悪役令嬢は無罪を主張する 1
「ふがっ?!」
誰かに呼ばれたような気がして目を開くとまだ夜だった。こんな夜中に誰かの悲鳴が聞こえた。部屋に虫でも出たのかな。しかし誰かの叫び声はまだ続いている。
なになに?何があった?地震?雷?火事?泥棒?それともおやじ?
寝間着のまま慌てて部屋の外へ飛び出てみる。廊下は薄暗く、誰もいなかった。まさか一人逃げ遅れてしまった?魔法で灯りをつけようとしたが2回失敗し、3回目でようやく豆電球のような小さな小さな炎が灯る。相変わらず私の魔力はダメダメである。
悲鳴がしたのはどこだろうと耳を凝らせば、ドンドンドンという何かを叩くような音が聞こえた。音の方へ近づけば誰かが部屋の中からドアを叩いているようだ。
「開けて!!!助けて!!!開けて!!!」
誰かが部屋に閉じ込められている?!大変、すぐ助けないと!
慌ててドアノブを掴むとすんなりと扉は開いた。すると少し開いた扉から誰かが飛び出した。
「ぎゃぁああああああああ」
飛び出してきた誰かに急に抱きつかれたのだ。お化けでも出てきたかと思った。びっくりし過ぎて叫んじゃったよ。
「きゃっ」
私の悲鳴に相手も驚いたのか小さく悲鳴をあげ、私から飛び退いた。あれ?この顔は。
「フィーリアさん?」
「え、あ、リュシアさん……リュシアさーん」
私の名を叫びながらぎゅっと抱きつかれてしまった。彼女の心臓がドクドク音を立てているのがわかる。そのまま泣き崩れる彼女を宥め、手を握り安心させようとした。あれ?手になんかついた?べちょってなんかついたぞ。
「フィーリアさん、手になんかついてる?」
「え?」
そう言われ体を離した彼女の姿をよく見る。手にはなんか真っ赤な液体がついている。そして制服のスカートの裾もなんかべちゃあっと付いてる。
「フィーリアさん、ケガケガケガ……」
「え?何これ」
今更自分の手や体が汚れていることに気がついたのか彼女は泣きそうな声をあげた。確か聖女にとって血はご法度の筈だ。すぐに手当をしないと。
「きゅ、救急車……じゃなくて医務室、医務室行かなきゃ。あ、でも夜開いてるのかな?ああ、どうしたら」
慌てながらもどうしようと頭を抱えていると近くの部屋の扉が次々開き、眠そうな顔の寮生達が現れた。
「ちょっとこんな夜更けに騒がし……ってあなた怪我してるじゃない!」
「なになに?何の騒ぎ?」
「誰かこの子に綺麗な寝間着用意して」
「その前にまず綺麗にしないと」
わらわら集まってきた皆さんがフィーリアさんを水魔法で綺麗にしたり、着替えさせたりとテキパキ動いていく。私はぼへーっとその様子を眺めていた。やることないな。あ、でもついでに私の手もキレイキレイしてほしいなー、なんて。
「なんであなたも血まみれなのよ?!」
さて、なんでですかね。
「悲鳴が聞こえてかけつけて、彼女を助けてたらこうなってたみたいな」
「あの野獣の遠吠えみたいな声?」
それは私の悲鳴じゃなかろうか。
「いや、もっと可愛い声ですよ?私が叫ぶ前の悲鳴です」
私はともかくフィーリアさんの悲鳴は普通に可愛い声だったぞ。
「変ねえ、可愛い悲鳴なんてしなかったけど」
「そうそう、遠吠え?悲鳴?が聞こえたのは一度だけ」
「ね、誰かフィーリアちゃんの悲鳴聞こえた?」
「ううん」
「聞こえなかった」
皆そんな話をしながらも念の為フィーリアさんの部屋に入っていく。そして灯りをつけた途端皆黙り込んだ。
床が真っ赤に濡れていたのだ。なるべく赤いところを踏まないようにし、部屋の中に進んでいく。
皆が息を呑んだ。
部屋の壁一面に真っ赤な血がぶちまけられていたのだ。
それからは大騒ぎだった。とりあえずこの部屋は使えないので急遽空いてる部屋にフィーリアさんを避難させ、元の部屋を立入禁止にした。
結局できることは少なく明日教師に相談することとなり解散となったのだった。




