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悪役令嬢は双子の妹を溺愛する  作者: ドンドコ丸
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悪役令嬢は踏みつける5

「リュシアさん?」


 こちらを見てから遠慮がちに声をかけてきたのはフェルナン君だった。


「あ、フェルナンさん」


 お久しぶりです、元気でしたか、と声をかければほっとした表情になる。

 それにしてもフェエルナン君に限らず今日はクラスメイトから視線を感じるな。ルーナが皆の注目を浴びることはあっても、私が見られることなんてなかったのに。

 もしかして私の顔に何か付いている?ターンヒゲとか?!慌てて顔を擦ってみるがよくわからない。


「どうかされましたか?」

「いえ、なんでもないです」


 フェルナン君の様子だとヒゲはなさそうだな。

 怪訝そうな表情を見せつつも彼は包みを差し出した。


「これ、例のものです」


 ついに来た!!!

 飛び跳ねたい衝動を抑え、それを大切に受け取った。休み前に彼に頼んだ大切な物だ。中を見たいが、今は我慢。すぐ机の天板を開き転送させた。


「フェルナンさん、本当にありがとう」


 私の言葉に彼は照れくさそうに笑みを浮かべた。


 早速部屋に戻り戦利品と向き合おう。足早に教室を出たところで呼び止められた。


「ルーナ様?」


 その声に振り向けばばつが悪そうな顔をしたマルグリットさんがいた。


「なんだ、リュシアさんか」


 興味をなくしたように背を向けかけたが、その足が止まった。


「お姉様」

「ルーナ様」


 私を背後から呼ぶ声とマルグリットさんの弾んだ声が重なった。振り返ればルーナがいた。


「ルーナ、お疲れ様」


 どうやら既に教室を出ていたが戻ってきたようだ。


「疲れるほどのことしてませんよね」


 相変わらずマルグリットさんは毒舌である。ルーナは気にするでもない様子だ。


「ねえ、お姉様。お願いがあるの」

「なあに?」


 可愛いルーナの頼みなら何でも聞くよ?


「一緒にお喋りしましょ」


 キラキラした瞳でそんな誘いを受けたら、もう乗るしかない!!


「喜んで」


 即答である。


「ルーナ様、私も!私も!」


 ほんの一瞬私を睨んだ後、押しのけるようにルーナの前に出たマルグリットさんは甘えた声を出す。ルーナは少し困ったような顔になりつつ、こくりと頷いた。


 食堂は休暇中の思い出を話す生徒達で賑やかだ。空いてる席に座る。ちなみにルーナの隣にはマルグリットさんが陣取っている。

 私一人、対して二人。まるで面接されてるようだよ。


「はー、学院始まってよかった。ルーナ様に会えるし」


 目をキラキラさせながら、ルーナをみつめるマルグリットさん。私は休みが幸せだったけど、真面目だな。


「でもまさかどこの馬の骨だかわからないのがこの学院に来るとは思いませんでしたけど」


 棘のある言い方をし、マルグリットさんが口の端を歪めた。

 もしかしてフィーリアさんのことを言ってるのかな。確かに彼女は元々平民だけど、それは一部の人と転生者特権を持つ私しか知らないはずだ。


「マルグリットさん、滅多なことを言わないの。男爵家のご令嬢よ」


 小声でルーナが窘める。


「えー、確かな情報ですよ。オバー様の知り合いから聞いたんですから」

「お知り合い?」

「大聖堂で仕事してるんです。平民の娘だから躾がなってなくて大変だって」


 随分とお喋りな人だな。でも私はヒロインちゃんがどんな生まれでもいいけどな。関わり合いにならなければ、ね。


「それでも今は同じ貴族だし。せっかく学院に来たのだし……」


 保身の台詞を並べ立てていると噂をすればなんとやら、ルルディさん達と一緒にフィーリアさんがやって来た。さらにアレス様、イリスさんにジェロームさんまでいる。楽しそうにお喋りしながら彼らも席についた。

 マルグリットさんはちらりとそちらを見やり、小声で何やら呟いた。


 ここは話題を変えなければ!


「それよりルーナは王妃教育が始まるのでしょう?」


 そう尋ねるとルーナはこくりと頷いた。

 今年からいよいよ未来の王妃になるための教育が始まるのだ。放課後王宮に行き、色々なことを学ぶそうだ。夜遅くなる時は寮に戻らず屋敷に帰ることになるらしい。

 大変そうだな。頑張れルーナ、ルーナならできるゾ!


 でも……。


「こうやって一緒にいられる時間も少なくなるのかな」


 ぽつりと呟けば、思っていた以上に寂しさが込み上げてくる。そんな私を見てルーナは困ったような笑みを見せた。


「……ルーナ様は私の理想の人なのです。私、応援してます!」


 マルグリットさんがルーナの手を取ると真剣な眼差しで訴える。


「私も応援してるからね、ルーナ」

「私の方がルーナ様を応援してますから!」

 ルーナの手をぎゅっと握り、マルグリットさんが強くアピールする。くうぅ、わ、私はお姉ちゃんなんだぞ。


「ありがとうマルグリットさん、お姉様」


 ルーナはにっこりと微笑んだ。


 名残惜しそうなマルグリットさんをルーナが馬車待ち場まで送っていった。私はそわそわしながらも寮の自室へ向かう。

 本棚に転送されたフェルナン君からの包みを手に取り、思わずにんまりしてしまう。

 そっと包みを開けば中から色とりどりの刺繍糸が現れた。早速制服のリボンをほどき、その上に糸を載せていく。

 大げさかもしれないけれど世界で一番の刺繍をするために最高の糸を選ぶのだ。

 どの糸も輝きを放つように美しい。さあどれにしよう。

 ワクワクしながら夢中で選び取る、大好きなルーナのために。

 また一緒にお喋りしたいな……。



 あの時食堂でマルグリットさんが呟いた言葉を私は知る由もなかった。


「あの女、王太子殿下と距離が近すぎるのよ。悪い虫は早めに排除しないと……」

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