祭りの日3
街外れの小さな家の中。
でたらめな歌を口ずさみながら、持っている服を少女は取り出した。といっても数える程しかないが。それでもこの中で一番可愛い服はどれだろうと思案する。どれもそれ程代わり映えないが、こういうのは気分なのだ。
少女は一つを選び着替えると、髪に花を挿す。これで自分史上最高に可愛い姿になれたはずだ。
「お母さん、街に行ってもいいでしょ?」
母親に問うとにっこり微笑み頷き、硬貨を彼女に手渡した。
「楽しんでいらっしゃい」
「いってきまーす!」
大きな声を上げて、嬉しそうに外へ駆け出す少女を母親は見送った。
玄関先に飾った花は優しい色合いをしている。
「あの子が手入れすると花は長持ちするわね」
いつも元気よく、朗らかで、体も丈夫にすくすく育った娘。人に親切で近所からの評判も悪くない。親を困らせることもなく、のびのびと真っ直ぐに育っている。
たった一度だけ夜遅くまで帰ってこないことがあった。後々森へ迷い込んだとわかった時は血の気が引いた。よくぞ無事に帰ってきてくれたと。
しかしその後は大きなトラブルもなく、穏やかな日常が続いている。
このままずっと彼女が大人になるまで親子3人で仲良く暮らしていくのだ。祭りへ向かう娘の後ろ姿を見送りながら、疑うことなく母親はそう思っていた。




