それはもしかしたら初恋だったのかもしれない(ルノー)2
幼いルノーと客人が湖の散策を楽しんでいる一方で大人達は大切な仕事をこなしていた。
王都にある大聖堂から来た客人の親を含む大人達、そしてこの辺境の大人達は闇の森へ立ち入っていた。聖石柱の採掘のためである。
聖石柱とは国土と深い森との間、王都の大聖堂や各地域の聖堂を守る聖女様の力を備えた守護の石柱のことである。
聖女様の力を借りて闇の森に入り、大聖堂と辺境の守り手が一丸となって洞窟の中に眠る聖石柱を採掘するのだ。これがこの辺境の地のもう一つの大切な仕事である。
価値ある物を盗もうと危険な森に入る者がでないように一部の者を除いて聖石柱のことは秘匿されている。
採掘された巨大な聖石柱はこの地で職人によって加工される。研磨中に零れ落ちたその欠片は守護の効力は殆どないが綺麗な色をして美しい。
ルノーも父から貰ったそれをいくつか大切にしていた。
この採掘に加われるようになれば辺境の守り手として、一人前の大人として認められるのだ。
子ども達の楽しい時間はあっという間に過ぎていった。採掘は無事終わり、その後聖石柱は磨き上げられ、丁寧に布にくるまれて今や荷馬車に乗せられていた。
ルノーと客人の別れの時が来たのだ。
父に貰った聖石柱の欠片の中から特に形の良い物をルノーは選び取り、手に握りしめた。
「お世話になりました。被害もほぼなく何よりでした。これも聖女様の守りのおかげ。そして辺境の守り手の皆さんのおかげですね」
柔和な笑みを浮かべ挨拶を述べる男の後ろに退屈そうな顔をした客人がいた。
「ちょっときて」
そんな客人に声をかけるとルノーは屋敷の外に連れ出した。
「なに?」
問いかける客人を前に小さく息を吐き出す。そして握りしめていた石を差し出した。
「これをあなたに捧げます」
客人は不思議そうに目を瞬かせたが石を受け取った。
「いつか大きな聖石柱を採ったら、その時は……お、俺と結婚してくれ」
ルノーの一世一代の告白に相手の表情はみるみると変わっていった。ただしルノーの思っていたのとは違った反応であった。みるみる顔が青くなっていったのだ。
「……おとこ」
「え?」
相手が一瞬何を言ったのかわからなかった。
「僕、男。結婚は女の子とがいい」
挨拶が終わり、外に出てきた大人達がいつの間にか二人の様子を見守っている。いや、にやにやした表情から楽しんでいるのが丸わかりだ。
「え?君、女の子じゃないの!?」
そう叫んだ後のことをルノーはよく覚えていない。気がつけば客人達はいなくなっていた。
この出来事は二人の幼い少年の心をそこそこに傷つけた。
王都大聖堂からやって来た子どもジェロームが「ママ」と呼ばれるのを許せないのはこの出来事がきっかけなのかもしれないし、そうでもないかもしれない。
聖石柱の欠片は「悪役令嬢は内職する」で話題になったオレリアさんが祭りの日に買った物です。
秘匿されているはずの石がなぜ売られていたかについてはまた改めて書けたらいいなと思っています。




