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タンバリン  作者: 相沢ごはん


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4.完結

pixiv、個人サイト(ブログ)にも同様の文章を投稿しております。


ご都合主義のゆるふわ設定なので、細かいことは気にせずふんわり読んでいただけると助かります。

 タンタンタ、シャララン、シャラン、タン!

 響く音は楽しげだ。

 繁華街から少しだけ外れた夜の路上で、桜澤さんの妹さんは、ロリータファッションに身を包み、赤いタンバリンを一心不乱に打ち鳴らす。創介は右足でリズムを取りながら、それを眺めていた。説也はこない。

 タンバリンをたたき終わったらしい桜澤さんの妹さんは、肩で息をしながら、にっこりと微笑んだ。

「桜澤さんの妹さんは、どうしてタンバリンを?」

 創介が尋ねると、

「長谷部です」

 桜澤さんの妹さんは言う。

「姉は桜澤になりましたが、わたしは長谷部です」

「長谷部さん」

 呼ぶと、長谷部さんは、うんうんと頷いて、にっこり笑った。

「なにか楽器をやろうと思いまして。でも、ギターもベースも難しくてうまくできなくて。そもそも、わたし、リコーダーもうまく吹けないんですよね。できるものっていったら、シンバルかトライアングルかタンバリンしかなかったんです。それなら断然タンバリンですよね」

 ですよね、と言われても、と創介は思う。シンバルやトライアングルも魅力的じゃないか、とも思ったのだが、そのふたつはめったやたらに打ち鳴らせるタイプの楽器ではないなとも思い直し、創介は黙って頷いた。

 長谷部さんはタンバリンを軽くたたく。

「やってみると結構気持ちがいいんです。病みつきです」

 長谷部さんは、『赤いタンバリン』を口ずさみながら、再びタンバリンを打ち鳴らし始めた。


「妹さんに会ったよ」

 英語の授業の時、桜澤さんにそう言ってみた。

「タンバリンたたいてた」

「上手にたたくでしょ」

 桜澤さんは、うれしそうに笑う。

「うん」

 創介は頷いた。

 ちらりと説也のほうに目をやると、やはりばっちりと目が合った。説也は不機嫌そうな表情で、すぐに目をそらした。説也の髪の色は黒に戻っていて、すっきりとカットされていた。かっこいい髪型だ。あれは、誰みたいにしてくださいって言われた時用の練習なんだろう。創介はそんなことを考えた。


 ぼんやりと突っ立っていると、となりに誰かが立った。

「よお」

 説也だ。

「おお」

 創介も言う。

「それは、誰みたいにしてもらった髪型だ」

 他に話題もないので、とりあえず聞く。説也はそれには答えなかったが、

「この髪型は、結構気に入ってる」

 どこかやわらかい口調でそう言った。

「それはよかったな」

 沈黙が下りる。

 説也は、長谷部さんの歌声に合わせて『赤いタンバリン』を唄い始めた。長谷部さんはにっこり笑って、タンバリンに集中する。

 することのない創介は、やはり手拍子を試みる。『赤いタンバリン』を唄い終えた説也は、すっきりと笑っていた。

「ありがとう」

 長谷部さんが言う。長谷部さんはにこにこしながら、タンバリンを軽くたたいた。

「俺たち、そろそろ仲よくしてみないか」

 創介は、説也にそう提案してみた。

「はあ?」

 説也は素っ頓狂な声を上げる。

「なに言ってんの、おまえ」

「いや」

 創介は口ごもる。しかし、

「俺は、説也と仲よくなりたい」

 思ったことをすぐに口にした。

「仲よくって、どういうふうにすんの?」

 説也は、むすっとした表情で言う。

「できることからやってみたらいいですよ」

 タンタンタン、とタンバリンを軽く鳴らしながら、長谷部さんが言った。

「握手とか、ハグとか、連絡先の交換とか」

 創介と説也は、各々のポケットからスマホを取り出し、とりあえず番号とメッセージアプリのQRコードを交換してみる。

 ミイデラゴミムシとオニヤンマのヤゴが、ふたりの間でゆらゆらと揺れていた。



ありがとうございました。

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