたら、問答無用で殴り倒せと言ってある。
この世界で妹を守れるのは俺達2人だけだからな。指一本、触れさせはしまい。
旭は俺の視線を受け、真剣な面持ちで頷き返した。
食事を済ませ安全地帯を出る。
沙良が索敵したコカトリス・クイーンとキングを瞬殺し、近くにある卵を見付け喜んでいた。
きっとマッピングを展開しながら、エンダのパーティーとは接近しないよう注意しているんだろう。
普段よりも移動する速度が遅い。
次に会敵したリザードマンは、俺がいち早く倒しておいた。
そしてマジックキノコを発見すると、沙良が駆け付けドレインで昏倒させる。
楽しそうに解体ナイフで魔石を取り出す様子を見て、こりゃ他の魔物を相手に練習出来るのはまだ先かと肩を落とした。
2回の攻略を終え、安全地帯に戻ってくる。
ホームで休憩を済ませ、テントから出ると怪我人が運ばれてきた。
7パーティーの内、シーナさんのパーティーメンバーだ。
4人の足や腕が石化している。
石化の状態がかなり広い範囲に渡っており、エクスポーションでは治療出来ないようだな。
石化の治療は初めてだが人数が多いため、俺も2人担当する事にした。
10Lvのヒールを使用し、石化されている腕に当てる。
すると、灰色だった腕の表面が見る見るうちに元の肌色に戻っていく。
念のため指先を動かしてもらい、石化が治っているか確認した。
火傷で壊死した細胞を活性化させるイメージで魔法を使ったが、これで合っていたようだ。
旭のほうも無事、石化の状態を治療出来たみたいでホッとした表情をしている。
しかし……、石化したまま折れたりしたら接合するのは難しいだろう。
硬くなった体は脆い。
運び込まれる間、衝撃を受けず石化した部分が全て残っていて助かった。
「治療してくれてありがとう! コカトリスの卵を見付けて、欲をかいたのが悪かったんだ。まだ、私達には手に負えない魔物と分かっていれば……」
無茶な攻略でメンバーを危険に晒した事を嘆くシーナさんから、4人分の治療代を受け取り、解体場のアレクさんから聞いた話を思い出す。
コカトリス・クイーンの石化の治療にはエリクサーが必要になるから、冒険者が狩りたがらないと言っていた。
貴族しか購入出来ないエリクサーを常備可能な冒険者は居ないだろう。
卵が欲しいと言っていたのは、危険を冒してまで取る冒険者が少ないからか……。
アレクさんは、これまで俺達が解体場に持ち込んだ魔物の状態を見て依頼してきたのかもな。
そんな事を思っていると背中に視線を感じて振り返る。
そこに立っていたアマンダさんと目が合った。
「流石、迷宮都市一の治癒術師。コカトリス・クイーンの石化を治すとは見事な腕だ」
そう言う割には俺を見る視線が鋭い気がするが……。
エンダが同じ階層に居ると聞き、神経が過敏になっている所為かと思い直す。
彼女は沙良に好意的なリーダーの冒険者だ。
勿論、引退した治癒術師の代わりに俺達を当てにしている面もあるんだろうが、本来なら同じクランメンバーしか共有出来ない情報もくれる。
初見の魔物ばかりの俺達は魔物の特性を教えてもらい、覚えていない魔法を習得する事が出来た。
そんな彼女を疑うなんて、失礼極まりない。
「石化の治療は任せてくれ、でも卵は沙良が回収するから無いかもな」
俺は頭を振って答えると、
「薬草採取だけじゃなかったのかい? 卵は狙ってないから安心おし」
アマンダさんはヒラヒラと手を振って、自分達のテントに戻っていった。
冒険者達がバーベキュー台を設置する姿を見て、沙良が早速チーズを取り出し、夕食の準備を始め出す。
今日はチーズフォンデュを披露するらしい。
一緒に購入したワインを入れ、煮込んでいる。
3人で食べるには量が多いので、冒険者達にお裾分けするんだろう。
じゃが芋を茹で、ミノタウロスのステーキとナンを焼くと、出来上がったチーズフォンデュを冒険者達に取り分け渡していた。
「あ~!! 何これ!? パンに付けて食べると凄く美味しい!」
一番に味見したリリーさんが声を上げ、片手を頬に付けながら何度もお代わりしている。
「これはチーズです。王都から運ばれるので少し高いけど、チーズフォンデュは簡単に作れるからお勧めですよ。パン以外に茹でたじゃが芋とか、お肉でも合います」
沙良の言葉を聞き、ダンクさんもリリーさんを真似てパンに付けて口に入れる。
「どこに売ってるんだ!」
「奏屋です。チーズの値段は2kg銀貨20枚(20万円)でしたよ」
「奏屋かぁ~。あそこは、ちょっと入りにくいんだよな」
「あ~確かに冒険者の格好で入るのは、やめた方がいいと思います。せめて鎧と武器は外して下さい」
沙良がチーズを売っている店を教えているが、冒険者が高級食材を扱う店に入るのはハードルが高いようだ。
俺達もわざわざ商業ギルド用の服に着替えて行ったくらいだし、地下1階の配送担当者には荷が重いだろう。
それでも7パーティーの料理担当者が作り方を教えてほしいと聞きに来たので、沙良は快く了承しレシピを伝えていた。
自分達だけ美味しい料理を食べるのは気が引ける。
同じような料理を冒険者達が作れるようになれば、皆が特をするので一石二鳥だ。
俺は茹でたじゃが芋にチーズを絡めパクついている旭を横目で見ながら、ステーキを頬張った。
食後はデザートの時間だ。
沙良が冒険者にみかんを配り、次に桃を取り出した瞬間、
「やり~!! 先週の負けを取り戻したぜ~」
「私もよ! リーダーの言う事を聞いて良かったわ」
ダンクさんとリリーさんが両手を上げて声を出す。
「まじか~、2週連続なんてありえんだろ!」
そこにケリーさんの大きな声が被さった。
「私はサラちゃんを信じてたよ! 今日も負けたやつは金出しな!」
最後にアマンダさんが満面の笑みを浮かべ、集金を始める。
採取してきたのは俺だがな……。
アマンダさんに金を渡す冒険者の人数は多く、今週も負けた人が項垂れていた。
そんな彼らの様子には素知らぬ振りで、沙良は桃を剥き始めた。
切ったものを皿に置いた端から、アマンダさんが手を伸ばす。
食べようとしていた旭が、慌てて手を引っ込め恨めしそうな顔をしていた。
アマンダさんのパーティーで料理担当をしているケンさんは、申し訳なさそうに頭を下げてきたが、俺達はいつでも桃が食べられるから遠慮しなくていいぞ。
食いしん坊の旭の事は気にしないでくれ。沙良も次の桃を剥いているしな。
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