悪役令嬢は内職する3
女子寮の談話室は座り心地の良い長椅子とテーブルが置かれている。お喋りはもちろんのこと、集まって作業するにはもってこいの場所だ。
放課後やって来たオレリアさん、ルルディさん、ソフィアさんと優雅に女子会ならぬ刺繍会を始める。
それにしてもあの完璧そうなルルディさんが刺繍が苦手とは意外だった。
「いつの間にか糸が逃げていくのだもの」
そう呟き、恥ずかしそうに涙目になる姿は普段の彼女からは想像もつかない。それでも刺繍の作業を見るのは楽しいからと付いてきてくれた。
オレリアさんは慣れた手つきで、ソフィアさんは一針一針きちっと丁寧に縫っていく。その様子に見惚れてついつい手が止まってしまう。
「ほらほら、リュシアさん。手が止まってますわよ?」
ルルディさんは私の監視役である。
「あれー、みんな集まってどうしたの?」
談話室の入り口からひょこっと顔を出したのはロザリーさんだ。
今日も変わらず素敵すぎる!
「刺繍をしているの。ロザリーさんもいかが?」
私が話そうとするのを遮るとルルディさんが口を開いた。さりげないスカウトに、ロザリーさんは、「げっ」という顔のまま固まった。ルルディさんは仲間を見つけたとばかり顔を綻ばせる。
「まあロザリーさんも刺繍はお嫌い?」
「うん。糸は絡まるし、針は攻撃してくるし」
「わかる。わかるわ」
立ち上がったルルディさんがロザリーさんの手を握りしめている。熱き友情がここに誕生した瞬間である。
「でもルルディさんが刺繍苦手なのは意外だったな」
「恥ずかしいから内緒にしてくださいね」
ロザリーさんはコクコクと頷くと、談話室をぐるりと見回した。
「そうそ、ミラちゃんいない?」
「ミラさん?見かけていませんわ」
「そっかー、じゃ、中庭かな。刺繍頑張ってね」
手を振り振りしながらロザリーさんは去っていった。
「相変わらず中性的で美しいわね」
ルルディさんはほおっとため息をつく。
「王宮の舞踏会で一番人気で待機列までできてたでしょ。男子が指くわえて眺めてたわよ」
ソフィアさんは布と針から目を話さないまま答える。
待って、待って。ロザリーさん、あの舞踏会にいたの?私、逃亡に夢中で気づかなかったよ。
「王宮の舞踏会、素敵ですね。ロザリーさんかっこよかっただろうな」
オレリアさんまで頬をぽっと赤らめている。なんていうことだ、ロザリーさん皆に人気すぎる。




