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異世界・ダンジョン経営・勘違いモノ  作者: くろぬこ
第1章 異世界のチュートリアル編

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第20話 念願の綺麗な布

 

「お父さん、ここはこれで良いの?」

「ああ、それはだな」


 店のカウンターに紙を広げて、ナテーシアが父親に教えられながら何かを書いている。

 紙にはその日に仕入れた商品や売上等が記入されていた。

 どうやら帳簿の書き方を、父親から習っているようだ。

 

 ナテーシア達がいる店の近くに、人外の人影が2つ。

 ただし、村では見慣れた2人組だからか、村人達は怖々と視線を送ることはあれども、騒ぎ立てるようなことはない。

 

「ナテーシア! 来たわよ!」

「あら、クレス様。いらっしゃいませ」

 

 いつものゴシックドレスを着た小さなお嬢様が顔を出すと、ナテーシア達が作業を中断する。

 ククリが家から持って来た踏み台をカウンターの前に置くと、狐耳幼女のお嬢様がそれにのった。

 踏み台を使ってようやく顔を出すと、両手でカウンターを激しく叩き始める。

 

「さあ、村を救ったお・ん・じ・んのクレス様が来たわよ! お金は用意できた?」

「あっ、はい。少々お待ち下さいね。お父さん」

「うむ……」


 魔界のお嬢様の偉そうな態度に少しだけイラついたのか、笑みを引きつらせたダナンズがお金を取りに、店の奥へと移動する。

 昨日は、魔人による襲撃が発生した為に、金銭を受けとることができずにいた。

 なのでクレスティーナは日を改めて、オランゲの実を収穫した報酬金を受け取りに来たのである。


「クレス様、すごく嬉しそうですね。何か良い事があったのですか?」

「ンフフフ。分かる? 朝ね、倒した魔人から、強い魔物が産まれたのよ。ちょっと元気過ぎるのが、困りものだけどね」

「そ、そうですか……」


 一応は営業スマイルを崩さないようにしていたが、ナテーシアに動揺した様子が一瞬だけ見えた。

 村の脅威になる魔物が増えることに、素直に喜ぶことができないのだろう。

 上機嫌のクレスティーナはそんなことに気付くこともなく、新たに産まれた魔物達の様子を自慢げに語っている。


「これでまたうちの戦力が、フヒヒヒ」

「ナテーシア」

「あっ、はい」


 店の奥から、なぜか袋を握りしめた手だけが現れる。

 部屋の中を覗くと、物凄く不機嫌そうな顔をしたダナンズがいたので、ナテーシアは無言で袋だけを受け取った。

 カウンターの上に袋が置かれ、硬貨の擦れる音が耳に入る。

 不気味な笑顔で上の空だったクレスティーナが、思わず素に戻った。


「今回は、39000シグリルで買い取らせて頂きます」

「……え? こんなにいっぱい貰えるの!?」

「はい。随分たくさんの実を採って頂いたようですし、村の貴重な食料になるラビレルの肉を3つも納めて頂いたので、この金額となりました」

 

 しばっていた紐を外して袋を開いた瞬間、大量の硬貨が目に入る。

 これはクレスティーナの予想以上だったのだろう。

 魔界のお嬢様が目を点にして、袋の中を覗きこむ。

 

「こちらの硬貨を使うのは初めてだと聞きましたので、まずは硬貨の説明をさせて頂きます」

「う、うん」

 

 ナテーシアが見た目の異なる硬貨を手に取って、それを説明し始める。

 クレスティーナは狐耳を立てて、それを熱心に聞いていた。

 一通りの説明を終えると、大量の硬貨が入った袋を持ち上げて、満面の笑みを浮かべて揺すっている。

 

「クレス様。お金も溜まったようですし、こちらの布をお買いになりますか?」

「あっ! 忘れてた! そうよ。もともと、それを買う為にお金を溜めてたのよ!」

 

 先日、クレスティーナが欲しがっていた綺麗な布をナテーシアが広げた。

 本来の目的を思い出したクレスティーナが、袋から早速お金を取り出して、それを買い取った。

 

「そうだ、ナテーシア。この布を使って、作って欲しい物があるんだけど。そういうのは、どこに頼めば良いの?」

「作って欲しいものですか? どのようなものでしょうか?」

 

 クレスティーナが説明を始めると、ナテーシアがしばらく考えるような様子を見せる。

 ちょっと難しそうな顔をしながらも、クレスティーナ達をとある場所へ案内した。

 ナテーシアが扉をノックして声をかけると、無精ひげの目立つ渋い顔の男が扉を開け、外に出て来る。

 

「えっと……ナテーシア?」

「スナイフさん。クレス様が、仕事をお願いしたいそうなんですが……」

「仕事?」

 

 目に見えて困惑した様子で、スナイフが視線を下に移す。

 すると狐耳のお嬢様が白い歯を見せて、容姿に合った無邪気な笑みを作る。

 それを見た子鬼のククリもクレスティーナを真似て、不細工な顔を歪ませて、歯並びの良さが目立つ素敵な笑顔を見せた。

 不気味な子鬼ゴブリンスマイルを見て、スナイフが頬をヒクヒクと引きつらせながらも、店の中へ案内する。


「貴方、手先が器用なんですって? ちょっと、作って欲しい物があるんだけど?」

「作って欲しい物、ですか? えーと、作れと言われても、うちは金を取るんですが……」

「お金? お金ならあるわよ」


 硬貨を入れた袋をカウンターの上に置く。

 その返答は予想してなかったのか、目を丸くしてスナイフがナテーシアに視線を移す。


「オランゲの実を沢山取って頂いたので、先ほど村で支払う物と同じ額を支払いました」

「……」

「え? これじゃあ、足りないの? 足りないんだったら、またオランゲの実を取りに行くけど……」


 クレスティーナが袋を開くと、人界で使う硬貨が目に入る。

 思わず本物の硬貨か確かめるような素ぶりを見せるスナイフを見て、お金が足りないと勘違いしたのか、クレスティーナも難しそうな顔をする。

 再び、ナテーシアに視線を移すと、申し訳なさそうな顔でスナイフを見ていた。


「はぁ……。いえ、それで充分足ります」


 魔人が相手とはいえ、きちんと料金を支払うと言われて、依頼を断る理由もなくしたのだろう。

 スナイフが諦めたような表情でため息を吐くと、クレスティーナと詳細な打ち合わせを始めだした。






   *   *   *






「おにぃ、ストップ!」

「ん?」

「さっきのページを、もう1回見せて欲しいのじゃー」

「よかろうなのじゃー」

 

 勇樹がマウスを操作すると、パソコン画面が前のページに戻る。

 沙理奈が遊んでいた携帯ゲーム機を机の上に置くと、パソコン画面に視線を素早く走らせた。


「マウスを貸してほしいのじゃー」

「どうぞ」

 

 勇樹が椅子を横にずらすと、沙理奈も椅子をずらしてきてマウスを操作し始めた。

 2人が見ているのは、今話題の仮想世界体験型ゲームである『異世界の住人(邦題)』の公式サイトだ。

 沙理奈が目敏く見つけた文字をクリックすると、パソコンの画面が変わる。

 『今日のケモナー』のタイトルで書かれたページに飛ぶと、ゲームに登場する獣人に関する説明文と画像が載せられていた。


「この犬人コボルトも可愛いのじゃー」

「あざといな」


 画面を見ている沙理奈の表情が、うっとりとしたものに変化する。

 対照的に勇樹は机に肘をのせて、頬杖を突きながら何とも言えない表情で眺めていた。

 沙理奈の視線の先には、つぶらな瞳を持つ垂れ耳の犬顔が、上目遣いでこちらを見上げている。


 このゲームに登場する犬人コボルトは、全身を体毛で覆われた、犬の顔と尻尾を持つ獣人だ。

 犬が二足歩行していると説明した方が、イメージしやすいかもしれない。

 勇樹が言うように、製作者の何らかしらの意図を感じられるくらいに、可愛らしい容姿の犬人コボルトが多い。

 沙理奈が操作しているマウスカーソルの動きが不意に止まる。

 

「鼻血が出そうなのじゃー」

「なぜに? まあ、確かに可愛いけど。これを見たら、ケモナー同盟とかできるのも分かる気がするな」


 そこには、いろんな種類の犬人コボルトが寄り添いあって、草原のような場所で昼寝をしている画像が載せられていた。

 コボルトの種類も複数いるようで、チワワやビーグルにプードル等、様々な犬を連想させる容姿である。

 画面にかぶりつくような体勢で見ている沙理奈の隣で、勇樹が納得したような感想を呟く。


「……? おにぃ、有料版って何?」

「え?」


 ふと素に戻った沙理奈が、兄に尋ねる。

 沙理奈が指差す場所を見ると、『有料版では、写真撮影も可能になる予定』と書かれていた。


「ああ、そうか。沙理奈はまだ知らないのか。公式が最近、有料版の開発も始めたって発表したんだよ。来年の夏にリリースを目指してるんだってさ」

「ほうほう」


 勇樹がネットで見かけた情報を説明する。

 今回リリースされた無料体験版は、世界各地で同時期に公開されている。

 子供だけに限らず大人でも夢中になる人が続出する程に、人気を博しているらしい。

 

 メーカーが予想していた以上に好評であることを知って、来年の夏を目指して有料版の開発も既に着手していることを正式に発表した。

 現在、無料体験版をプレイしてもらったユーザーから多く寄せられたアンケートの要望をもとに、そちらの実装も目指しているようだ。

 沙理奈が先程見つけた写真撮影機能や、それを現像する機能の実装も、ゲームを体験したユーザーから多く要望された機能の1つである。

 勇樹が沙理奈からマウスを借りると、有料版の実装に関する内容を書いた画面へと移した。


「ほら、公式サイトにも書いてるだろ」


 勇樹が開いたページには、無料版と有料版の違いを一覧にしたものが載せられている。

 無料版ではゲーム開始時に種族の選択ができなかったが、有料版では選択が可能なこと。

 操作キャラが死亡したさいのキャラロストが無くなること。

 メインクエストやサブクエストの大量追加。

 タウンポータルが実装されて、訪問したことがある町へのショートカットが可能になるなど、様々な追加要素が増えるようだ。


「ふむふむ……ん? ……おにぃ。『AI実装NPCの増員』て書いてるけど、これはどういう意味なのじゃー? ルミルミも何か言ってたけど、よく分からなかったのじゃー」

「え? ……あー、それはすごく会話がリアルなNPCが増えるって意味だよ。やっぱりメーカーが、一部のNPCにAIを実験的に搭載してたんだってさ。クレスとかエモンナとか、本物の人間と喋ってるみたいなキャラがいるだろ。アレがもっといっぱい増えるんだってさ」

「おー。確かに、ロリ狐は本物みたいだったのじゃー。狐耳と尻尾の動きが、すごくリアルなのじゃー」

「最近のゲームは、どんどんリアルに近づくよなー。そのうちどっちが現実か、分からなくなるんだろうな」


 自分が疑問に思っていたことが解決したからか、さっきまで見ていた犬人コボルトのページに移動して、再び沙理奈が恍惚の笑みを浮かべている。

 頬杖を突きながら勇樹が隣でその様子を眺めていると、突然に机の上にあった携帯が鳴り始め、猫の大合唱が部屋の中に響き渡る。


「……」

「おにぃ、携帯が鳴ってるニャー」


 物凄く嫌そうな顔をしながら、勇樹が携帯を手に取る。

 携帯の画面には、幼馴染である真希の名前が載っていた。

 

「もしもし? ……えー、今からかよ。明日読むのじゃ、駄目なのか?」


 どうやら電話の内容からして、また真希が新作小説の感想を催促しているようだ。

 幼馴染と面倒臭そうな顔で電話のやり取りをしてる横で、沙理奈が深く溜息を吐きながら肩を落とす。


「はぁー……。早く休みになって欲しいのじゃー。モフモフしたいのじゃー」

「分かったよ。あいあい、じゃあパソコンに送っといて。……はぁー。沙理奈、ちょっとパソコン貸して」

「むー、しょうがないのじゃー。マッキーを怒らせると怖いから、仕方なく譲ってやるのじゃー」

「その画像はコピーして、後でタブレットPCに送ってやるから」

「了解なのじゃー。取って来るのじゃー」


 パソコンを勇樹に譲ると、沙理奈が椅子から勢いよく立ち上がる。

 タブレットPCを自分の部屋に取りに行く妹の背中を見送ると、幼馴染から送られた小説を頬杖を突きながら読み始めた。


第1章 -完-



  A A  

J(^ω^)し <設定資料を書いたのじゃー。


【簡易地図】

  ※拠点間は、徒歩で約半日の距離とする。

<西>                        <東>

                        迷宮

                        ↑

 イージナの町―村―セナソの村―ハジマの村―村―村―国境砦

          ↓     ↓

          迷宮    迷宮(※主人公達がいる場所)


 ※大鬼子のダンザガが倒されたので、セナソの村近くの迷宮は

  安全になったはずだが……。

 ※北にある迷宮は、奪還した村を拠点にして

  国境砦の騎士達が攻略中。



【魔物の生産状況】

 ◆1階層~6階層(解放済み)

  朝礼時>

     子鬼ゴブリン:66匹:身長約150cm

     犬人コボルト:44匹:身長約150cm

   悪魔幼女リリス:22匹:身長約100cm

      計132匹

 ◆ユニークモンスター

  ククリ(♂):子鬼(元村人のムナザ):身長約150cm

         湾曲刀使いの子鬼。最近は、クレスの従者扱い。

  ???(♂):大鬼子        :身長約200cm

           (元大鬼子のダンザガ)

  ???(♀):吸血鬼?       :身長約160cm


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