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こうなる事は目に見えていた

 神聖歴1919年/皇歴2004年9月10日、魔改造を行った百式偵察機が各種試験を終えて作戦に復帰した。


 それまでにさらに4機が墜とされ、「白い奴」がBa190であることも判明した。


「さすがにこいつの速度にゃあついて来れまいよ」


 そう笑うパイロットが粕照の偵察に飛び立ったのはその日の午後だった。


 しばらくして偵察機からの通信が入る。


「こちらトンビ、こちらトンビ、奴だ。白い奴に追われている」


 それは切迫した通信であった。魔改造百式ならば容易に振り切れる。誰もがそう考えて安心していたのだが、そうではなかった。


「くそ!現在762kmだ!それでもついて来るぞクソ野郎」


 5分後にもそんな通信が入って来た。


 降下しながらの速度だろうと基地では推察したが、たしかに魔改造百式ならば出せて不思議の無い速度だった。


「追尾している機体が減った。連中、相当無理してやがった」


 どうにか振り切れそうな通信が入って来る。


「まだついてくるヤツが居る。もう振り切れない。速度が落ちて来やがるじゃねぇか」


 中継するような通信に固唾をのんで見守るしかない状況がもう10分ほど続いている。


 こちらから何かを伝えるような状況にはないので、ただ聞いている事しか出来ない。


「振り切れない。振り切れない。クソ、連邦の白い奴はバケモンだ!」


 その通信を最後に、いくら待っても通信が入ることは無かった。


「おい、そんな事あるか?なんであんな改造機が墜とされるんだ。おかしいじゃねぇか!!」


 そう言わずにはいられない。そんな状況がそこにはあった。


 それから数日、粕照周辺の偵察は手控えられることになり、状況の分からない中での夜間爆撃のみが続けられた。


 リーベンを震撼させたBa190は確かに高速の機体であった。


 条件さえそろえば780kmも可能であり、未だ届かないリーベンの新型戦闘機と変わらない高速を誇る。


 しかし、それは非常に限られた条件内の話だったのだが、この頃のリーベンは知る由もなかった。


 そもそも、Ba190の進出が遅れたのはアレマニアの燃料事情にあった。


 アレマニアには油田は無く、燃料はエステリカにある油田からの供給に頼る状態だった。


 そもそも、Ba190の搭載するDB611は原型であるDB604よりも排気量当たり出力が高く、それを実現するためには高品位の燃料が必需品であった。


 考えても見ればDB604は48ℓの排気量で3000馬力を目標としながら、現状では2700馬力程度が限界だった。

 にもかかわらず、そこから16ℓも小さなDB611で2100馬力を絞り出すのだから、無理をしていないはずがない。

 DB604が3000馬力を達成できていないのは燃料品質の問題だった。


 同じようにDB611でも2100馬力をうたいながら実際には1800馬力程度でしかなく、更には燃料に起因するトラブルが後を絶たない状況になっていた。


 冬攻勢の頃には初期トラブルとしか認識されていなかったが、その後の運用でも一切改善されず、エンジン自体に対策をしようにも、単に出力低下を招くだけになっていた。

 重量から考えて、出力低下はV型エンジンに対する優位性を失わせるのみであり、何のメリットも見いだせないばかりか、クリリンKy3に対する劣勢さえ招いてしまっていた。

 当然だが、出力低下したエンジンでBa147より重量級のBa190を軽快に飛ばすなど出来ようはずもなくなっており、Ba147の継続生産が決定するほどであった。


 その状況を打開するため、ダールマイヤー・ベルツ社とバッヘム社では対策として低品位燃料でも水とアルコールの混合液を用いれば対策できるという研究結果から、水噴射装置をエンジンに備えて性能を向上させることにした。


 その結果、1800馬力程度でしかなかった物を、水噴射中はカタログ通りの2100馬力どころか2200馬力かそれ以上にすることも可能となり、急遽、噴射中には高過給として2300馬力近くを可能とする改良型を製作した程だった。


 しかし、好結果と共に問題も噴出した。


 そもそも、水噴射を各気筒に均等に行き渡らせる事に苦慮し、暮田島に派遣された9月の段階でも異常振動が頻発するなど、その調整に苦慮する状況が続いていた。


 9月10日の百式撃墜においても、2300馬力の出力で、しかも緩降下を用いて800km近い速度によって追い詰めていたのだが、迎撃に上がった4機のうち3機までもが異常振動やWA50(水・アルコール50)液の消費によって脱落し、射程圏まで迫って撃墜に至れたのは1機でしかなかった。


 WA50のタンクを設けるにあたって、燃料タンクを一つを潰している事で航続距離も短くなり、未だ振動問題が解決できていないために活動域は粕照周辺に限定されることになってしまっていた。

 同じシステムをBa147に導入した場合、1750馬力で690kmと、初期型よりも高速化した上に、X型ではなくV型エンジンという事で吸気系がシンプルな事から振動問題も殆ど無く、アレマニアではBa190を問題解決まで低生産に抑え、Ba147の新型を主力とする状態になっていた。


 そんな事情を知らないリーベン側では、とうとうBa190が暮田島に現れ、その上、水平速度でも740km以上で飛べる百式偵察機を容易に墜とせる性能に驚愕し、偵察飛行が低調になり、彗星43型を更に魔改造して1800馬力化する狂気の次元に突入していくことになった。


 といっても、産業基盤が弱くアレマニア頼みのエステリカの製油所では高品位燃料の生産が少ないのに対し、アレマニアに比類する技術と工業力を持ったリーベンでは高品位燃料の入手に困ってはいないので、高過給化や高回転化だけで簡単に問題を解決できるのは幸いであった。


「連邦の新型機は百式以上の速度だと?うちの新型はまだかよ!アレなら互角に戦えるだろ」


 事情を知らずにあらゆる手を尽くしてBa190に対抗しようとする玉須賀整備陣と、暮田島からの報告によって無理やり背水の陣を敷いた試験飛行チームの頑張りによって、10月初旬にはとうとう試製五式戦闘機が暮田島へとやってくることになった。


 ただ、それはアレマニアによる大攻勢と重なる事になり、未だ未完成の機体との格闘まで背負い込んだ玉須賀整備陣は死のマーチを奏でるような毎日を過ごすことになった。


 なにせ、N24Xには無理な高過給によってシリンダーやヘッドにクラックが見つかる例が散見されたからだ。


 神聖歴1919年/皇歴2004年10月10日、アレマニアの艦隊と大輸送船団がやって来て空襲が激しくなった藍牡基地では、試製五式戦闘機の整備についての激論が交わされていた。


「とにかく過給圧を落せ!そうしなけりゃ、このエンジンは持たねぇ!!」


「バカ言うな。相手は白いバケモンだぞ、そんなことやって連中を無駄死にさせる気か!」


 整備員はその整備方針で揉め、酒寄もそれを制止できる確かな情報も、確たる方針も示せずにいた。


「3か月過ぎた程度じゃあこうなるのは目に見えてたんだよなぁ」


 ただ幸いな事に、過給圧を落して2200馬力にしたところで、その優れた機体設計によって720kmは出せるので、さしたる問題はなかったし、何よりも、実はプロペラ性能がエンジン性能について行けていなかったので、出力ダウンは結果としては性能に影響していなかったと言える。

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