後日談1
pixiv、個人サイト(ブログ)にも同様の文章を投稿しております。
ご都合主義のゆるふわ設定なので、細かいことは気にせずふんわり読んでいただけると助かります。
「今日、うちに遊びにこないか」
「え、なんで?」
英語の授業の終わりに、創介にそう声をかけられた説也は、反射的に疑問を返していた。
「説也に遊びにきてほしいから」
その答えに、特になにか理由があっての誘いではないらしい、と説也は悟る。
「おまえんちって、なんかおもしろいもんあんの?」
説也の質問に少し考えるような素振りをみせ、
「漫画が少しある」
創介は答えた。
「いいじゃん」
漫画に釣られたわけではないが、特に断る理由もなかったので、説也は創介と共に創介のアパートへ向かう。創介のアパートのある辺りは、以前よく行っていたコンビニの近くなので、見慣れた景色だ。
「赤いタンバリンの子、元気にしてる?」
説也は創介に問う。タンバリンの子というのは、以前この辺りの路上でロリータファッションに身を包みタンバリンを叩いていた少女のことだ。その少女は偶然にも、説也の片想いの相手である桜澤さんの妹だった。なので、タンバリンの子のことを考えるとどうしても桜澤さんのことを思い出して少し悲しくなってしまう。桜澤さんが既婚者だと知り、気持ちに区切りはつけたつもりだったのだが、ふと、こんなふうに思い出してしまうのだ。
「この前見かけた時、これが最後だって言ってたな。成績が落ちたらしくて、お母さんからしばらくタンバリンを禁止されたらしい」
淡々と創介が言った。
「そうなんだ。もしかして受験生だったのかな。寂しくなるな」
そんな話をしながら、コンビニに寄りジュースや菓子などを買い込んで、少し入り組んだ路地を行き創介のアパートに到着した。
「あんま、物がないんだなあ」
創介の部屋を見た説也の感想はそれだった。最低限の家具や家電しかないシンプルな部屋だったのだ。説也は、ベッドに寄りかかるようにして床に座る。
「どういう漫画があんの。見せて」
「これ」
創介は備え付けのクローゼットから漫画を出してきた。
「おー、いいじゃん」
漫画を物色していると、
「この部屋に誰かを招いたのは初めてだ」
ベッドの上で胡坐をかいていた創介が唐突に言った。
「あ、そうなの」
どう返していいのかわからず、説也は間の抜けた返事をしてしまう。
「だから、どうもてなしたらいいのかわからない」
創介が言う。
「別に普通にしてていいよ。おれは勝手に漫画読んでるから、おまえも漫画読むなりテレビ観るなりお菓子食うなり、勝手にしたら」
「そういうもんか」
「あ、お菓子食べながら漫画読まないほうがいい?」
「なんで」
「漫画が汚れるかもしれないだろ」
「ああ、なるほど」
説也の言葉に、創介は納得したように頷く。
「俺も何か食べながら読むこともあるし、別にいいよ」
もしかして、こいつ友だちいたことないのかな、そんなことを考えながら、創介の許可を得た説也は、その場に腰を落ち着け、スナック菓子の袋を開けた。
「なにしてんだ、さっきから」
「さわってる。言われたとおり、勝手にしてる」
創介は、説也のとなりに座り、後頭部の刈り上げてある部分をざりざりとさわっているのだ。
「やめろよー」
とは言うものの、説也の意識は漫画に集中していた。
「ねえ、樋口。これ今日読み切れないから借りて帰ってもいい?」
「うん」
創介の指は刈り上げ部分から、首筋に移動し、するすると動く。
「やめろって」
さすがに煩わしくなり、首筋を這う創介の手を掴んで止める。その説也の手を、創介は握り返してきた。驚いた説也は顔を横に向け、創介を見る。真っ直ぐに視線がかち合う。
「なに……」
こんなときに言うべき言葉など、説也は知らない。創介の顔が近づき、互いの唇が、ちょん、と微かにふれる。
「仲よくしてくれて、うれしい」
創介が言った。
「なんか、おれの思ってた『仲よく』と、おまえの言ってる『仲よく』って、ちょっと違うかもしんない」
言いながら、胸のあたりがなぜかきゅっとなり、説也は情けないような気持ちで笑ってしまう。
「また、遊びにきてください」
創介が真顔で言った。
「なんで急に敬語なんだよ。改まるのやめろよ」
ありがとうございました。




