第2幕~2人の邂逅、姉妹~
投稿します!
一応、物語の序章的な話はここまでです。
それではどうぞ!
「っ!?」
自身の幼い姿を目の当たりにし、茫然とする鈴々。
その姿が見えなくなった頃にようやく正気に戻った。
鈴々は、幼い自分を追いかけようと一歩踏み出したが、その足が止まってしまう。
「・・・」
鈴々の中に迷いがあった。この世界の自分と会ってもいいのかどうか・・・、そんな迷いが。
理屈ではなく、本能が幼い自分に会うことを拒んでいた。
「・・・べ、別に、焦って会うこともないよね!」
鈴々は、半ば自分に言い聞かせるように呟く。
「もうすぐ日も暮れるし、あの子はきっと、麓の山に住んでるはずだから焦って探す必要も・・・あはは・・・」
そう理由を付け、ひとまず宿を探すことに決めた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
宿はすぐに決まり、飯屋で夕食(軽く5人前)を済まし、その日は早々に寝てしまうことにした。
今日1日、いろんな出来事があり、その心労も重なり、鈴々は、布団に潜るなり泥のように眠り着いた・・・。
※ ※ ※
翌日・・・。
「うにゃぁ・・・寝過ごしたのだ・・・」
時刻はお昼過ぎ、起床にはあまりにも遅い。
慌てて身支度を整え、宿を後にした。
「・・・」
結局、何も決めることができず、無言のまま村を歩いていく。
「?」
すると、とある大きな建物の一角に人だかりが出来ていた。
「何だろ・・・」
鈴々の記憶では、この建物は庄屋だったと記憶している。庄屋の庭先には、その庄屋の主人と武装をした役人達が並んでいた。
鈴々は、野次馬の1人のお婆さんに話を聞いて見た。
「何でも、これからお役人に鈴々を捕まえてもらうんだとか」
「えっ!?」
鈴々は耳を疑った。
一瞬、自分のことかと錯覚したが、そうではなく、すぐにこの世界の鈴々のことだと理解した。
「何でも、この間の壁の落書きに堪忍袋の尾が切れたんだとか。本物の山賊には怖がって手を出さんくせに」
そのお婆さんは刺々しい表情で言い放った。
「落書きって・・・」
鈴々はそんなことしない! ・・・と、否定したかったが・・・。
「(う~、昔の鈴々なら絶対やってるのだ・・・)」
否定しきれない自分が情けなくなった。
「(でも、このまま役人に捕まったら・・・)」
殺されることはないが、それ相応の罰が降るのは明白。もし、万が一、その役人を返り討ちにした日には・・・。
その時は、本格的に役人に手配がなされ、その地を追われ、命を狙われ続けることにもなりかねない。
「(もう、会ったらまずいとか、そんなこと言ってる場合じゃないのだ!)」
助けなければならない。この世界の自分自身を・・・。
そう考えるや否や、鈴々の身体が動いていた。
「ちょっと待った!」
「庄屋殿」
その時、自分と同時に声をあげた人物がいた。
「(愛紗?)」
「お前は昨日の・・・」
その人物は関羽だった。
2人はその場で暫し見つめ合った。
「何だ? 何か用か?」
庄屋が訝しげな表情で2人で尋ねた。
「あの、えーっと・・・」
鈴々は、前に出たものの、どうやって鈴々の捕縛を阻止するか考えてなかった。まごまごしていると、関羽が先に口を開いた。
「あー、コホン! 私は旅の武芸者で、名は関羽、字は雲長と申す。聞くところによると、鈴々なる者は、大人でも手に余る暴れ者だとか。万が一、深くを取ってお役人達に怪我でもあっては大事です。ここは我らに任せてみてはどうでしょう?」
「そ、そうそう! 私達に任せてよ!」
関羽がそう説明し、鈴々がそれに便乗した。
「お前達が?」
庄屋は、値踏みするような目付きで2人を覗いた。
「腕には些か覚えがあります。いくら腕が立つと言っても所詮は子供。遅れを取ることはありません」
「私も腕には自信があるよ!」
「ふむ・・・」
庄屋と役人を束ねる者が何やら耳打ちで話し合う。数分程話し合うと・・・。
「まあ、ここは任せてみるのも一興ですね。いいでしょう。あなた達に任せてみるとしましょう」
「ありがとうございます。必ずや捕まえて御覧に入れましょう」
「任せて!」
こうして、関羽と鈴々は、この世界の鈴々を捕まえることになった。
※ ※ ※
道中・・・。
「お主とは昨日会ったな。何も一緒に来ずとも、私1人に任せてもらっても構わないのだぞ?」
「いいのいいの。だって、あの子を放っておけないんだもん」
鈴々と関羽は共に目的の山に向かっていた。
話しをしながら進んでいくと・・・。
「むっ、一本杉か。確かここを・・・」
「左だよ。早く行こ」
鈴々は足早に前を歩いていった。
「お主、随分と詳しいのだな」
鈴々にとって、ここは故郷であり、この山は庭も同然なので、道程はよく理解していた。
一本杉手前に差し掛かったところで、鈴々は足を止めた。
「? どうした?」
関羽が声をかけた。
「気を付けて。危ないよ」
その鈴々の言葉と同時に頭上から石つぶてが飛んできた。
ギィン!!!
鈴々と関羽は飛んできた石つぶてを手持ちの得物で防いだ。
「ここから先は、鈴々山賊団の縄張りだ! 役人の手先は一歩入れないぞ!」
一本杉の上から男の子が現れ、篭に目一杯入れた石つぶてを次々と投げつけてきた。
「こ、こら! そんな物を投げたら危ないだろ!」
投げつけてくる石つぶてを得物で叩き落としていく鈴々と関羽。
「もう・・・、石なんか投げたら危ないで、しょ!」
ドォォォン!!!
鈴々は、その蛇矛を地面に力強く叩き付けた。すると、その振動が一本杉にも伝わり・・・。
「わ、わ、わ、わぁぁぁっ!」
揺れたことによりバランスを崩し、男の子は杉から落下した。
「ととっ、危ない危ない」
落ちてきた男の子を鈴々はすかさずキャッチする。
「ふう、助かった~」
地面に落下しなかったことに安堵する男の子だったが・・・。
「もう、あんな高い杉に昇ったら危ないでしょ」
メッと言いながら男の子のおでこに軽くデコピンをする。
「大丈夫。私達は役人の手先じゃないし、あの子にひどいこともしない。だから、ここを通してね」
優しく笑顔を浮かべると、鈴々はそっと男の子を地面に降ろした。
「さっ、早く行こ!」
ニコッと関羽に笑顔を向けた。
「あ、ああ・・・(以前にも見たが、何という膂力だ)」
関羽は困惑気味に返事をした。
そう言って、鈴々と関羽は山を登り始めた。
※ ※ ※
しばらく山を登っていくと・・・。
「む?」
狭い山道の前方に4人の子供達が現れた。
「やーいやーい! ここまで追いでー!」
「バーカバーカ!」
「年増!」
「貧乳!」
子供達は思い思いに悪口を叫び始めた。
「年増?」
「貧乳?」
投げかけられた言葉に鈴々と関羽はカチンと頭に来た。
「だーれが年増だ!」
「貧乳じゃないのだ・・・ないよ!」
頭をプンスカさせながら子供達ににじり寄っていったが、一歩踏み出したところで、子供達の前に大量の木の葉が敷き詰められていることに2人は気付いた。
「子供にしては知恵を絞ったようだが、そんな子供騙しはお見通しだ!」
2人が同時に跳躍した。
関羽は、敷き詰められた木の葉のすぐ後ろに着地した。
「あっ、ダメ! そこは・・・」
鈴々が注意を促したが・・・。
「「「「にひひ~」」」」
子供達が悪戯顔を浮かべる。
「えっ?」
ズボッ!!!
着地した先の足場が抜け、関羽はそのまま落下した。
「やーい! 引っかかった引っかかった♪」
「バカでぇー!」
「カッコ悪い!」
ものの見事に落とし穴にハマった関羽を口々に笑う子供達。
「あれ? 1人しかいないぞ?」
もう1人がいないことに気付き、辺りをキョロキョロする子供達。
「あ~あ、あっさり引っかかっちゃった・・・」
その声は子供達の後ろから聞こえてきた。
恐る恐る振り向く子供達。
「懐かしいなー。木の葉を使った2段構えの落とし穴」
そこにはニコニコ顔で鈴々が立っていた。
鈴々はこの罠にすぐに気付き、木の葉の手前ではなく、子供達の後ろに着地した。
これは、もとの世界で鈴々が考案した罠でもあったので、そのカラクリにすぐに気が付くことができたのだ。(その時も愛紗が引っかかった)
「さて~、誰が貧乳なのかな~?#」
怒りがこもった笑顔を浮かべながら子供達のもとに詰め寄っていく。
「「「「ひ、ひいーーーーーっ!」」」」
子供達の悲鳴が山に響き渡った。
『貧乳』は、鈴々がもっとも気にしていることであり、禁句だった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
「すまない。不覚を取った」
その後、関羽を穴から引っ張り上げ、子供達にも、先程の子供同様に、役人に引き渡すことをしないことを言い含め、村へと帰らせた。
子供達を見送り、さらに山を登っていく。
登頂すること約1時間、一軒の家が見えてきた。
そして・・・。
「(見つけた!)」
山賊団の親分であり、この世界の鈴々でもある自分が、同じ蛇矛を持ち、高見に仁王立ちで立っていた。
鈴々が前に出ようとすると、関羽が青竜偃月刀で制した。
「先程は情けない姿を見せてしまった。今度は私に任せてもらおう」
鈴々は少し迷ったが、自分の知る関羽と同じなら任せても大丈夫だろうと判断し、この場を関羽に譲った。
前に数歩進み出た関羽は、地面に青竜偃月刀を突き立て、子供鈴々と向かい合った。
「お主が鈴々だな?」
関羽に真名を呼ばれ、子供鈴々は腹を立てた。
「鈴々は真名なのだ! お前に鈴々と呼ばれる筋合いはないのだ!」
「そうか、では、改めて問おう。お主は名はなんと申す」
関羽に尋ねられ、子供鈴々は持っていた蛇矛の切っ先を関羽に向け・・・。
「我が名は張飛! 字は翼徳! 寝た子も黙る、鈴々山賊団のおやびんなのだ!」
高見から跳躍し、関羽の傍に飛び降りた。
「子分達の仇、10倍にして返してやるのだ!」
そのまま飛び込み、その蛇矛を関羽に振るった。
ガキン!!!
「ぐっ!」
関羽はその一撃を受けると、すべるように後方に弾かれた。
「(すごい力だ! 力押しでは少々分が悪いか・・・)問答無用か。ならば、身体でわからせる他はないな!」
今度は関羽が子供鈴々に飛び込んでいった。
ギィン!!!
両者の得物がぶつかり、暫し、鍔迫り合いになり、そして・・・。
ガキン! ギン! ギィン! ブォン! ガキィン!!!
何合にも亘り、壮絶な打ち合いを始めた。
共に身体能力、反射神経、反射速度、技量が高いレベルで拮抗しており、壮絶な戦いを繰り広げていた。
賊や兵はおろか、並みの武人や武将がこの戦いを目の当たりにしたなら、違いすぎる次元に唖然とするだろう。だが、鈴々の眼からは・・・。
「(2人共、まだまだなのだ)」
関羽は能力任せ、子供鈴々は才能任せであり、技量もまだまだ。乱世を戦い抜き、その才能を完全に開花させた今の鈴々にとっては、2人は未熟に映ってしまう。
2人の戦いは均衡が崩れることなく、時間が進んでいく。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
ガキン! ギィン! ギン・・・!
2人の戦いは、決着が着くことなく、時間はどんどん進み、とうとう日が暮れかかってきた。
「「ハァ・・・ハァ・・・」」
両者共に疲れが見え始め、その動きは鈍ってきた。
「(もう見てるのも飽きてきたのだ。そろそろ止めようかな・・・)」
大岩に腰掛け、戦いを見守ってきた鈴々は、痺れを切らし、大岩を飛び降りると、ゆっくり2人の間に歩いていく。
ガッ! ギィン!
「「っ!?」」
「2人共、もういいでしょ?」
2人の間に割り込むと、関羽の青竜偃月刀を蛇矛で受け、子供鈴々の蛇矛は柄の部分を自身の腕で受けた。
「お主・・・」
「お前! 戦いの邪魔をして、何なのだ!」
毒気を抜かれた関羽とは対象に、子供鈴々は、戦いの邪魔をされたことに怒り心頭だった。
鈴々は、両者から得物が離れるのを確認し、子供鈴々に振り返った。
「鈴々・・・」
真名を呼ぶと、子供鈴々はさらに激怒し・・・。
「お前! 聞いてなかったのか!? 鈴々は真名なのだ! お前に呼ばれたくないのだ!」
その蛇矛を鈴々に振り下した。
ガツッ!!!
鈴々は、その蛇矛が当たる直前にその柄を掴んだ。そして、そのまま自身の幼い頃の生き写し・・・いや、自身そのものである自分の瞳を見つめた。
この頃の鈴々・・・、義理の姉妹と出会う前の鈴々は、物心付く前に両親を失い、その鈴々を引き取ってくれた祖父もやがて失い、その孤独からどうしたらいいのかわからず、悪戯ばかりをしていた。その空虚な心を埋めるために・・・。
この鈴々から同じものを感じ取れた。
その瞳の奥底に、深い孤独と悲しみを・・・。
この子もかつての自分と同じなのだと。
この子を孤独から解放してあげたい・・・。
この子にもう悲しい思いをさせたくない。
鈴々は、蛇矛を放し、かがんで子供鈴々に目線を合わした。
「私はね・・・」
そこまで口に出して、何と言おうか迷ってしまった。時間して数秒程考え、口から出た言葉は・・・。
「私はね、あなたのお姉ちゃんだよ」
そんな言葉だった。
その言葉に、子供鈴々は、怒りとも戸惑いともつかない感情を抱いた。
「う、嘘なのだ! 鈴々にお姉ちゃんなんていないのだ!」
実際に、鈴々に兄弟姉妹はいない。それは、本人が一番わかっていた。
だが、そう言った。
今、この子が心から欲しいのは、友達ではなく、いつでも一緒にいてくれる家族だと思ったからだ。
否定した子供鈴々の言葉に首を横に振り・・・。
「私はあなたのお姉ちゃんだよ。あなたは今よりもっと小さかったから覚えてないだけだよ」
鈴々は、咄嗟にそう説明した。
「う~、嘘、嘘なのだ・・・」
それでもまだ信じられることができず子供鈴々は、首を横に振りながら後ずさっていく。
「ほら、見て、これを・・・」
鈴々は、子供鈴々と同じ蛇矛を見せた。
「! よく見れば、その得物、張飛の物と全く同じ・・・、それにその顔、張飛にそっくりだ」
関羽がその共通点に気付いた。その言葉に聞き、子供鈴々は震えながら鈴々の顔を覗き込む。
先程は遠目で、しかも、関羽にしか目がいってなかったため、今は、薄暗かったため、顔がよく見えなかったため、子供鈴々には今の今まで気付くことができなかった。
「本当に・・・、鈴々の・・・お姉ちゃんなのか?」
その問いに、鈴々はニコリと笑い、抱きしめた。
「ごめんね。今まで1人して。もう1人にはしないから、これからはずっと一緒だよ」
その言葉に、子供鈴々の瞳からみるみる涙が溢れてきた。
「うぅ・・・、ふぇぇぇぇん!!! お姉ちゃぁぁぁぁん!!! 鈴々はずっと寂しかったのだーーーーーっ!!!」
やがてダムが決壊したように涙が溢れ、きつく鈴々を抱きしめた。
「グスッ・・・」
その光景を見ていた関羽も、その目にうっすらと涙を浮かべていた。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・
子供鈴々は、日が暮れるまで泣き続けていた。
「それにしても、鈴々にお姉ちゃんがいたなんてびっくりなのだ!」
やがて、子供鈴々は泣き止み、姉である鈴々の腕に抱きついていた。
「それにしても、張飛を見たときから気になってはいたが、まさか姉妹だったとは」
関羽も特に疑う様子もなく、その2人を見つめていた。
「ところで、お姉ちゃんの真名は何なのだ? 鈴々は張飛、字は翼徳、真名は鈴々なのだ!」
「っ!?」
その言葉に鈴々はドキリとした。
姉であるなら、当然、本当の名前を名乗るわけにはいかない。
「私は姓は張、名は翔、字は益徳・・・」
ここまでは良かった。問題なのは真名だ。真名は己の魂そのものだ。それを偽るということは、魂を偽るの同義。故に偽ることに抵抗を覚えた。だが・・・。
「お姉ちゃん?」
不思議そうな顔をしながら鈴々を見つめる子供鈴々。
だが、今さら嘘だと告げたくない。何より、この子を悲しませるようなことをしたくはない。
「(うん。そうだよね。この子を泣かすことは、魂を偽ること以上にしてはいけないことだよね)」
自分自身の中で納得をした。
「真名は、鈴鐘だよ!」
名は張翔、字は益徳、真名は鈴鐘。
この世界で名乗る彼女の名が決まったのだった。
続く
というわけで、ストックはここまでです。
これからは、週1更新を目指して頑張っていきます!
それではまた!




