第二の奇跡4
それからひと月もしないうちに別れの時がやってきた。
生まれてからずっと一緒に過ごしてきた、これからもそうだと信じていた家族、友と別れるのだ。
少女だって別れは辛い。
けれども国を守ってほしいと言われては断ることなどできなかった。それに自分を守ってくれたあの不思議な力が家族や友達を守れるのであれば頑張りたいと思ったのだ。
そして、まさか自分が学校へ通えるとは思わなかった。これは少女にとって密かに嬉しいことだった。
フィーリアが両親と離れ、さらには知らない人の家族になってしまう。そう知った近所の兄弟は驚き悲しんでいた。特に弟は自分のせいでお姉ちゃんが連れて行かれると毎日泣きじゃくっていた。その度に少女と兄はそんなことはない、と何度も言い聞かせた。
迎えが来る日の朝、やって来た兄弟は少女の手を取り、ぎゅっと握った。
「フィーリア、お別れは寂しいけど……、でも新しいところでもきっとうまくいくと思ってるよ」
寂しげな笑みを浮かべて兄が告げる。
「……お……ねえちゃん……」
目を真っ赤にし、鼻を啜り上げる弟はフィーリアの手に何かを握らせる。
それは木で作られたあの馬のおもちゃだった。
「大切なものじゃないの?」
少女は屈んで少年に目線を合わせる。すると少年は顔を赤くし目線をそらす。
「……あげる」
「ありがとう。大切にするね」
そう言って笑顔を見せれば、弟はほっとしたような顔を見せた。
いよいよその時がやってきた。
小さな家の前には似つかわしくない立派な馬車が止まった。
その家の中で少女と父、母が最後の時間を過ごしていた。
母は娘を強く抱きした。
「離れていてもあなたは私の大切な娘、誇りに思うわ」
寡黙な父親も大きな腕で妻と娘の肩を抱く。その目尻には涙が滲んでいた。
「大変なお役目だが、フィーリア、君ならできるよ」
少女はこみ上げる涙を無理やり押し込めると笑顔をつくる。
「お父さん、お母さん。私、行ってきます」




