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 戦いとは、単純な力が全てではないのだよ。

 ましてはゲーム。

 HPがある世界で、それを削りきれば勝ちだ。


 三節棍の利点はどこだ?

 単純な力強さではない。

 一つ、技という位置にあって、本領を発揮する物が三節棍でもある。


 唸るように、先ほどまでのベイグランドとは、速さ、鋭さ、重さがまるで違う攻撃を避ける。

 カッカッと三節棍で叩く音が響く。

 HPは?

 ふむ、たった二撃では本当に通用しているのかわからないな。


 俺とワイルドオブザウィルの差は、たった一レベル。

 その一レベルが、大きな格の違いを産んでいるのかもしれん。


 ——ブンッ!

 前腕の薙ぎ払いを仰け反って躱し、そのまま右足の蹴りを飛び避ける。

 バク転して距離を取って、再び攻撃の合間をググり抜けるように接近。


 カカカッと連撃にて脇腹、腕を叩く。

 HPは?

 僅かだが、減ったな。

 大きな差はあれど、通用する。


 三節棍を引き戻し、畳む。

 そして空いた手で、


「エナジーショック」


 仰け反るワイルドオブザウィルに身体を回転させ、大きく三節棍を打ち付ける。

 これでようやく一割と少しHPを削ることが出来た。

 石人みたいな奴相手に俺もよくやるよな。

 若干自分の中で呆れながらも、縦横無尽に三節棍を取り回しながら、相手の攻撃を躱し、隙を付いて連撃を当てて行く。

 【エナジーショック】のクーリングタイムが完了したら、再び使用して距離を取る作戦だな。


 変則的な攻撃。

 その前の段階で、基本的な歩法がある。

 いくら三節棍がそう言う攻撃に適しているとしても、真っ直ぐ的に向かっては持ち味が半減する。


 一つ、取り入ているのは八卦掌の歩法。

 動きを読みやすいように接近し、円を描くように、魔物の周りを回り、攻撃を躱しながら急所に正確に当てて行く。


 扣歩、擺歩。

 流れるように身を送る。

 相手の攻撃を、一発でも貰えば……。


「オゴッ」


 受け流し損ねた。

 手甲越しからかなりの痛撃が来る。

 そう、せっかく徐々に削って行ったHPも、一撃で同じ。

 いや俺の方が危うくなる。


 フェアリークリスタルに、回復のスクロールだ。

 徐々にHPが回復して行く。


「ブースト」「フィジカルベール」「メディテーション・ナート」「エンチャント・ナート」


 一度距離を取って立て直そう。

 だが、距離を取ると土属性魔法が飛んで来るんだよな。

 休んでる暇がない。


 獰猛さは無いが、ただひたすら硬い。

 それが問題だ。

 大きく接近して【エナジーショック】を当てる。

 仰け反る相手に再び大きく遠心力をつけて打ち込む。


 多節棍の強みは、最後の打点に加わる遠心力が桁違いだと言うこと。

 その分六尺棒のように急制動が利かないが。


 お祖父様に連れて行かれたどこぞの山中で、三節棍を持つ糞爺と戦った。

 一発で腕の骨と肋骨が折れた。


 変則的な攻撃の裏に、無防備になった状況で。

 丸太にぶん殴られたような衝撃と、鞭で素肌をしばかれたような痛みが襲った。

 まさに、龍尾の様だった。

 龍嶮ロンイェンのじーちゃん、いつか絶対同じような痛みを与えてやり返す。

 心にそう誓った十七の夏。


「やり返したとも! エナジーショック!」


 三節棍、五節棍、七節棍。

 全てに置けて、一番威力が出る間合いというのがある。

 色んな武器でもそうだ。

 ただひたすらに、変幻自在という言葉の裏。

 そこに隠された“実”と言う物がある。

 簡単に言えば極意だな。


 俺は叫びながら【エナジーショック】を当てて仰け反ったワイルドオブザウィルの左肩に、龍尾の一撃を叩き込む。

 ただぶつける先の打点ではない。

 鞭のように三節棍が打ち付ける、その前に。

 本当にギリギリのラインで腕を引く。

 遠心力が三節棍の最先端に溜まる。


 ——ゴガッ!


 そんな音がして、ワイルドオブザウィルの左肩の石が砕けた。

 よっしゃ、とガッツポーズをする前に。


 あれ、ゲームでも技として認識されるんだ?

 ちゃんと破壊力を生むんだ?

 それだけが気になるのだった。


 相手のHPは?

 既に残り三割!


 とりあえず通用するんならもっともっとぶつけてやれ!


「こんにゃろ! 左腕全体が一撃で青あざになったんだぞ! それでも修行強要してきやがってこの!」


 いつのまにか、私怨になっているが、気にしない。

 パターン入ったら所詮コンピューターゲーム!

 コントロールを間違えるとこちらに矛先を向ける三節棍を上手く操りながら。


「まさか、倒しきるとはのう」


 集中力を使い果たし、荒野に大の字に転がる俺。

 そして、時折襲いかかって来たであろうドでかい【ティラノロッキー】の遺体に腰掛けるスティーブン。



[プレイヤーのレベルが上昇しました]

[レベル30を達成しました]

[称号“資格有す者”を獲得しました]

[二次転職クエストが解放されます、至急ご確認ください]



【魔素土壌】

魔素が含まれた土。

良質土壌と違い、直接種のランクを上げる。

この土でしか育たない植物がある。


【黒鉄鉱石】素材

重たいが頑丈な黒鉄を含む鉱石。

一般的な鉄に比べて精製が少し難しい。


【パンドラストーン】素材

石系モンスターの体内で蓄積された塊。

真珠のように異物の周りを石素材で覆うように精製される。

慎重に砕いて行けば何かいいことあるかも。


【スキル強化の書】70%

スキルのパラメーターを1ポイント強化する書。


【荒野石魔の魔核】

堅牢な土属性の力を持つ魔核。



 実入りは?

 最強に良いじゃないの。

 これも、ラッキーウルフの力なんだろうかね?


 地味に黒鉄鉱石五個もドロップした。

 パンドラストーン、まさかの三個ドロップです。

 魔素土壌もブリアンが喜びそうだ。

 そしてスキル強化の書、まさかの70%だってよ。

 魔核の久々のドロップだし。


 いやあ……。

 疲れたけどかなり懐は暖かくなるドロップだ。

 もちろん、スキルの書は俺が使う。


 そうだ、称号、新しく獲得した。

 こりゃ一体なんなんだろう。



【資格を有す者】

一次転職者が、その次の領域に踏み込む為の称号。

二次転職クエスト用称号。



 ふむ、これが貰えないと二次転職できないのかな?

 でも誰でも貰えるだろうこれ。

 本当に必要なのか?

 と心の中で疑っておく。


「ここは一つ、絶対に勝てないであろう魔物と戦わせ、次の領域を教えてから……、と思っておったんじゃがのう」


 スティーブンの計画では、俺はそろそろ三十レベル間近。

 二次転職の強さについて、一度体感させておくつもりだったらしい。

 一次職と二次職の間にはそれほどの隔たりがあるんだとか。


「ふーむ、わしもお主のことについては、大分理解が甘かったようじゃ」


「師弟あるまじきですかね」


「サイクロックスには手も足も出せん癖に、ワイルドオブザウィルは倒しきるんじゃもんな」


「あんな化物相手に戦えるわけないです」


 クラスチェンジの系譜が10、15、25だとすれば。

 サイクロックスのレベル9は、36レベル相当じゃないか。

 ってか、ややこしいわ。

 統一してよ…、プレイヤーと同じレベル帯とかさ!!


「成長速度が遅い分、それだけ格も違うという事じゃ」


 そう言ってスティーブンは「そうじゃ」と、一つ手を叩くと。

 杖でこんこんとティラノロッキーの硬い肌を叩きながら言った。


「こいつ、やってみるか?」


「無理です」


 即答した。

 ただでさえ、巨大な魔物は戦い辛いというのに。

 獰猛な恐竜なんか相手に出来るかよ。

 一応鑑定してみる。



【ティラノロッキー】Lv36

荒野の暴力。その顎は全てを噛み砕く。

咆哮を聞いたものは足が竦みそのまま餌食になる。



 倒せるかよ、こんなもん。

 クラスチェンジがどうとか以前に。

 理不尽という言葉が似合う相手だった。

 36って、一体どれだけクラスチェンジしたらそこへ至るんだろうか。


「どうする? 一度中級魔法使いの試験を受けるか?」


「それって直に受けなければならないんですか?」


「いや、そう言う事でも無い」


「なら、先にアポートの先のスキルを伝授して欲しいのですが」


「資質は十分……、と言った所じゃが、中級魔法使いの資格を取らねば使う事はできんぞ?」


 なるほど、確かに以前もそう言われていた気がする。

 さて、ワイルドベイグランドは、黒鉄を落としても1〜2個程度であるが、ワイルドオブザウィルは五つの黒鉄鉱石をドロップした。

 転職して更なる強さを手に入れる事を想定すると……、黒鉄鉱石を集める手合いはワイルドオブザウィルがかなり具合がよろしい。

 経験値にもなるしね。


「一度、中級魔法使いの試験を受けて、再びこの地に修練に来たいです」


「珍しく、やる気に満ちあふれておるな」


「ワイルドオブザウィルはかなり強い相手でした。でも、そのくらいが丁度良いので」


 当然ながら黒鉄のことは言わない。

 パンドラストーン、黒鉄、そして魔素土壌。

 もしかしたら、スキル強化の書だって出る可能性がある。

 修行に託つけて、連戦する所存でございます。


「結構な事じゃ。ようやく弟子としての気概が身に付いて来たのかのう」


 ティラノロッキーから折りたスティーブンは、軽く腰を叩きながら素手でティラノロッキーに振れた。

 スッと巨体が消えて、巨体に隠れていた荒野が広がる。


 ……アスポートのスキルレベルマックスってストレージと関係してるのかな。


 モンスターを解体する様子が無かったスティーブンの仕草を見てそう思う。

 だとするなら、猟師スキル、取っておきましょう。

 物を引き寄せるスキルから、ついに物を遠くへ送るスキルへ。

 なにこれ、ワクワクがとまらない。


 思う所、自分より巨大な化物相手に素手で戦うって、本当に頭がおかしいと思う。

 俺には、トモガラの持つ、身体能力をかなり上昇させるようなスキルも、十八豪のように威力を上げに上げた攻撃スキルも無い。


 サイクロックスには手も足も出せん癖に。

 とスティーブンは言った。


 そりゃ人と戦うことに関しては、ゲーム時間よりも千倍、いや万倍の時間を費やして来た。

 それだけ一日の長があるからだ。

 サイクロックス並みに、俺の身体がデカくなれば余裕で勝てると思う。

 巨人でも人型であるならな!


 激強スキルが手に入ったら、俺だってそれを使って冒険したい。

 目標は、【テレポート】で転移して【スペルリジェクト】を使用して一瞬で敵のHPを刈り取る、スーパー無属性魔法使いだ。


 妄想が、膨らむのだよ。






書き溜め消費してポケモンゴー。

これはヤバイです。


書かなきゃ。

次の次の話が掲示板回です。


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