悪役令嬢と歓迎会4
会はお開きになり、私は逃げるように女子寮へ向かう。
すると後ろからパタパタと足音が近づいてきた。
「待ってー、リュシアさーん」
振り返るとフィーリアさんが息を切らしていた。病み上がりのヒロインが走っちゃダメぇえええ!慌ててそちらへ駆け寄り、そして頭を下げる。
「フィーリアさん、今日は本当に本当にごめんなさい。謝って許されることではないけれど……。でも本当にごめんなさい」
気持ちは土下座したいくらいだが、さすがに伝わらないだろうと、とにかく頭を下げる。
「あわわ。謝らないでください」
「本当に申し訳ないことを……」
泣きそうになりながら謝る私にフィーリアさんは困ったような顔を一瞬見せた。しかしすぐその顔は真剣な表情に変わる。彼女は私をじっとみつめ、それから私の両手を取るとぎゅっと握りしめた。
え?私浄化されちゃう?
すると私の体がポカポカと暖かくなっていった。フィーリアさんの握った手から腕へ、腕からお腹へと優しいぬくもりが満ちていく。心を覆っていたモヤモヤとした気持ちが、まるで氷が溶けていくように小さくなっていく。
「あったかい」
思わず呟くとフィーリアさんがにこりと笑う。
「あ、あのね、リュシアさん。私、元々はお肉大好きだったの!だから今日久しぶりに食べられて嬉しかったの、です!」
「でも体が……」
「体は受け付けてくれなくって、ホント残念なの、です」
しゅんとした様子で心底残念そうだ。食べたくても食べられないのは辛いよね。
「フィーリアさん、気を遣ってくれて……ありがとう」
ぎこちなく笑みを見せれば、彼女も嬉しそうな顔をする。
「えへへ、照れちゃいます」
「本当にごめんなさい」
「大丈夫、大丈夫。ね、もう気にしないで」
2人で話しながら女子寮に入り階段を上がり、廊下を進んでいく。やがてフィーリアさんは部屋の前で立ち止まった。
「フィーリアさんはここの部屋なの?」
「うん、ここなの。それじゃリュシアさん、また明日!」
「また明日」
部屋に入っていく彼女を見届け、私も廊下を進んでいく。それにしても彼女の部屋はルーナの部屋の隣だったのだ。いいなあ。
程なくして私も部屋に戻る。
フィーリアさんは優しい言葉をかけてくれたけれど、それでもどっと疲れに襲われる。制服を着たままベッドに倒れ込み、目を閉じる。
こんな時にルーナがいてくれたらな。
でも今頃彼女は王宮に向かっている筈だ。王妃教育の為今日も今日とて頑張っているのだ。
まあ完璧な妹であればきっと大丈夫だろう。それに比べて私は……。
刺繍をする気にも、読書する気にもなれず、私はただぼーっと時が過ぎるのを待つばかりだった。




