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クビになった万年Fランク探索者。愛剣が『-3』呪剣でした。折れた途端無双です。  作者: 仁渓


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第121話 亡命

「既に身に染みていると思いますがアルティア神聖国王は大聖堂へ亡命しました。他にも亡命を希望する人がいるならば、ただちに橋を渡ってください。即決です」


 ぼくは宰相たちに告げた。


「そのようなことは認められません」


 すかさず神官が、ぼくに詰め寄った。


「誰もが大聖堂へ入れるわけではないのです」


「枢機卿には確認しているから大丈夫」


 ぼくは神官に断言した。


「枢機卿にアルティア神聖国王の引き渡しを求めたところ、教徒から頼られたなら教会として放りだせないと拒まれました。だったら同じ条件の他の教徒の人たちが頼れば亡命を受け入れてくれるはずです。受け入れられないようならばアルティア神聖国王を引き渡して下さい」


 ぼくが橋のたもとから橋の上に移動した理由は安易に橋を巻き上げさせないためだ。


 ぼくが橋の上に立っている間は神官も対岸の兵士に橋を上げろとは言えないだろう。


 ましてや神官本人も同じ場所に立っている。


 もし、ぼくの存在を無視して橋を上げようとするならば交渉役は引退だ。壁の中に飢えるまで閉じこもっていてもらおう。


 宰相たちは一瞬お互いに顔を見合わせたが、ぼくと神官が押し問答の様なやりとりを始めたのを見てここが最後のチャンスだと思ったのか、ぼくたちの脇をすり抜けると脱兎のごとく大聖堂を目指して駆けだした。


「あ、これ、待たんか、お前ら」


 神官の制止の声は無視である。対岸で斬られたりしないよな?


 ぼくは振り向いて宰相たちの行く末を見守った。


 門番たちは躊躇した様子を見せたが斬り捨てることはせず、宰相たちは無事に大聖堂を囲む壁の内側へ入って行った。


 続いて宰相の取り巻きというほどではなかったが宰相らの動きを見て判断しようと考えていたのだろう、良い身なりの衣服を着た人たちが慌てた様子でトンネル内から駆け出してきた。やはり、ぼくたちの脇を通り抜けて門に向かって走って行く。


 皆さん、お城ではそれなりに高い地位にいた人たちなのだろう。『半血(ハーフ・ブラッド)』による炊き出し生活になると生活水準が落ちると考えたに違いない。


 要するに、これまでアルティア神聖国民が困難な目に合っている様子を尻目に安定した生活ができていた人たちだ。


 ぼくとしては、そういう人たちにお城に居座られて待遇が悪いとか面倒臭い話を言われたくない。裸猿人族(ヒューマン)以外とは話したくないなんてふざけたことを言われて通訳のぼくに出番が回ってくる事態は真っ平だ。


 だからといって、城から追い出して炊き出しの列に並ばせたところで何か騒ぎを起こすのに決まっている。


 だったら少しでも大聖堂内の食料を消費させる役に立ってもらおう。大聖堂内の人数が増えれば増えるほど食料が不足し枢機卿が音を上げる状況に早くなるはずだ。面倒臭い話は、ぼくでなく、ぜひ枢機卿にしてほしい。


 ぼくはそんな風に考えていた。


 教会直轄兵たちは全員引き上げて行ったので、この場にいる教会の人間は対岸を除けば神官と大聖堂の警備兵が二人だけだ。


 ぼくは周辺でこちらの様子を気にしているアルティア兵たちに向かって声を張り上げた。


「お城にいる人たちを全員ここに集めて。他にも亡命を希望する人がいたら今すぐ橋を渡るよう伝えてあげて。今すぐだよ。着の身着のまま」


 アルティア兵たちが声をかけに行くまでもなく、大勢の人たちが城を貫通している道路に出てきた。どこかで様子を窺っていたらしい。ぼくの声が聞こえたせいでもあるだろう。


 アルティア兵たちは城中を駆けまわって直ちに残りの人たちも集めてくれた。

実際のところ、城の業務を回すためには兵隊以上に色々な実務を司る多くの人たちが働いている。百人や二百人では効かない。千人近くいるだろう。


 大聖堂に亡命していった人たちと違って皆さん、薄汚れている上に草臥れた顔をしていてやつれている。流民や国都の市民に比べればましかもしれないが、あまり食べられてもいないのだろう。老若男女、一般の使用人の人たちだ。


 アルティア兵たちによる整理でお城の一般の人たちは、ぼくたちがいる橋の手前を先頭にして城を貫通して走る道路の左右に何列かに別れて整然と並べられた。


 駆けこみで何人か大聖堂へ走った人たちがいたけれども、一般の使用人の皆さんにはそのようなつもりはないらしい。城の外には家族だっていることだろう。


 大聖堂に亡命していった人たちは通算で二十人ぐらいだった。家族は伴なっていなかったけれども独り身なのか自分さえ良ければと考えた結果なのかはわからない。


「これで全員です」


 すっかりぼくとのやりとり担当になったアルティア兵がやってきて、ぼくに言った。


「ありがとう」


 ぼくは神官に向きなおった。


 ぼくがアルティア兵たちに直接指示を出すようになっても神官は何も言わなかった。


 城から教会直轄兵を引き上げるという行為は即ち『半血(ハーフ・ブラッド)』に城を明け渡す行為だと理解と覚悟をしているのだろう。枢機卿から邪魔をするなと言い含められているのかも知れない。


 仮に神官がアルティア兵に、この先も『半血(ハーフ・ブラッド)』から城を守れと言ったところで国王も高官も亡命してしまったのだからまったく無意味だ。従うわけもない。


「お城からの教会直轄兵の引き上げを確認しました。もう亡命希望者もいないようです。大教皇と枢機卿によろしくお伝えください。お世話になりました」


 ぼくは橋から城側の地面に移ると神官に頭を下げた。王国の斥候も同様に動いた。


「いや、こちらこそ。今後もよろしくお願いしたい。失礼する」


 神官は苦々しいといった表情で顔を引き攣らせていた。


 城の明け渡しまでは既定路線だっただろうが亡命者の受け入れは予定外だろう。帰ったら枢機卿に怒られてください。ごめん。


 神官と二人の警備兵は足早に対岸に戻って行った。


 直後、ギイギイと跳ね橋が上がりだして水路を隔てた対岸で完全な壁のように立ちはだかった。


 ぼくは気持ちを切り替えると、ぼくを前にして並んで待っているお城の皆さんたちに向き直った。

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