椎名 賢也 100 迷宮都市 地下12階 ランダムに生る桃&行きつけの店
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
午後からの攻略を終え安全地帯に戻ると、沙良が夕食の準備を始める。
今夜のメニューはシチューとナンか……。偶にはビーフシチューに変えてくれてもいいんだぞ?
ホワイトシチューは正直飽きてきたんだが……。
まぁ、そうはいっても昨日バーベキューを披露したばかりだ。
早々、新しい料理を作るのは難しいんだろう。
後から合流した5パーティーはナンを初めて見るので、沙良が1枚ずつ渡していた。
「これがパン!? サラちゃん、作り方は!」
「すみません、秘伝なので……」
ナンを食べた冒険者達の質問を笑顔で躱し、デザートとしてダンジョン産の桃を7パーティーに配る。
秘伝と言われた冒険者達は、仕方ないと納得したようだった。
しかし、沙良が出した桃を見てアマンダさんが声を上げる。
「よく見付けてきたね。この森に1本しか生らない果物だよ。生る場所も毎日違うみたいで、前日にあった木を探しても翌日はないそうだ」
なんだと? そんな不思議な事があるのか?
聞いた俺は、お宝探しのようでテンションが上がる。
迷宮都市のダンジョンには、お宝が出現しないと知り残念だったが、毎日違う場所にある桃を見付けるのは楽しそうだ。
沙良がマッピングを使用すれば一発で発見出来るが、それじゃ面白くない。
探す行為に意味があるんだからな。明日、絶対見付けてやろう!
「じゃあ、今日見付けられた私は運が良かったんですね~。桃も美味しいから、得した気分になります!」
沙良の感心したような答えを聞いて、アマンダさんはいたずらっぽく笑う。
「サラちゃん達が、毎日見付けそうだと思うのは私だけかい?」
その言葉通り、俺が桃を探し当ててやるよ。
「俺も、毎日に1票!」
「私も!」
「りんごやみかんを毎日採取する冒険者なんていないから、俺も1票!」
アマンダさんの言葉に、ケンさん、リリーさん、ダンクさんが続いた。
ふっ、皆を驚かせてやろう。
そうやって冒険者達との賑やかな夕食を終え、ホームに帰宅した。
翌日から早速、俺は桃の木を探すために周囲を見渡し、魔力草を見付ける時のように感覚を研ぎ澄ませる。
そんな俺を見て沙良が何か言う前に、
「いいか。絶対教えるなよ、絶対だぞ!」
桃の木がある場所を教えないよう念押しした。
最初からどこにあるか分かってしまえば、宝探しの醍醐味がなくなる。
自分で見付けるのが楽しいんだ。
俺は勘に従い方角を定めると、一直線に駆け出した。この先に魔力草より強い何かを感じる。
30分くらい全力疾走して着いた場所に桃の木を発見し、ニヤリと笑った。
ふっ、毎日どこに生っていようとも見付けてやる。
地下12階に生る桃は俺が全て収穫してやろう。
その決意通り、その後も毎日桃の木を探し当て、単調だったダンジョン攻略にやりがいが出た。
金曜日。
冒険者ギルドで換金を済ませたあと、沙良に旭と通っていた店へ連れていってもらった。
あぁ、懐かしいな。ここは、目の前にある鉄板で食材を焼いてくれる店だ。
少し値段は高いが店内の雰囲気も良く、好きなワインが置いてある。
沙良は電子メニューに表示された金額を見て、顔を引き攣らせていた。
「なんか、お洒落な店だね~」
「ここはワインを楽しむ店だ。オーナーが毎日良い食材を仕入れるから、本日のお勧めが美味くてな。旭と仕事の帰りによく寄ったんだ」
「へぇ、私には縁のないお店だよ」
「沙良ちゃんは、お酒飲めないからね~。料理は美味しいから期待してて」
メニューを見て尻込みしている様子の沙良に、旭が笑顔で勧める。
何にしようか決めかねている妹より先に、俺はワインを1本選択した。
そのまま出てくるかと思えば、ワインクーラーに入れられた状態でテーブルの上に出現する。
へぇ、この辺はサービスが良いんだな。
一緒に出てきたオープナーを手に取り、ワインを開栓してその香りを堪能した。
「本日のお勧めコースでいいよね?」
「あぁ、同じものにしよう」
旭に聞かれ答えていると、沙良が隣から電子メニューを覗き込み、
「16,200円!?」
金額を確認して小さな悲鳴を上げる。
その後、震える声で「私も同じものでいいよ……」と呟いていた。
どうやら、沙良にとっては予想を上回る値段だったようだ。
お前の金なのに悪いな……。
俺のマンションをホームに設定したら、借金は利子を付けて返すから許してくれ。
ちなみに本日のお勧めコースの内容は、前菜盛り合わせ、国産和牛のフィレステーキ、鮑のバター焼き、きのこのポタージュスープ、パン、デザート(コーヒー付き)となっている。
今日の魚料理は鮑のバター焼きか……。
ここは毎日違うメニューなのが、気に入ってるんだよな。
「お兄ちゃん。コース料理を注文したら、《お任せ》と《お好みで》と《タイミング》ってのが出てきたんだけど何だろうね?」
沙良が電子メニューをまじまじと見て尋ねてきた。
「うん? ちょっと貸してみろ」
沙良から電子メニューを受け取り画面を確認すると、そこには確かに以前とは違う選択が表示されていた。
コースだからか? それにしては、蟹懐石を食べた時に無かったが……。
俺が、《お任せ》と《お好みで》と《タイミング》の意味を図りかねている間に、
「じゃ、《お好みで》!」
旭が何も考えず、《お好みで》を選択してしまった。
その途端、テーブルの上に前菜盛り合わせ、きのこのポタージュスープ、国産和牛のフィレ肉(生)・鮑(生)が出てくる。
あぁ《お好みで》というのは、こちらで焼き加減を調整して食べろという意味か……。
しかし、客に作らせる仕様というのはどうなんだ?
パン、デザート、コーヒーが一緒に出てこなかったのは、蟹懐石を食べた時に沙良が文句を言っていたからだろう。
手紙の人は、無駄に細かい設定をしてくれたようだ。
「旭~。《お好みで》は、自分達で焼けって意味じゃない!!」
生の状態で出てきたフィレ肉と鮑を見て、沙良が大声で旭に怒鳴る。
「ごめんね~。焼き加減だと思ったんだよ、はははっ」
怒られた旭は笑って誤魔化していたが……。
金を払って調理する羽目になった沙良の機嫌は、悪くなるばかりだ。
誰だって外食に来たのに、自分で調理したくはないだろう。
「あっ、肉はレアでお願いね」
そんな沙良の気も知らず、旭が火に油を注ぐような発言をする。
妹はそれを聞いて旭をジロリと睨み付け、次に俺の顔を凝視した。
いや俺に責任を問われても……、好きに焼いてくれとしか言えない。
沙良は溜息を吐きながらも3人分の肉を焼き、フランベするパフォーマンスを見せてくれた。
食べ終わったあとで再び席を立ち、鮑を焼いてくれる。
出て来た食材を無駄にしたくなかったんだろう。
笑顔で食後のコーヒーを飲んでいる旭とは対照的に、苦い顔をしていた。
店を出る前、無人レジに万札が何枚も吸い込まれる様子を見て、悲しそうにしていたのは見なかったフリをしよう。
《お好みで》を選択したのは旭だ。
頼むから、俺の事も同類だと思わないでくれよ。
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