さすがにそれは攻め過ぎじゃ?
神聖歴1919年/皇歴2004年はリーベンにとっては相変わらずの年明けとなった。
先年5月末から導入された1600馬力仕様のNE16と半寸機銃だったが、どちらにも欠点があった。
NE16は本来4千回転を目標に開発されているのだが、量産の関係でどうしても個体差が出てしまう。
その個体差を埋めようとすれば量産効率が下がってしまう。
特に4千回転という高回転では個々の部品の重量差も性能に直結するので、揃えることが求められるが、量産の現場でそこまで行うのは非常に難しい。
この問題は量産体制がまだ設計上求められた精度を出せていない事に問題があり、ある意味時間が解決してくれるはずであった。
もう一つは、軍用基準で定められた運転時間に沿った耐久性がギリギリしかない事だった。
これは設計時に利用可能な素材の問題であり、金をかけて良いならある程度解決できるが、コスト管理が厳密な平時の設計なので、そこも妥協して開発されていた。
今は戦時であり、設計時点よりも素材技術も格段に進歩している。ただ、だからと言って部品に使う素材を安易に変更する訳には行かない。
設計に当たっては材質の特性を見越しているので、特性が変われば最悪、エンジンは破損してしまう。素材を変更するには設計や製造時の組み立て指示の内容にも変更を加える必要がある。
半寸機銃にも問題があった。
半寸機銃は元来、小型軽量な軽戦車の火力を強化するために開発された機銃なので、航空機銃に求められる発射速度など備わっていない。
西方諸国の13~14ミリ航空機銃が毎分600~900発という性能なのに対し、240発でしかなかった。
彗星32型自体が短時間で無理やり詰め込んだ改造の結果誕生しているので、機銃の性能向上など時間的に求めようが無かった。
当然、彗星の欠点として暮田島でも認識はしていたのだが、機銃の構造変更など現場で出来るものではない。
一応、10月からは航空機銃として発射速度を増した専用品が供給されるようになったが、それでようやく毎分400発である。
エンジンについては陽音技師が臭気技能集団の一員として開発している新型24気筒エンジンの設計を流用して片手間に設計変更されたNE16Bへ移行することになるという。
NE16BはNE16エンジンと言いながら、実は全く別物である。
開発中の24気筒エンジンも4千回転を目標としているので、高回転に適したNE16と同じボア×ストロークの数値なのだが、掛ける予算の違いから随分な贅沢が可能になっている。
そのおかげでNE16では実用に耐えなかったスリーブバルブやコスト上行えなかった表面処理などの実施が可能となっていた。
その成果をNE16に投入したのがNE16Bであり、24気筒エンジン用ラインを先んじて開設するため、NE16Bでは、新型エンジンN24Xと同じ部品が多数流用され、スリーブバルブ化も行われている。どう見ても別のエンジンでしかないが、細かな試験や認証を省くために、NE16の改良型という事で押し通してしまっている。
もちろん、悪い事ばかりではない。
その恩恵として、NE16Bは耐久性を重視して3千6百回転に落しながら、1750馬力を安定して発揮できるようになっている。このエンジンを搭載する彗星42型ではBa147を凌ぐ時速685kmが可能になっている。
それに引きかえ、Ba147の方は改良が進んだE型を投入しながら、13ミリ化や機体の強化によって速度が落ち、660km出かねているので、明らかに彗星有利に傾いて来ている。
ただ、ファルツ社ががバッヘムの性能低下という敵失にばかり喜んでいたという訳ではなく、Pf109の更なる改良型を送り出しており、速度の面では時速590kmと大したことが無いように見えるが、磨きのかかった旋回性能と13ミリ4丁に強化された火力は、今やBa147よりも脅威となり始めていた。それに何より、とうとう防御力にも力を入れて来たので、以前のように簡単に墜ちることが無くなっていた。
連邦軍機が容易に墜ちなくなって問題視され出していたが、半寸機銃しかない現状ではどうしようもなかった。
そんな時、次期戦闘機計画の武装チームとして臭気技能集団に参加していた楠部銃器工業の技師、客本 円行が独創的な機構を発案し、早速試験が行われることになった。
客本が考えた機構は2本の銃身を並べ、左右の装填機構を連結棒で平行連結させることで互いの反動によって装填、排莢を繰り返す事で成り立っていた。
通常の機銃がガス圧や反動とバネを用いて大きな構造体を前後させるのとは異なり、クランク上の構造物を往復運動させるさせるため、通常よりも軽く、素早く動かす事が出来た。
西方において13~14mmクラスの機銃が900発で頭打ちなのも、発射機構の構造や強度上の問題だったが、軽量で、それでいて強度も確保できる客本の構造であれば、更なる増加も可能となった。
客本式機銃の発射速度は2400発、2本の銃身があるので、1本あたり1200発である。
さらに、2本の銃身を持つにも関わらず、重量は半寸機銃と変わらない42kgしかないというのも特徴だった。
構造も比較的簡単で、それでいて強度も出せ、量産性にも優れたこの機銃はすぐさま量産指示が出て、楠部KM15航空機銃として、神聖歴1918年/皇歴2003年12月22日には早くも製造ラインが完成し、年末年始に関係なく量産が開始される事になった。
急ぎ開発されたエンジンを載せた三式戦闘機C型、通称彗星42型であったが、KM15機銃の完成によって武装の変更のために翼の改設計が行われ、KM15を左右に各1丁づつ装備することになった。
2丁搭載と聞くと貧弱に思えるが、銃身は4本あり、毎分4800発という火力を持っている。通常の機銃4丁より明らかに大きな火力なのだから、たった2丁でも問題なかったし、そのあまりにも速すぎる発射速度を支えるだけの弾数を搭載しようと思えば、2丁が限界だった。
こうして、神聖歴1919年/皇歴2004年4月ごろには、三式戦闘機D型、通称彗星43型が暮田島の空を飛び始めることになった。
パイロットたちも8ミリ機銃6丁時に近い火網を見て、彗星43型に満足顔であったという。
もちろん、リーベンのパイロットが満足しているという事は、アレマニア側のパイロットには脅威という事だった。
「この機体であれば連邦を島から叩き落せるぜ!」
そんな声がそこかしこから聞こえてくるようになった。
しかし、三式戦闘機の進化とその整備にてんてこ舞いになっている志波たちを眺める酒寄は憂鬱そうにしていた。
大々的な宣伝がなされたBa190の姿が西方で確認されたと云うのだ。とうとうリーベンはBa147も、Pf109も凌駕する戦闘機を手に入れた。
Ba190は対クリリン用に作られた機体であり、体力の限界に来ているアルピオスや開発力が低下しているゴール相手に投入するまでもないのではないか。
そうなると、Ba190がどこに現れるのか?
酒寄の目には更なる災厄が早くも映し出されているのだった。




