悪役令嬢は流される3
「大事なくてよかったわ」
ルーナはそう言うと桃を両手にふわりとのせてくれた。
「ごめんなさい」
「もう危ないことはいけないわ」
「はい」
「さ、休憩しましょ」
ルーナに言われ川から少し離れた場所に布を広げる。桃をナイフで剥こうとしたらルーナが魔法でつるんと剥いて一口大にしてくれた。甘酸っぱい味が疲れた体に染み渡る。
全身運動を終えた体はくたくたで人目がないことをいいことに私はごろんと布に寝そべった。
「はしたないですわ」
「えー、誰もいないしルーナも寝てごらん。空が綺麗だよ」
そう誘うと呆れたようにため息をついてから同じようにして彼女も寝そべった。
青い空にふわふわとした雲が浮かんでいる。
「綿あめみたい。おいしそう」
「雲は食べられませんわ」
風が心地よい。適度な疲れが眠気を誘ってくる。これはもう抗えない。
「お姉様?」
「お昼寝の時間にする。おやすみルーナ」
あ、もう目が開けられないぞ。
「……なぜ寝る?」
ムニャムニャ、もう食べられないぞ。ん?あれ?ない?夢の中で綿あめ、スイカ、かき氷を食べていたが急に消えた、と思ったら目が覚めた。
あれ?天井がある。ここ、外じゃないぞ。体を起こして見ればいつの間にか部屋にいた。
「森のお屋敷か。でもなんで?」
いつの間に移動したのだろう。疑問はともかく夢の中では満腹だったお腹がグーと鳴った。夕食、食べ逃してないよね?
慌てて部屋を飛び出せばルーナが扉の前に立っていてぶつかりそうになる。
「うおっと、ルーナ」
「起きたのね。食事の時間だそうよ」
「やったー」
どうやらちょうど夕食時のようで起こしに来てくれたらしい。そしてルーナが河原から部屋まで運んでくれたようだ。さすがルーナ、転移魔法って便利だよね。他に使ってる人見たことないけど。ルーナにはいつも助けられてばかりだ。
そんな彼女に渡すつもりで持って来た制服のリボンを未だ渡せずにいる。この世界で初めて得た報酬で買った糸で作ったあの刺繍だ。この休暇中に渡そうと思い荷物に忍ばせてあるのだが。
再度グーとなったお腹をポンッと一度叩き、食堂へ向かった。森の恵や川魚がふんだんに使われた料理は美味しい。このままずっと休暇が続けばいいのに。毎日だらごろしていたい。
夕食後はルーナと長椅子に座り読書タイムだ。何が書いてあるか全くわからない魔術についての本をルーナは興味深げに読み進めている。一方私は小説を読んでいたが少し疲れたので栞をはさんだ。丁度ルーナも一冊読み終えたようだ。私の本の三倍分厚いけど読むの速いな。
「ルーナ、昼間は連れ帰ってくれてありがとう。昔も転移魔法で運んでくれたよね?」
「別に。それに魔法は使ってないわ」
魔法を使ってない?それってつまり……おんぶ?だっこ?お姫様抱っこ?なんだか照れてしまい顔が熱くなる。
「それよりもお姉様は警戒心がないわ。森の獣に襲われたらどうするの?」
「うさちゃんとか?」
「魔鳥とか魔熊の話をしているの」
「クマ?!熊は怖いな」
「魔鳥だって人を咥えて飛べるのよ?」
王都にいるとそんな動物を見ることはないけどここは森だった。確かに危険だ。熊よけの鈴とかあるのかな。でももしもそんな危ない状況になったら。
「そうしたら私がルーナを守るよ!」
ルーナの手を握ってそう言うとルーナが目を丸くした。
「な……」
何かを言おうとしているが言葉が出てこないようで口をパクパクさせている。そんな顔も可愛いぞ。
「あ、でも私の魔力じゃ無理かー。大きな炎の魔法を使えたら焼き鳥にするんだけど。唐揚げもいいな」
「ヤキトリ?カラアゲ?」
「あはは、なんでもないよ」
大きな魔法が使えない頼りない私が彼女を守れるはずがない。怒ったのかルーナは顔を赤くして黙り込んでしまった。




