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056 鬼人の里②

「なっ! てめぇ何を言いやが――」

「やめい」


 私の話に再びセキと呼ばれた青年を中心に、若い鬼人たちが立ち上がろうとした。

 だがすぐに長老に制されて元の姿勢に戻る。


「なかなか良い品だ。王国の宝物庫から持ってきたか」

「はい」


 鬼人族はやはり工芸品に価値を見出す。


「ふむ……なるほど。この品であれば確かに、うちの若いものどもをそちらの領地開拓の駒として送るのもやぶさかではない」


 セキを中心とした若い鬼人たちがソワソワとした雰囲気になった。

 一方で奥に控える長老の雰囲気が、それまでの話し合いに応じていた重々しくも柔らかいものから、猛々しいなにかに変化したのを肌で感じとった。

 そのオーラは思わずムルトさんが膝立ちになり武器に手をかけるほどだった。

 そして禍々しいほどのオーラを放ちながら、長老がこう言った。


「だがな嬢ちゃん、交渉ってのは対等な立場にあって初めて成り立つもんだ」

「――っ!?」


 音の一つ一つがまるで風魔法のように放たれ、ビリビリと私の肌を震わせた。


「要するにここでお前を殺して奪っても良いってわけだ。なぁ? あんまり舐めた真似しねえでもらおうか?」

「舐めた真似……とは?」

「嬢ちゃんとその横の人間、あんたらにゃぁなんも感じねえんだ。こちらと本気でやり取りしようっていう気概がよぉ」

「気概……」

「ああ。考えが透けて見えんだよ。甘ったるい考えだ。お前らが相手にしてんのはだらだらと要らねえ会話で人生を浪費する人間じゃねえ。鬼人なんだ。てめぇの常識に押し込めた交渉なんざ受ける価値はねえ。ただの時間の無駄だ」


 鬼人の長老の言うことにまるで反論ができない自分がいた。

 再び元の穏やかな雰囲気に戻った長老から静かにこう告げられる。


「わしらは別に戦争も辞さぬ。お主らを滅ぼせばいまや無限とも言える労働力を得ることができる状況。何もかもが対等ではないのだ」


 そのとおりだった。

 ユキア殿の領地、その圧倒的な力に、どこか私が甘えていたのかもしれない。

 それっきり、この場は長老と私の交渉のテーブルではなくなってしまう。


「おら、持ってるもん全部寄越せや」

「そこの爺さんも死にたくねえなら大人しくしとけ。人間の割にゃあ年を食っちゃいるが俺たち若いのとそう変わらねえんだ」

「レインフォース領はテイマーってのがいるんだったか? なんだ? 俺のことをテイムしてみるか? できるんならな」


 奥の長老、その左右に控える風格のある鬼人たちは静かにその様子を見るだけだった。

 私に迫るのは若い鬼人たち。その相手に私もムルトさんも何も言えなくなる。


「おら。選ばせてやるよ」


 セキと呼ばれた鬼人がそう言う。


「持ってるもん全部、勉強料と思っておいてくか、ここで殺されて全て奪われるか。選べ」

「くっ……」



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「魔眼持ちは不気味だ!」と貴族家を追い出されたけど新国王も魔眼持ちのようですが……〜追放理由がばれたらまずいから戻ってこいと今更言われても、もう新国王と国を変えるために動き始めました〜


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ムルトではなくロビンでは?
[気になる点] ・ミリアについて来ているのはムルトではなくロビンです。矛盾が生じています。 ・ムルトにしろロビンにしろ、王や王の風格を持つ人に仕えるだけの能力を持っていますし、当然王族やそれに類する者…
[一言] 短ぇ
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