悪役令嬢は大わらわ1
聞いていない。聞いてないったら、聞いてない。
試験があるなんて聞いていない。
正確には私だけちゃんと聞いていなかったのだろう、期末試験があることを。寝耳に水の大パニックである。
確かに最近放課後お喋りしたいと思っても、皆図書館棟に向かっていくなあと思っていた。
授業中も誰もが眠そうにすることなく、真面目に聞いているなと思っていたのだ。
「再来週からいよいよ試験期間ですね。気負わず頑張ってください」
授業終わりの先生の言葉に固まった。でもあの時伝えてくれなければ私は何も復習することなく試験に望むところだった。
少し前にヴェネレさんが依頼した刺繍は無事仕上がった。麗しき友情のおかげである。その後浮かれていたのがそもそも間違いだったのだ。
人の話を聞くことの大切さに改めて気づかされたよ。
そんなわけでお昼ご飯を優雅に、且つ、駆け込むように食べ終え、教科書と向き合っている。しかし残念ながらさっぱりわからない。ノートを見てみれば、ミミズのような文字が描かれている。これは寝ぼけた形跡。過去の私よ、どうしてくれるっ。
ここはもう頼りになるあの子に頼るしかない!
「ルーナ、一生のお願い!教科書のこの部分わかる?」
「お姉様、随分と安い一生のお願いね」
そう言いながらも一緒に教科書を見てくれたルーナは優しい。でもきょとんとした様子である。
「なんて説明すればいいのかしら。こう頭の中で答えが生まれてくる感じ?」
お姉ちゃん、さっぱりわからないのだが。もしかしてルーナは天才肌タイプ?
そんな私達の様子を見ていたルーナの隣の席のマルグリットさんが鼻で笑う。
「あなたルーナ様の姉なのにそんなこともわからないのですか?」
むきー!相変わらずこの子は苦手である。
でもその後、つらつらと解説してくれた。しかもとてもわかりやすい。
この際プライドなんてどうでもいい。
「ルーナ、マルグリットさん、一緒にお勉強しましょ」
「え、なんであたしが」
露骨に嫌そうな顔を浮かべるマルグリットさんだがこちとら貴族令嬢として赤点を取るわけにはいかないのだ。
「一緒にお勉強しましょうね」
返事は「はい」か「Yes」しか許さない。
「お姉様、怖いですわ」
ルーナが呆れたように呟いた。
マルグリットさんは馬鹿にした態度を隠しもしなかった。それでもわからないところは丁寧に教えてくれた。
残念ながらマルグリットさんにもわからないところは後でソフィアさんやオレリアさんにも助けて貰った。
暗記せねばならないところは毎晩ルーナに付き合って貰った。ルーナは逃げ出したそうな雰囲気だったけど。
そんな風にして、どうにかこうにか試験勉強を乗り切った。




