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悪役令嬢は双子の妹を溺愛する  作者: ドンドコ丸
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悪役令嬢と愉快なクラスメイトたち

 うららかな休日、私は庭園の一画にある自作薬草園にいた。フェルナン君に刺繍糸を貰ったので、お返しに何か染色に使えそうないい感じの草がないかなーと見繕いに来たのだ。草木染めってあるものね。

 あれ?なんか薬草園の様相がおかしい。色々な種類の薬草を植えていた筈なのに、やけに目立つ草が一面を覆い尽くしている。わしゃわしゃ生えている。茫々と生い茂っているその植物はミントもどきだった。


 ミントって染色とかに使えたっけ、ま、いいか。薬草茶にして蜂蜜入れると美味しいよと教えてあげよう。私はミントもどきを無心でつみ取り、束にした。わー、大漁大量。でも薬草園ならぬミントもどき帝国はまだ猛威を振るっている。もしかして我が闇の力が増殖させてしまったの?


「お姉様、休憩しましょ」


 後ろから私に声をかけたのはルーナだった。私が手に持ったミントもどきを見ると、彼女は動きを止めた。


「その草」

 ルーナが指を向ける。心なしか震えている気がする。今日は暖かいのだけどな。

「これはミントもどきよ。ルーナの好きなパクチーもどきは育てていないのよ」

「……じゃない」

 ん?ぼそりと何か言ったみたいだけど、聞こえなかったな。感動に震えるほど嬉しいならまた育てようかしら。


「これはフェルナン君にあげるのよ」

「あら、そうなの。ねえ、パクチーもどきもフェルナンさんにあげちゃえば、全部」


 うーん、今は育てていないからな。そうしたら今度はルーナとフェルナン君の分とたくさん育てようっと。私はそんなことを考えながら屋敷の中へ入っていった。



 ルーナと二人で休憩するつもりだったのに、そこにはお邪魔虫がいた。私の大切な時間を奪わないでいただきたい、そこの陰険眼鏡よ!

 優雅に椅子に腰掛け、ルーナに微笑みかけながら兄は学院での話をせがんだ。その目的はルーナに近づく輩の情報を集める為に違いない。


「お兄ちゃまはルーナの学院での話をもっと聞きたいよ。クラスメイトはどんな人なのかい?」

「皆さん、とってもいい方達ばかりですわ」

 ルーナがにっこり微笑んで答える。


 嘘だ!軽薄ローランド達はどう考えてもいい奴じゃない!ルーナは純粋だから騙されているのだ!


「ああ、ローランド、司法省長の次男坊か。ルノーは辺境伯の長子だな」

 ルーナがクラスメイトについて話すと兄が情報を補足してくれる。


 ええ?!軽薄ローランドのパパは司法省のお偉いさんなの?

 司法省は三権分立、ナニソレ?というこの国で裁判所の人事権を握るような組織である。あの男がゆくゆくは跡を継いで裁判所を良いようにできるってこと?ひえー、冤罪を量産しそうだな。おお怖っ。


 それにしてもルーナはクラスメイトの名前とかよくわかるな。

「ねえルーナはどうして皆さんのことをそんなに知っているの?」

「初日の放課後に皆さんとお話ししたのよ」

 なるほど、私がすたこらさっさと逃げ出したあの日の放課後か。何でも自己紹介をするちょっとした時間があったらしい。ルーナは短い時間の中、全員と挨拶し雑談を交わしながら相手の情報を得たようだ。

 わー、コミュニケーション能力高ーい。社交的ですごーい。私、クラスメイト全員と話すとか、絶対に無理だ。



 穏やかな週末はあっという間に過ぎていった。あとはベッドに入り目覚めればまた学院の日々が始まる。私は刺繍を施したハンカチと束ねたミントを持って行く荷物と一緒に纏めた。


 ふと思いつき、今後の学院生活と来る断罪回避のためにルーナと兄の教えてくれたクラスメイト情報を整理し、紙に書き出してみた。


男子

エミール 貴族 作家志望 よくフェルナン君といるらしい。

ヴァレル 平民 著名な石工職人の息子 イリスさんと仲がいいみたい。近づきたくない。

ローランド 貴族 司法省長の次男 軽薄!軽薄!軽薄!近づくな!

アレス 王太子様 ルーナが大好き。断罪、ダメ、ゼッタイ!

ルノー 貴族 辺境伯の長男 軽薄!チャラ男!軽薄!近づくな!

イリス 貴族 アレス様の幼馴染み 断罪、ダメ、ゼッタイ!。

ジェローム 貴族 大聖堂長の息子 浄化されそう。近づきたくない。

ヴェネレ 貴族 大商人の息子 心の友?でも断罪、ダメ、ゼッタイ!

ヒューゴ 貴族 見た目が陰険眼鏡そっくり。近づきたくない。

フェルナン 平民 繊維関係の商人の息子 めっちゃいい子。お友達。

マルセル 貴族 教育省長の息子 お堅そう。近づきたくない。

ベルトラン 貴族 天文省長の息子 天動説、地動説どっちなの?近づきたくない。


女子

ルルディ 貴族 典礼省長の長女 華やか美人でスパルタ教官。

ソフィア 貴族 真面目な学級委員長タイプで視線はメデューサ。

マルグリット 貴族 ルーナのお友達。お婆様と住んでるらしい。多分私嫌われてる。近づきたくない。

ミラ 平民 著名な発明家の長女 ルーナ曰くとても気が強そう。

オレリア 平民 著名な錬金術師の娘 ファッション大好き。お友達。

ロザリー 貴族 男装の麗人 すき、すき、何この胸のドキドキ。お友達以上になりたい。


 うん、やばいな、近づきたくない人が多すぎる。私はこれから何年も学院生活をやっていけるのだろうか。不安しかない。

 あ、でもロザリーさんのことはとっても気になっている。ドキドキしちゃう。不整脈かしら。


「お姉様、そろそろ休んだら?」

 机に向かう私に寝間着姿のルーナが声をかけてくれた。

 学院では別々な部屋だが、屋敷では未だ同じ寝室を使っている。そろそろ別々にした方がいいのではと提案したが、ルーナが口をへの字に曲げて暫く口を利いてくれなかったのだ。慌てて撤回するとにっこり笑顔を見せてくれた。そんなわけでこの週末の夜はルーナと一緒に眠っている。


「そうね。そろそろ休むことにするわ」

 私が答えるとルーナが微笑んだ。寮でも私が寝る直前までルーナと一緒にいるが、彼女はいつの間にか部屋からいなくなる。正確にはルーナにお休みのキスをして貰った後、私は知らないうちに眠っていて、気がつくと朝なのだ。安眠効果のあるキス、素晴らしい。


 寝室で隣り合うベッドに腰掛けて、他愛もないお喋りをする。来週はどんな授業があるのか、とか、週末何をしたのか、とか。


「それでね、ハンカチに刺繍をしたの。オレリアさんとロザリーさんとお揃いにするのよ」

「……」

 あれ、ルーナが不機嫌そうな表情になり、黙ってしまったぞ。


「どうしたの?」

「ハンカチ、私のは?」

 あ、ルーナのお口がへの字になってしまったぞ。


「ルーナもハンカチが欲しいの?」

「べつに……」

 ありゃ、つーん、とそっぽを向いてしまったぞ。


「そんな顔しないで。明日から学院だし、もう休みましょう」

 私が声をかけるとルーナがそっぽを向いたままベッドに潜り込んだ。こちらを向いてくれなくてお姉ちゃんは寂しいぞ。



 目を閉じ、ベッドに体を沈め、微睡む。夢うつつの中、おでこに何か温かな感触が伝わった気がした。

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