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「シャトーブリアンじゃんけん! じゃんけんぽん! ぐー」


「ぐー」


「ちょき」


「ぱー」


「ちょき」


 今、イシマルの掛け声でじゃんげんしてます。

 でも、彼此十回はこの調子。


 ……トモガラがすぐに勝ち誇っても良さそうな展開なんだが、一体どうして。

 そして幾重にも行われたじゃんけんで、俺は一つの結論に達した。


「なかなか決まりませんね」


 丁寧にのたまうこの女。

 十六夜という。

 俺と同じテイムモンスターを従える、弓使い兼猟師プレイヤーだ。


 そして、まずじゃんけん無敗を誇るトモガラの手は、基本的に勝ち手を出してくる。

 みんな揃ってグーだったら絶対にパーを出す。

 グーとチョキが多かったら迷わずグーを出す。

 勝ち星にしか乗らない男。

 じゃんけんマスタートモガラ。


 だが、初めて。

 こんなにあいこが続いた。

 もう何度、シャトーブリアンあいこでしょをしてると思っている。


「また、あいこですね」


 こ、コイツ。

 また、あっけらかんとチョキ、出しやがった。

 俺とトモガラがグー。

 イシマルとアリエルがチョキ。

 そしてこの女は……、パー。


 偶然こうなった。

 って言うのはわかるが、こんなにも偶然が起こりえるのか?

 そう思わせるくらいじゃんけんしてるぞ。

 人生でじゃんけんする回数が有限だとしたら、とっくに有限を越えきって、臨界点。

 宇宙の膨張と同じ規模で人生のじゃんけん回数が増大して行く。


 そんな、錯覚に陥ってしまっていた。

 ま、魔物がいる様だ。

 もうなんでも良いよ、ってかなんであいこなんだよ……。

 勝ち馬に乗れよ。

 またあいこだ。


「ふふふ、じゃんけんこんなにしたこと無いですよ、楽しいですね」


 俺だって小学生以来だわ。

 給食じゃんけんな!!!


「ちくしょー! 樵夫今日は調子わりーのか! 読めねー!」


「石工今日は運がいいぞ! ギリギリで負けを回避してるぜ!」


「ねぇ、もう私、余りで良いわよ」


「まあまあエアリルさん、じゃんけん楽しみましょう? 皆でサーロイン狙いましょうよ。……鷹の目」


 ボソッと、なにか物騒なスキル呟いてるんですけど。

 ……弓師のスキルで、視力補正してる?


『……おい、スキル使ってるのは百歩譲っていいけどな。なんであいこばっか狙ってくんだよ、この女』


『知らねーよ、じゃんけんが楽し過ぎるんじゃん?』


『おい、心眼じゃんけんだ』


 マジか。

 心の中で大きく呟いてトモガラを見た。

 彼は握りこぶしを作って、グッと頷いていた。


「おい、埒があかねえから、心眼じゃんけんするぞ」


「心眼じゃんけん?」


「なんだそれ」


「聞いた事無いですね」


 十六夜わくわくしてる。

 めっちゃわくわくしてっぞ!

 どうしたあいつ、過去に何があった?


「説明してくれ」


 なんで俺が。

 まあいいや。


 心眼じゃんけんとは、昔々、山ごもりしていた俺とトモガラが、師匠に扱かれる役目を交代してもらう時に作ったじゃんけんである。

 ルールは簡単、それぞれ後ろを振り向いてじゃんけんする。

 達人相手にじゃんけんなんてやってられっかと開発したじゃんけんだ。

 要するに目隠しじゃんけん。

 ただ、格好良い名前にする為に心眼と付けだけだった。


「それって目隠し」


「じゃー心眼じゃんけんいくぞー!」


 トモガラが後ろを振り向いた。

 それに合わせて俺らもおずおずと後ろを振り向く。


「じゃーんけんぽん! む、あいこっぽい?」


 あいこでした。

 なんでわかる。


「あーいこーでしょ! ……決まったっぽい?」


 全員で振り向いた。

 勝ちは猟師と樵夫。

 負けは漁師、石工、宝石研磨師だった。


「最後に立っていた者が、一番良い部位を手に入れる」


「望む所です」


 猟師と樵夫、森を統べる二人が互いに視線を合わせて叫んだ。


「ハイブースト! マッシブ! 木の呼吸!」


「鷹の目! フォーカス!」


「おい、なんでスキル使う必要があんだ?」


「知らないわよ」


 じゃーんけーんと繰り出される彼等の手。

 俺の目でも追えた、手が二~三転している。

 十六夜がグーを出すと、トモガラがパーに変えて、対応するようにチョキにするとグーに変える。


「よっしゃあああああ!! ぐはっ」


「……負けました。お見それしました、まさかそこでそんな」


 どうやらトモガラが勝利したようである。

 十六夜も納得の表情。

 いや、納得というより、満足といった形かな。


「なんで、トモガラのHP減ってんの?」


 イシマルが疑問に思ったことを俺にこっそりたずねてくる。

 見てみれば、トモガラのHPが三割減っていた。

 ……部位欠損かな?

 利き手の筋が何本か逝ってしまったのだろう。


 十六夜の流れるような手さばき。

 その着地点はまさに自分の勝利を確信する物だった。

 グーチョキパーの中に手で作ったキツネさんを挟む余地がある程。

 だがトモガラも負けていない。

 何故マッシブを使ったのか。

 それは最後に勝利をもぎ取るため。

 先を読み、限界速度で繰り出される自分の手を強制的に戻した。


 結果、腕の筋が逝った。

 そう言う訳である、多分。


「馬鹿じゃねーの?」


「馬鹿よね」


「何とも言えません」


 という訳で、第一拠点へ戻って解体作業が始まった。

 元々町に戻る予定だったが、十六夜が師事していた猟師はノークタウンに居るそうだ。

 解体を教えてもらうのもそこを利用していたようで、テンバータウンではどこを使って良いかわからない、そう彼女は言っていた。

 なので、第一拠点の川辺を使うことに。


「またバーベキューだぜ、漁師、魚釣って来いよ!」


 焼き台を準備しながら、イシマルがそんなことを言った。

 確かに、食材は豊富にあっていいだろう。

 と、言う訳で十六夜の解体を見物するのは辞めて、フィッシャーガー捕まえに行こう。

 トモガラとエアリルで他にインしている生産組を呼び寄せている。


「わあ! まるまる一頭ですね! すごいです!」


「初めまして、十六夜です。少し血とか飛ぶと思うので離れていてください」


「サイゼです! 調理師をやってます。公園の屋台でいつも営業してるので、良かったら来てください! あ、あと、見てても良いですか?」


「そうなんですね、今度お邪魔させて頂きます! どうぞ!」


 で、フィッシャーガー一匹とって戻ってくると。

 人だかりが増えていた。

 レイラ、ガストン、ニシトモ、ミアン、ツクヨイ。

 いつのもの顔ぶれが揃って来ていた。


「私はヒレでいいわよ?」


「開口一番それですか」


 レイラが俺の顔を見てフフっと笑っていた。

 所でこの人だかりは何なんだ。

 そう聞いてみると。


「向こうの人達はエアリルのパーティメンバーね」


 アルジャーノ、ブラウが居た。

 見たこと無い人もいるが、パーティメンバーの仲間内なんだろう。


「後は、なんか今回誰にも告知してないけどわらわら集まって来たわ」


 肉乞食共か?

 皆一様に期待の眼差しを求めてくる。

 食べたきゃ狩って来い。

 それがこのゲームだ。

 そんな中、俺にも声が掛かる。


「あ、いたいたテイマーさん」


「でもでも、もう一人ペットつれてるよ?」


「どうしよう、それじゃテイマーさんが二人」


「ローレントです」


「「ローレントさん!」」


 いつだか決闘した時に出会った双子だった。

 双子なのかはわからないが、多分双子だと思う。


「僕がホップで」


「僕がステップ」


 詳しい話を聞いてみると、双子の女の子でした。

 フードを脱いだ姿はボーイッシュなショートカットのちんちくりん。

 ツクヨイと変わらない身長だが、少し日に焼けて色が抜けた茶色の短い髪。


 ホップが一本。

 ステップが二本。

 跳ねているアホ毛の数である。

 たしか、弓師とハンターだっけ?


「おおおお、良く覚えてるね。そうそう、僕が弓使いで」


「僕が弩を使うよ」


 実際の職業はどちらも弓使い。

 初期スキルは【クリティカル】と【パワーショット】だったと思う。

 構造的に弩は【パワーショット】が出来なそうだ。


 ……わかり辛いかな。

 ホップが弓で、薬師。

 ステップが弩で、罠師。


 トレジャーハンターとでも言えば良いのだろうか。

 それとも探検家?


 猟師とは違う、罠を専門に扱うサブスキルでした。

 どっちにしろ猟師に近い物があるけどね。


「どうしたんですか」


「いやいや、ステップがさー、話しかけたいってどうしても」


「ホップのが話しかけたがってたじゃん!」


「いいやステップ!」


「ホップ!」


「お姉ちゃんに譲りなよ! こんにゃろ!」


「わあ! ホップが怒った! 逃げろーい!」


 よくわからないままに、双子のモンチッチ達はパタパタパタと第一拠点を駆け出して行った。

 遠くの方で、ベッさんと言われていた二人の保護者のような男の剣士プレイヤーが見えた。


「人気者ね」


「……」


「珍獣だな!! ぶっは!」


 トモガラ、後で、泣かす。

 深い憎しみの心を奥底で育んで行こうと思います。

 お前のシャトーブリアンに、神経毒でも垂らしたろうか?

 おん?


「倉庫に資材入れてますよ。バルサです。水に浮きやすい木を融通させてもらいました」


「おお!」


 さっそく、仕事が早いニシトモが、筏用に木を調達して来てくれた。

 ローブやその他木材等は既に調達してある。

 漁具と言えば、蜘蛛糸がもう少しあれば投網用の網が作れそうな感じ。


 川へ出る準備は、していたとも!

 後は筏を組んで、棒を使ってゆっくり川を下って行けば良いのだよ。


 ビバ川下り。

 インドアだけど、アウトドア。


「あら、バーベキューは言いの?」


「もう食い尽くしました」


「あ、そ? 今回の利益は第一拠点の運営開発に回していいかしら?」


「どうぞ」


 今回牛狩りしたメンバーも、それに同意していた。

 ちなみにバーベキューの参加費用はただ。

 だが、サイゼとミアンがちょっとした料理にしていたり、グラム単位で切り分けて焼き肉を振る舞っていた。


 料理人の料理には価値が付く。

 物販というか、会計所には長蛇の列が並び、ニシトモがせかせかお金のやり取りをしている。

 商人スキルは取引で上がるのか?

 ……俺も取ってみようかな。


 うわー迷う。

 どうしよう!

 今取ってみたいスキル並べてみよう。


 薬師、錬金術師、商人。

 ……案外少なかった。

 でも漁師ですらパラメーターマックスにするのに、約六十近くのスキルポイントを消費する。


 足りないのである。

 相変わらずかつかつなのである。


「早く魚ー! みんなまってますよ!」


 そうだ、話しながら肉を食べてる場合じゃない。

 釣ってきた魚を放置していた。

 フィッシャーガーを板の上に乗せて捌いて行く。


「素材、貰えないでしょうか?」


「あ、ニシトモさんに全てお渡しするので、そちら経由で買ってもらえると嬉しいです」


「はい、わかりました」


「俺も、俺も骨と牙の素材があれば欲しい」


「在庫なら少しはあるかと思いますよ、ニシトモさんで」


「りょ」


 捌いていると色んなプレイヤーに話しかけられた。

 今まで不特定多数の人と絡む機会が狩り中の野良パーティくらいしか無かった。

 レイラ達繫がりでいつのまにか膨らんで行ったメンツ。


 こういうのも新鮮である。

 ニシトモに全て丸投げなんだけど。

 その分マージン獲られてるから良いよね!


「切り身が出来ましたよ」


「おおお! 私も早く捌けるようになりたいんです! グレイリングで練習中なんですが!」


 こっちを見ながら決意に拳を握りしめるサイゼ。


「フィッシュが来たぞー!」


 ミアンが声を張り上げた。

 それに呼応するように集まったプレイヤー達が声を上げていた。


 たまには、良いよね。

 こんなのも。


プレイヤーネーム:ローレント

職業:無属性魔法使いLv19

信用度:75

残存スキルポイント:0

生産スキルポイント:0







感想ありがとうございます。

現実から飛び抜けたキャラを出しても、そんなキャラいねーよって言われたことがあるので、抑え気味に作ってます。

突拍子もないネタをこれからするつもりは無いです。

主人公がフラフラしながら、冒険するだけですね。

って事でいずれ主人公弱体化、もしくは先人を切っていた生産チームが弱体化します。


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