第38話 最後通告
アメリア王国、イグニスター公爵家
絢爛豪華な客間には、アメリア王国でも錚々たる面子が揃い踏みをしている。
「姉上の件、失敗したって?」
豪奢な赤色の服を着た金髪の美青年が、神妙な顔で尋ねる。
「はい。ケッツァーはローゼマリー殿下殺害策謀の容疑で死罪。奴のクサール領はアキナシ家へと移譲される事が公式に決定しています」
「そんなバカな! クサール家は我ら血盟連合ギルバート殿下派の所属。没収された領地は我らの誰かに移譲されるのが筋であり、伝統ではないかっ!」
「どうやら、悪竜デボア討伐を協力したことからの恩賞のようです」
室内はまるで虫が沢山押し込められた虫篭のような騒々しさに包まれる。
「あの悪竜が倒されたというのかっ! デボアはあの勇者殿が、討伐するには命懸けとなると評価したほどの伝説の悪竜だぞっ!?」
「中央政府からフェリス公女殿下がタイタンを使役し討伐に成功した、との報告を受けております」
「あの行方が不明だったフェリス様がのぉ……」
遠い目でみる年老いた貴族に、
「もしそれが本当なら、辻褄は合う。なにせ、伝説の精霊王だしな」
同席者は次々に納得する趣旨の発言をする。
「どうだろう。ここで一つ、公女殿下も我ら、ギルバート殿下派に加えてみては?」
「儂も賛成だ。かの精霊王は強大じゃし、この王選ではかなりのアドバンテージを得る事ができるじゃろうて」
「イグニスター公、そこんとこどうなの?」
ギルバート王子の問いに、サルポ・イグニスター公爵がその角ばった顔から気色悪い笑顔を消すと、
「フェリス公女殿下は、今回の悪竜討伐後、ローゼマリー殿下への恭順を宣言しております」
「また、姉上かッ! いつもそうだ。ここぞというときに、あの女は僕の欲しいものを全て持っていく」
そう吐き捨てるギルバート王子の顔には、強烈な無念さがありありと張り付いてた。
「この件につき、宰相閣下から御言葉を頂戴しております」
皆が息を飲む中、サルポ・イグニスター公爵が書簡を右手に翳して口にすると、応接室内の空気はさらに凍り付く。
ギルバート王子も生唾を飲み込み、
「よ、読み上げろ」
動揺を隠しきれぬ口調で命じる。サルポ・イグニスター公爵は軽く頷くと、右手に握る書簡の紐を外し、読み上げ始めた。
『ギルバート王子殿下、その他、支援する皆さま方、ご機嫌麗しゅう存じます。
王選で死力を尽くすのは大いに結構。ただし、何事にも限度というものがございます。今後はどうぞ王選のルールに則った上での活動をなされんことを』
アメリア王国宰相、ヨハネス・ルーズベルト。彼だけは絶対に敵に回してはならぬ。それはこのアメリア王国内での数少ない不文律のようなもの。そして、内容からいってこの書簡は、ヨハネスからの最後通告だろう。ヨハネスという男は、常に公明正大で有言実行。やると言ったら、例え次期王位に最も近い人物だったとしても必ず粛清する。
「くそっ! もう今回のような直接的な策は使えない!」
立ち上がり、窓際までいくと、その壁を蹴り上げる。
落ち着けるように、何度か深呼吸をすると再度、サルポに向き直る。
「まあいいさ。勇者殿一行の協力は?」
「勇者様方からは、領地経営につき助言をいただいております。実現すればウエストランドの収益の大幅なアップは間違いないかと」
「順調ってわけかい。どの道、姉上には碌な領民すらいない。ロイヤルガードもあの落ちこぼれの無能だし、どうせ大した人材も集まりやしない。この勝負は領地の発展も大きなファクター。ならば僕らに負けはない」
「ええ、このまま順当にいけばギルバート王子が王位を継ぐのは間違いありますまい。今は耐え忍ぶときかと」
「わかっている。僕が王となった暁には、この屈辱、あの女に数倍にして返してやるさ」
両眼に強烈な屈辱と憤激の炎をたぎらせ、ギルバートは己に言い聞かせるように、そう呟いたのだった。
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