悪役令嬢とあたたかな朝ごはん
盛大にお腹が鳴った音で目が覚めてしまった。
お、お腹空いた。昨夜は夕食を食べ逃してしまったのだ。
私は身支度を整えて、本棚から教室へと教科書を転移させてから部屋を飛び出した。
ルーナを誘おうかなとも思ったけれど、昨日の今日で何て声をかけよう。悩んだ結果、結局一人で食堂に向かうことにした。
朝ごはんはパンに塩漬け肉、そして果物だった。まだ朝早いからか人は少ない。誰も見ていないだろうと、あーんと大口を開けて肉を口に入れる。その時、後ろから声をかけられた。か、顔は見えてないよね?
「ふふ、豪快な食べっぷりだね」
バッチリ、見られてたよ!!!
話しかけてきてくれたのはどこか可愛らしい雰囲気の男子だった。この子もクラスメイトだ。確か、名前は。
「おはよう、リュシアちゃん。あ、私の名前覚えてる?ロザリーだよ」
ああ!ロザリーさんだ!
彼ではなく、彼女の着ている制服はズボンタイプだけど、女の子なのだ。ズボンの方が着慣れているのだって。昨日の自己紹介でそんなことを言っていた。ズボン姿がとっても似合ってる。
そして胸がなんかキュンとした。ロザリーさんにみつめられるとと自然と顔が赤くなっちゃう。そして恥ずかしくなって、つい下を向いてしまう。なんだろ、この気持ち。心臓がドクドクいってるけど、不整脈かしら。
「朝ごはん、一緒に食べていいかな?」
「もちろんです」
断る理由などない。はあ、中性的なお顔が素敵だわ。おっといかん、見惚れてしまう。
「リュシアちゃん、顔真っ赤。もしかして体調悪い?昨日大変そうだったから気になってたんだよね」
お気遣い痛み入ります。でも心臓がバクバク言うほど元気です。
「昨日はお騒がせしてしまい、ごめんなさい。ちょっと妹と意見の相違があって」
「ふーん、ただの姉妹喧嘩?それにしても王太子様もお守りの男子も一方的に責めているように見えたよ」
お、お守りの男子ってもしかしてイリスさんのことかな。なかなか言うな、この子。
「アレス様はルーナのことが大好きだから、いつでも彼女の味方でいたいんだと思います」
「それにしても自分勝手な思い込みで」
そう言いかけて、彼女は何かに気がついたように別な方向へ視線を送り、それから私の顔を見て小声で囁いた。
「妹さん、なんかめっちゃ睨んでる」
どうしよう、ルーナはまだ怒ってるんだ。でも今回のことを謝ることはできない。私はルーナがどんな顔をしているか知るのが怖くて、彼女の方を見ないことにした。
「昨日もリュシアちゃんが自己紹介してる時に、あの庇ってた男子達にものすごい視線を送ってたよ」
「そ、そんな失礼なことを」
なんて話せばルーナにわかって貰えるのだろう。
「私はリュシアちゃんがルーナさんを虐めるとは思えないんだよね。だから何か困ったことがあったら遠慮なく言ってね」
「あ、ありがとうございます」
私はその言葉が嬉しくて涙が出てきそうになるのを必死に堪えた。




