第36話 新たな狂信者
次の日の早朝、アキナシを出立し風猫のアジトへと向かう。
もちろん、青髪を三つ編みにしたメイドと揉み上げの長い騎士ゲラルトとは、アキナシの街で別れた。別れの際に二人に囲まれ、すごい形相でフェリス様を頼むと凄まれる。というか、あんな血走った目で頼まれてもな。あれって、もはや脅迫の域だと思うぞ。
風猫のアジトへ入ると、住民たちが一斉に跪いてくる。満足そうに頷くギリメカラから察するにあれってローゼではなく、私にしているんだろうな。
「お待ち申しておりました。我らが崇敬なる主よ」
中心にいる白髪の老人がかしこまって深く頭をさげつつ、ギリメカラの配下同様の狂信的態度を示す。心底うんざりするようなフェリスの態度からいって、こいつら、私がいなくても終始こんな感じなんだと思う。
ギリメカラめ! これって、もはやかなり質の悪い洗脳の域だぞ! というか私が欲しいのは新たな狂信者ではなく、対等な住民だ。やりにくいったら、ありゃしない。
ギリメカラに批難の視線を向けるが、得意そうに老人の態度に目を細めて頷くだけで、気づいてすらいなそうだ。
「カイ、今度は一体、彼らに何をしたのですか?」
呆れ果てたような、そしてどこか諦めを含んだ声色で尋ねてくるローゼに、
「あのな、私はただ彼らに道を示しただけで、他には何もしちゃいない(はずだ)! ホントだぞ!」
真向から人聞きの悪い主張を全否定してみたりする。
ローゼは半眼で私と風猫の住民を相互に見て、大きなため息を吐くと、
「仕方ありませんか。カイですし」
ローゼはそんな人聞きの悪いことを口にして首を左右に振る。
「そうそう。師父のやることに一々突っ込むと疲れるだけだぜ」
歩きながら怪しげな液体の入った徳利に口をつけてチビチビと飲んでいるザックが即座に相槌を打つ。
あの液体は、なんでもネメア特製の筋肉強化剤らしいぞ。ネメアはザックが私の弟子になったと知ると、弟子として恥ずかしくない強さにするといって鍛え始めた。脳筋どうし、気があうのだろう。忽ち、ザックはネメアの修行にのめり込んでしまっている。
「それではご案内いたします」
白髪の老人が先導し、住民の代表者らしき男女が私達の後についてくる。
「あんた、ほんまに何もんなんや?」
丸縁眼鏡にブカブカの服を着た【朱鴉】のTOP――オボロが、周囲のギリメカラやその配下の者達をチラチラと気にしつつも小声で尋ねてきた。
「ん? 自己紹介は既に済ませたはずだぞ。カイ・ハイネマン。元ハイネマン家の長男で、ついこの前、家を追い出された身分だ。ちなみに、そこのチンチクリンのロイヤルガード(仮)でもあるな」
「チンチクリン?」
隣で笑みを浮かべたまま低い声で反駁するチンチクリン王女をガン無視しつつも、
「ともかく、それ以上は叩いても何も出てきはせんぞ」
オボロに端的に当然の返答をする。
「いや、そういう事やのうてやな……」
口ごもるオボロにローゼが、
「彼曰く一応これでも人間らしいですよ。多分、ここにいる誰も信じてはいませんが」
まったくフォローにすらなっていない補足説明してくれた。ローゼの奴、さっきチンチクリン扱いされたのを根にもってやがるな。尻の穴の小さい奴め!
「だよなぁ。師父を人間とみなしているのって実のところ師父だけじゃねぇの?」
「同感である。というか、こんな真正の化物を下等生物扱いするなど気狂いの域である」
本を読みながらもアスタがザックの言に同意する。
「ご主人様はご主人様なのですっ!」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ!」
ファフとミュウが右手を上げてそれに続く。
「やっぱ、人やないのか」
納得したように何度も頷くオボロ。どう考えてもこれ誤解しているよな。
「人じゃないなら、何なの?」
とんがり帽子の少女、【迷いの森】の首領、アリス・レンレン・ローレライが恐る恐る確認してくる。
「私は人間だっ! ほら、お前らが好き勝手放題適当なこと言うから、童女が信じてしまったではないかっ!」
睨みつけると全員から視線を逸らされてしまう。まったくこいつら――。
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