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第四十一話 混乱

 少女の自己紹介を聞いたシアンは、素早く戦闘態勢を取る。ユウもシアンに釣られて両拳を上げ構えた。


 「今回の騒動が人為的だとは聞いていたが、やっぱりテメエ等の仕業か!」


 だが、少女はシアンのそんな態度を嘲笑うかのように目を細めて口元を片方だけ釣り上げた。


 「シアントゥレ。あたしに剣を向けると死ぬよ?これは自信でも自慢でもない、事実だからね」

 「それはやってみなきゃ分からないだろう!?」

 「ちっ、別に戦闘しに来たわけじゃないんだけどね~、ってあれ?ちょっと待って」

 

 少女、ミレナは面倒くさそうに舌を打った後、いきなり手の平を上げて、タイムをかける。

 「あ、うん。分かったわ。殺らない、殺らないってば……え?説明?本当に?……はい、はい。わかりました。やりますよ~だからわかったってば!!」


 『シアン様、念話です。』

 (みたいだな。でも、あんなことまで出来るのか、魔道具もないようだけど……)


 「お待たせ……って別にいいか。兎に角、指示がでたわよ。司教さまがあんたに説明してやれって」

 「説明ってなんのだ?」

 「まず、今回の騒動は私達の仕業ではない。むしろ騒動を収めるためにここに来た」

 「信じると思うか?」

 「あんたが信じようが信じまいが関係ないね。あたしは説明してやれって言われてそうしてるだけだから。あんたが殺り合いを始めたら相応の対処は取るけどね」

 

 ミレナはジト目でシアンを睨みながら殺気をゆっくりと流す。説明するのより殺し合いの方が自分としては楽だとも言うように……


 『シアン様。あの女の人は嘘を言っていません。今は聞いてみましょう』

 (嘘の訓練をしている可能性もあるだろう?)

 『ありますけど。あの女は違うと思います』

 (……)


 「……じゃ、聞くが今回の主犯は誰だ?」

 シアンは仕方なく一旦心を落ち着かせ、ミレナに説明の続きを急がせる。

 

 「な~んだ。つまんないの。まぁ、歳の割に感情の押さえが上手いわね、あんた」

 「さっさと進めろ!」

 「はい、はい。セッカチさんの為にパパッといくから、二度は聞かないでよ?」

 

 そして、ミレナの説明が始まる。

 だが、それはシアンに取っては余りにも眉唾ものの話だった。


 ミレナの説明によると、ダンジョンは元はといえば、他の世界の《生命体》だそうだった。

 そしてそれを召喚して、この世界の資源として使い始めたのが、古代人と呼ばれる人たち。

 最後にその古代人の末裔(・・・・・・)を自称する集団が、自分たちの失われた権利を取り戻すために、あっちこっちで暗躍しているとの事だった。


 「……つまり、テメエ等はその古代人の末裔と戦うために色々動いているって言いたいのか?」

 「まぁ、そうね。平たく言えばそうなるかな?でも、今のところ負け戦しかしてないけどね」

 

 ミレナは最後に不満そうにそう呟いた後、松明を持つ手に力を入れた。それが悔しさを表現する為の演技か、本当に自分すらも知らずに力が入ったのかは分からないが、松明の柄が少し潰れるぐらいの強さだった。


 「証拠はあるのか?」

 「私達がその証拠よ。あ、それはあんたも同じね」

 「ん?どういう意味だ?」

 「自分で認識してるのかは分からないけど、赤の剣は全員、他の世界から召喚された魂を持ってるわ。あんたも多分そう。召喚したのが何者かは分からないけど、異世界の魂を持っている人間は全員【ギフト】と言う、人間種が持つにふさわしくない特殊な能力を持っている。あんたも自分が異常なのは知っているでしょう?ウチの人の中では他の世界の記憶を持っている人もいるし、ある人は古代人の末裔が使う術式を見て自分の世界の物だと言っているぐらいよ。関連性があると見る方が妥当よね」

 

 他の世界、特殊な能力、心当たりがあり過ぎるシアンにはその言葉を否定することは出来ない。だが、二年前苦労させられた連中の言葉をそのまま飲み込むわけにはいかなかった。


 「じゃぁ、戦争を後で手引している理由は?特殊な能力があるなら、そんな回りくどい事する必要ないだろう?」

 「あるわ。彼奴等は正真正銘の化け物よ。あたしたちだけでどうにか出来る相手じゃない。だから、戦争をさせて強い人間を探して育て上げるのが目的なのよ」


 「巫山戯るな!そんな理屈で一体何人もの善良な人間を死なせたと思ってるんだ!!!」


 戦争の話でカッとなったシアンが声を上げる。

 それも当然の事。戦争でひどい目にあうのは何時も一番力のない人達で、その無力な人たちの気持ちをシアンはあまりにも良く知っているからだ。


 「言っておくけど、そうしないとこの世界の全ての人間は彼奴等の奴隷になるからやっているだけで、好きでそんなことやってるわけじゃないからね」


 多少言い訳くさい口調ではあったが、それでも納得できないシアンは何かを言い返そうと口を開く。

 その時、アンリから何か慌てる様な声が聞こえて来た。


 『シアン様。これ見てください!』

 だが、それはシアンの中からではなく、外からの声だった。

 シアンが声のする方へ視線を動かすと、そこには土の壁に埋もれていた石版を指差す、実体化したアンリの姿があった。


 「ん?石版?」

 それを見たシアンが眉間に皺を作る。

 シアンがその石版に視線をやっていることに気づいたミレナが、いきなり慌てならがその石版に走っていった。


 「あ~もう!説明のせいで仕事のことを忘れてたじゃない!」

 「何なんだよ、それ?」

 「隷属呪縛よ!このダンジョンを縛るための術式の一部!彼奴等が術式を壊してしまったせいで、このダンジョンが暴走しかけてるの!あたしの仕事は術式の補強!以上説明終わり!」


 ミレナは、神殿の柱の下にあったものと、同じ隷属呪縛の術式が刻まれた石版に、手を当てて何かの魔法を使い始めた。

 手の平から白い魔力が糸のように数本流れ出て、石版に刻まれた術式の中に入っていく。

 少しずつ色を変え始めた術式の文様が白から赤へ、赤から紫へと変わった時、ミレナは「よっし」と声を出した。

 だが、その瞬間。


 「きゃあああああ!!!!!!」

 、と甲高い悲鳴がシアンの後狩ら聞こえてきた。


 「な、何、何よ!?」

 「ユ、ユウ!??」

 『シアン様!ユウさんの隷属呪縛が!!!』


 シアンが振り返ってユウを見ると、ユウは既に気を失っていて、その左肩から紫色の忌々しい魔力が暴走して、溢れ出してきていた。

 あれは主が誰か知らないとユウが言っていた術式の方からだった。


 『シアン様!ユウさんの術式と石版の術式が共鳴してます!!』

 (きょ、共鳴!?)


 「シアントゥレ!!あの子犬連れて早く出て行きなさい!!術式が暴走してる!!きっとあの子のせいよ!早く出ていかないと……」

 

 しかし、何の前触れもなく、そこでミレナの声が途切れた。シアンが振り返ってみると、いつの間にか石版もミレナの姿もいなくなっている。


 「一体、なにが……」

 『シアン様!ユウさんの体が!!!』


 アンリの慌てる声にユウの方へ視線を戻すと、ユウの体は透明になりかけているた。

 それはまるで空気の中へ溶けていくようにも見えた。


 シアンは慌ててユウの方へ手を伸ばす。


 だが、シアンの手が殆ど消えているユウの体に触れた瞬間、部屋の中は紫の光で埋め尽くされた。



 そして、その光が収まった頃、部屋の中には床に堕ちた松明だけが消えずに燃え続けていた。


 

次回の投稿は19日の夕方ぐらいになります。


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