悪役令嬢と歓迎会2
食堂のテーブルには所狭しと料理が並んでいる。いい匂いに思わず喉が鳴る。学院の料理人が腕をふるった料理だが献立を考えたのは生徒達だ。勿論私が考えたものもある。
ほぼ全員が席について主役が来るのを待っている。私はルーナの隣に座り、よだれを堪える。
まだかな、まだかな。早く食べたいぞ。
そう思っていると食堂の扉が開いた。現れたのはスカーフで目隠しをされたフィーリアさん。そして彼女をエスコートするのはジェロームさんとアレス様だ。
「さあ、目隠しを取るよ」
おもむろにアレス様がスカーフを外す。するとフィーリアさんは小さく感嘆の声を上げ、目を輝かせる。
「わぁ、すごい!え、なんで?何かのお祝いですか?」
「フィーリア嬢、君のための歓迎会へようこそ」
アレス様の言葉にフィーリアさんは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「おいしい、これもおいしい。あ、それも!あー、しあわせー」
次々と料理を頬張りながら至福の表情を浮かべるフィーリアさん、どうして私の隣にいるの?
正確には彼女は長テーブルの先端、俗に言うお誕生席に座っている。その隣に私が、そしてもう片側の隣にジェロームさんがいる。ちょうど私と向かい合わせの状態だ。そしてジェロームさんの隣にはアレス様がルーナに向き合うように座っている。
皆が食事を楽しみつつ他愛もない会話を楽しんでいる。そういえばフィーリアさん、まだ私の考えたメインディッシュの元気モリモリお肉のローストを食べていないみたい。
よーし!ここは私が取り分けてあげよう。ささ、たーんとお食べ。
「フィーリアさん、どうぞ」
「あ、えっと、あの……ありがとうございます」
私特製、元気モリモリ盛り付けをした皿を彼女の前へ置く。フィーリアさんは遠慮がちに笑みを浮かべた。遠慮しなくていいんだよ、いっぱい食べて大きくなるのよ。
私がチラチラ見ていたことに気がついたのかフィーリアさんはお肉を小さく切ると口に運ぶ。
どうかな、どうかな。お口に合うかな?
すると彼女の顔が見る間に青くなり、体がふらついた。今にも倒れそうだ。慌てて駆け寄り、支えようと手を伸ばす。しかしそれより早くジェロームさんが私から庇うように彼女に手を差し出した。それからテーブルの皿を一瞥し、私に視線を向ける。
「彼女は神官見習いの身、肉食は厳禁です」
小声で、しかしはっきりとした口調で私に告げる。
まさか、そんなこと……。
「そんな……。私、知らなくて。なんてことを……」
「白々しい。予めそう伝えましたが?」
そう言われ、他の料理を改めて見ると穀物に野菜や豆が使われていて肉や魚料理はなかった。
心配そうにフィーリアさんの傍にやって来たアレス様やイリスさんも刺すような視線をこちらへ向ける。
逃げ出したいが、そういうわけにはいかない。でもどうしたらいいのだろう。
「フィーリアさん、本当にごめんな……」
謝罪をしようと彼女に近づこうとしたが、イリスさんが私と彼女の間に割って入る。
「フィーリア嬢、大丈夫かな?さ、医務室に行くよ」
「だ、大丈夫です!」
「大丈夫じゃありません。ほら、行きますよ」
イリスさんはフィーリアさんをひょいと抱え上げる。ぼうっとした頭でお姫様抱っこだな、と思った。フィーリアさんの顔は真っ赤だ。
「お、おろしてください。恥ずかしいです。まだデザートが残ってるんですぅううう」
恨めしげな表情のフィーリアさんにジェロームさんは声をかける。
「大人しく行きなさい。デザートは残しておきますから」
優しい口調で彼女を見送るが、扉が閉まるとすぐにこちらに近づいてきた。とても冷たい目をしていて怖くてたまらない。
「やはりあなたは怪しい。今日の件は大聖堂にも報告しますから」
覚悟しろ、と最後は目で告げられ、彼は席へ戻っていった。
私はうなだれたまま椅子に座る。もう食事を楽しむ気持ちは消えてしまった。
幸い長テーブルの向こう側の人達にはただの体調不良と思われたようだ。それでもこちら側にいる人達、特にこのゲームの世界のヒロインの攻略対象からは不信感露わな視線を向けられてる。
まさかお肉が駄目なんて、そんなこと教えて貰っていない。でもこれでは私が意図的に害を与えたようだ。
ちらり、とマルグリットさんを見る。すると視線が合った。すると彼女はそそくさと顔を背けた。まるで見ていなかったとでも言うように。
彼女の顔も心なしか青ざめているように見えた。




