寂しい壁(マルグリット)1
学院に入って偶然隣の席にいたのはお姫様だった。立ち居振る舞いは完璧で美しく聡明、そんな彼女にマルグリットはどうしても近づきたかった。
自分のような者が近づいてはいけないとわかっていたが、その思いを抑えることはできない。花に引き寄せられる虫のようにマルグリットはルーナに引き寄せられたのだ。
顔だけは同じ姉妹がいたが、全然違うと彼女は思う。中身が空っぽのあの女と違う。なんであんな女が姉妹なのかと憤った。どうして自分はルーナ様の姉妹に生まれなかったのだろう。教室で目障りな女が視界に入る度マルグリットはそう思った。
最初はルーナに振り向いて貰えなかった。それでも役に立ちたいと何度も告げればまるで聖女様のような微笑みを向けられた。マルグリットはこの時思ったのだ。
(あなたの邪魔になるものは私が許さない)
最初はルーナと距離があったように感じたがやがて信頼されるようになった。ルーナから色々相談されるようになり、マルグリットは嬉しかった。特別な存在から頼りにされる自分も特別な人間になれたような気がしたのだ。
例え自分が汚れた血の子であっても。
「このことを相談できるのはマルグリットさんだけよ」
その言葉は甘い花の香りのようで吸い寄せられる蜂のようにマルグリットはルーナに引き寄せられた。
「このことを相談できるのはあなただけ」
「こんなことを話せるのはあなただけ」
「聞いてくれるのはあなただけ」
「あなたならできるわ」
そう言われれば何でもできる気がした。
ルーナ様の役に立ちたい、そのためならば何だってできると彼女はそう思っていた。
マルグリットは真っ暗な部屋の中で体を縮こませていた。借りた女子寮の一室で体の震えをどうにか抑えようと試みる。しかしそれは無理だった。
実行したことが予想外の大事になったのだ。部屋の外から聞こえる声と足音に息を殺す。
(どうしてこんなことになったの)
どうか見つかりませんようにと祈りながら身を潜めマルグリットは眠れぬ一夜を過ごすのだった。




