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王子 ふたり

 神聖歴1919年/皇歴2004年12月14日、アレマニア陸軍が誇る最新鋭機、Ba190が仕手藍空軍基地へと着陸した。


 白いBa190が着陸すると上空で彗星が警戒するように旋回し、一度宙返りした隼が着陸態勢に入る。


 Ba190が停止すると警備隊が機へと恐る恐るにじり寄り、パイロットが降りて来るのを待った。


 風防を開き、パイロットがゆっくり機体から翼へと立つとそれまで遠巻きにしていたパイロットや整備員たちが殺到して行く。



「テメェら何やってやがる。警備隊の仕事だろうが!!」


 敵機へと殺到しようとするパイロットや整備員はその声で足を止め、声がした方を向いた。


「おやっさん、目の前でダチを墜とされた奴も居るんすよ・・・・・・」


 志波がそうフォローするが、酒寄はそれに答えずに動きを止めた集団へとさらに声を張った。


「そいつを殴って満足すんのか?テメェら。それとも殺っちまうか?あぁ?」


 そう問いかけられた集団から声が上がる。


「春原が墜とされたのは確実だから、それもありっすね」


 どこか開き直ったような声。その方向をサングラス越しに酒寄が睨んだ。


「オメェは何やってんだ?私情で殺っちまうのは戦争じゃねぇ。単なる私闘だ。私闘がやりてぇ奴は今すぐ軍服脱ぐんだな。俺たちが人殺してイイのは命令だからだ。奴が憎いヤツも多いだろうがな、やってイイ事と悪りぃ事の分別ぐれぇ付けろ。戦争は国の命令だから仕方なく殺ってんだ。殺りてぇから殺るんじゃあ、ソイツは戦争じゃねぇ」


 まだ何か言いたい面々を置いて酒寄は敵機へと近づく。警備隊に囲まれ、アレマニア語での呼びかけに従って翼から下りたパイロットへと歩み寄るといきなり殴りつけた。


「営倉行きは一人で十分だ。警備隊、そう言うこった」


 周りを見回しながら酒寄はそう言って警備隊へと両手を出した。


 その後ろでは続々と着陸してくる隼や彗星の音が聞こえていた。





 神聖歴1919年/皇歴2004年12月22日、アレマニアは再誕祭攻勢として航空機による仕手藍攻撃を考えていたが、リーベンから伝えられた一つの事実に行動を止める事になった。


「まさか、第二王子だとはな。お前さん」


 酒寄は目の前の金髪碧眼の青年にそう声を掛けた。


「ああ、親や教官にも殴られたことがないよ。王子だからね」


 言葉には棘があったが、顔は穏やかだった。


「そりゃあ、良かったじゃねぇか。人の痛みってもんを理解しただろ」


 ぶっきらぼうにそう言うと、王子は笑いだした。


「あなたもなかなかに素直じゃない」


 酒寄は何も言わずに「フン」と鼻息をひとつ、顔色も変えずに見返していた。


「言葉が分かるのは誤算だった」


 そう言って横を向く酒寄に


「指示に従ったのは憧れがある国だったから。貴方には助けられた」


 そう言って貴族らしい礼をする王子だった。


「といっても、これから我が国とリーベンの間でおもちゃにされるだろうがね」


 最後にはそう言って、仕手藍には似つかわしくない綺麗にアイロンがけされた制服を着た軍人や高級そうな背広を着た連中に付き従っていく。



「良かったですね。あのまま王子を殺ってたらどうなった事やら」


 王子とお偉い一団が程よく離れたところで志波がサッと現れてそんな事を言う。


「王子かどうかじゃねぇ。俺たちゃ勝ち戦してるわけじゃねぇ、上がどんなことをやっても上手く収まるようにしとかなきゃならねえってだけの話だ」


 そう言って話題を変える。


「で、どうだった?ブツは」


「思った通りの部分と、アッチの状況が分かる部分がありましたね。連邦の燃料事情は相当悪いみたいっすよ。高品位の燃料が入手できないから水噴射が無い状態じゃあ、彗星でも余裕っすね。ガタっと速度が落ちたのはそう言うことみたいです」


 酒寄もなるほどなと思った。


「脅威であることに変わりはねぇが、分かっちまえば対策も出来るか。逆井の後送は残念だったが」


「敵の状況が分かったんで、プロペラさえ決まれば安全策とって2200馬力で量産でしょうね。0型で致命的な故障は起きてないですから。彼には新人養成を頑張ってもらいましょう」


 志波はそう報告した。酒寄もそれが妥当だろうと考えている。


 あの時の損傷機は逆井だった。そして、例の編隊は逃した敵機を追いかけて来ていたという訳だ。


  


 リーベンとアレマニアがこれで停戦するというほど簡単な話ではなく、交戦自体は続いていくが、リーベン側は防空網に穴があって、仕手藍へと侵入されるリスクを理解した。

 アレマニア側はBa190の現状を知られたというリスクを背負った事で、一時期の大胆な行動がとれなくなった。


 ただ、オイゲンによる井倉恩包囲戦は決めてのないままに続いていた。


 この頃の西方情勢も停滞といってよい状態が続いていたが、一部で変化の兆しがあった。


 ゴールは南方の拠点、アホ・ヨセヤを失っていたが、メディーックは何とか保持していた。もちろん、オイゲンが攻めきれなかった訳ではなく、アレマニアの得た情報ではただの漁村にしか過ぎなかったからだ。


 しかし、それは大きな間違いだった。


 なにせ、南方大陸とタルテソス半島によって聖海と西洋を隔てるタルテソス海峡の更に西にあったから、アレマニアはそこまで直接偵察を行わず、未開の地として認識していたという落ち度によるものだった。


 しかし、現実には戦前のわずか数年の間に開発が進んで、アホ・ヨセヤに取って代わるほどの港湾が完成していた。

 もともと聖海での勢力減退が続いていたゴールは、アホ・ヨセヤに替わる拠点を外洋に求めていたと云うのもある。


 こうしたアレマニアの失態もあって、ゴールは聖海を事実上失いながらも未だに絞殺されるには至らず、何なら、アルピオスに資源を渡す事で継戦能力を維持していた。


 そんなゴールにおいて、年を跨いだ大規模な作戦が進行していた。


 アレマニアが通航不能と考えていた山脈を越えて、直接アレマニア本土を攻撃するもので、王室保養地であったウンターがその目標とされていた。


 神聖歴1920年/皇歴2005年1月3日、登山道しかないはずの雪の山脈を越えて現れたゴール軍2千は警備の薄いウンター城へと容易く侵入する事が出来た。

 情報通りに、そこには第一王子が年越しのために滞在しており、彼の身柄を確保すると急報を受けて駆け付けたアレマニア軍を躱しながら撤退していった。


 作戦はそれだけにとどまらず、北ゴールからほど近いベルツへも攻勢が行われた。


 陽動の役目を担う作戦だったが、狙いもしっかりとあった。


 そこはダールマイヤー・ベルツの発足した地であり、同社最大の工場が存在していた。


 空の上では完全な劣勢のゴールだったが、警戒の薄い山岳地帯を縫って進んだことで発見されることなくベルツへと攻撃する事が出来た。

 そこで活躍したのは重量わずか5kgしかない小型迫撃砲で、実はリーベン皇国からの輸入品をコピー生産したものだった。原型となったのは楠部工業が開発した九八式重擲弾筒であり、この当時はこれほど軽量で、それでいて600m以上の射程を持つ兵器は他に存在しなかった。


 1月3日未明に行われた攻撃は、完全な小火器装備と見たアレマニア軍治安部隊が防御に徹した事で、ゴール軍決死隊は難なく砲撃に成功し、工場の一部を破壊することに成功した。


 この攻撃を見たアレマニア軍はベルツ周辺の山狩りに3万の兵力を投入しているのだが、これによってウンター城が手薄となり、第一王子誘拐を成功せる事になった。


 さらに、目標とした工場がエンジンの基幹部品であるクランクシャフト製造工場であったのも幸いして、航空機用DBエンジンのみならず、自動車用エンジンの製造にすら3カ月近い影響与える戦果を残すことになった。


 もちろん、この時点でゴールがアレマニア第二王子がリーベンに居る事など知る由もなく、その行動は想定をはるかに超えた事態を引き起こすことになった。

 

  

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