表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タンバリン  作者: 相沢ごはん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/6

2.

pixiv、個人サイト(ブログ)にも同様の文章を投稿しております。


ご都合主義のゆるふわ設定なので、細かいことは気にせずふんわり読んでいただけると助かります。

 ロリータタンバリン少女は、今日もそこにいた。大通りから少しだけ外れた夜の路上、最近では彼女を見かけないことのほうが少ない。

 赤いタンバリンが、激しく打ち鳴らされる。

「よう」

 しゃがみ込んでその少女に見入っているキノコ頭に、創介は声をかける。茶色い髪の毛がさらりと流れ、ぱっちりと大きな二重の目がこちらを見た。

「ああ」

 説也は、無機質に声を発した。

 説也の名字は、「いのした」というらしい。井下説也。名前の字は、創介が勝手にあてていた字で偶然にも正解だった。

 英語の授業の時、創介は桜澤さんに聞いてみた。桜澤さんと創介は同じ学部だ。だから知らない人ばかりの英語の授業では、いつもとなりに座る。ふたり一組で会話をするという授業の際、友だちの少ない創介は、毎回、桜澤さんの世話になっていた。

「桜澤さん、あいつの名前って知ってる? ほら、あのキノコ」

 桜澤さんは、さりげなく創介の示す人物に視線を向け、「井下くんね」と教えてくれた。

「史学部の井下説也くん」

 いのした、と創介は口の中で呟いた。

「井下くんがどうかしたの?」

 桜澤さんに聞かれ、

「いや、別に」

 創介は首を横に振る。説也のほうを見ると、ばっちりと目が合ってしまった。説也は舌打ちをしそうな顔で目をそらす。俺は嫌われているのかな。創介はそんなことを思った。友だちになれそうな気がしていたのに。

 ロリータタンバリン少女に見入っていた説也が、すっと立ち上がった。

「樋口、スマホ持ってる?」

 唐突にそう尋ねられ、

「ん?」

 創介は思わず聞き返す。誰もが、こちらがスマートフォンを持っているものとして話を進めてくる昨今、持っているかと尋ねられたのは初めてだ。

「持ってんの、持ってないの」

「持ってる」

 てっきり番号やメッセージアプリのQRコードなどを交換するのだと思い、創介はその準備を始める。嫌われていると感じたのは、思い過ごしだったのかもしれない。そう思った。創介の心は浮き足立っていた。

 しかし、説也が尻ポケットから取り出したのはスマホではなかった。創介の目の前に、説也は指でつまんだそれを、ぷらん、と突き出した。

「これやる」

 説也は言った。

「なんだ、これは」

 創介は尋ねる。説也が創介に突き出しているのは、ストラップだった。見たこともないような妙な虫がリアルに再現されたストラップ。創介は、うげ、と思う。虫は得意ではないのだ。

「ミイデラゴミムシ」

 説也は言った。どうやら、それがこの虫の名称らしい。

「スマホケースとかにつけたらいい」

 説也は、ストラップを創介の手に握らせる。ちくちくした感触が本当の虫みたいで、創介は再び、うげ、と思った。

 それでも、せっかくもらったのだから、と創介は説也の言うとおり、それをスマホケースにつけてみた。説也に見せると、説也はゆらゆらと揺れるストラップを、ただ目で追っていた。

「どうしたんだ、このストラップ」

 尋ねると、説也は、「ガチャで。ほしいのが出なくて」と呟く。

「なにがほしかったんだ?」

「オニヤンマのヤゴ」

「ヤゴ?」

「トンボの幼虫だよ。習っただろ、小学校ん時」

 ヤゴ。トンボよりもぞわぞわする外見だった、確か。そう思い出しながら、創介はやはり、うげ、と思った。

 赤いタンバリンが打ち鳴らされる。説也はしばらくそれを眺めたあと、創介のほうを見もせずに歩いて行ってしまった。またな、と声をかけようかどうか迷っているうちにタイミングを失い、創介は黙ったままでいた。

 目の前の、ロリータタンバリン少女がにっこり笑う。

「たたきますか?」

 差し出されたタンバリンに反射で手を伸ばしかけ、創介は慌てて引っ込める。そして、首を横に振った。

「いつも、そういう格好をしてるんですか?」

 創介は少女に尋ねてみる。

「いつもはこんな格好はしていません」

 少女はにっこりと微笑んだまま答えてくれた。

「タンバリンをたたく時だけ」

「そう」

 創介は頷いて、少女の持っているタンバリンを一回だけ、トン、と指で鳴らしてみた。少女は、にこにこと微笑んでいる。

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ