旅立ち(ミラ)2
ミラの家は爵位がない平民だ。ただ昔から物に仕掛けを施し、生活をよりよくするための品を作る家系として名を上げていた。俗に言う発明家だ。両親と兄弟がいて、上の兄達は幼い頃から父に教わりながら技術を磨いていた。ミラはそんな父や兄達に憧れていて、いつかは自分も特別な発明をしたいと思っていたのだ。
「これは男の仕事だ。女のおまえが出る幕じゃない」
そう兄に吐き捨てられたのはまだ小さかった頃のことだ。兄が作った品に手を触れようものなら雷のように怒られた。泣きながら父に自分も発明家になりたいと訴えたが。
「ミラは器量よしになって貴族に見初められるようになりなさい。それが女のお前の役割だ」
「私だってもっと勉強したい。父さんや兄さんみたいになりたい」
「これは男の仕事だ」
母に訴えれば泣いていたら顔が台無しになると言われ、いよいよミラはこの家に味方がいないことを知った。
それでもミラは諦められなかった。使わない部品をくすねたり、父の持つ難しい本を辞書を引きつつこっそり読んだりと親の目を盗み独学を続けたのだ。
見かねた母が王都の学院行きを勧めたのだ。正確には学院への入学資格を得る試験を受けてみろと勧められたのだ。試験を受ければ身の程がわかるだろうと。父には将来のため、貴族との繋がりをつくるためにと理由をつけて認めて貰った。結果は合格だった。両親は渋ったものの何とか説得し、学院行きが決まった。しかし次に始まったのは村の人々からの反対だった。
きっかけは同じ試験を受けていた領主の息子が惨憺たる成績だったことか、それとも単に平民のしかも女が合格したことが気に食わなかったのか。村人に会う度に嫌味を言われ、学院行きをやめろと言われ、それでもミラは耳を貸さなかった。せっかく手に入れたきっかけを誰が手放すかとミラは思ったのだ。しかし村の井戸を使えないようにされたり、ミラの家の品を難癖つけて売れないようにされたりと家族に被害が及んでからはさすがのミラも諦めかけた。そんなある日やって来たのは領主の息子だった。
「おい、生意気女!おまえの王都行きを認めてやってもいいぞ」
「どういうことでしょうか」
「へ、おまえなんか小さい国の学校で満足してろって言ってんだよ、俺様はもっと上を目指すからな」
貴族は試験結果に関わりなく学院には行けるが、それでも噂ではこの息子相当できが悪いらしい。そんな男が何を言っているのだろうとミラは思う。勿論顔には絶対に出さないが。
「俺様は隣国の学校に行くからな!隣国は大国だからな。この国では学べないことが学べるんだ!」
「それはすごいですね」
意地の悪い笑みを浮かべ言い放つ男に感情をこめずに返してやれば彼は顔をぽっと赤くした。
「だ、だから、おまえの学院行きを認めてやる。心優しい貴族の俺様に感謝するんだな」
誰がお前なんかに感謝するか、と内心ミラは思うがこれ以上家族に被害があっては堪らない。
「ありがとうございます」
絞り出すようにそう言えば男は満足したようで去っていった。それから嫌がらせはぱたりと終わった。そしてミラは貴族が増々嫌いになった。




