第06話 円環は繰り返す
ふと目が覚めると、快適な寝台に横たえられていた。
飛び起きると、そこは実家にある自分の部屋だった。
「えっ、なんで!?」
大神殿へ向かう前と何一つ変わらない、懐かしい自室。
(また、時間が戻ったの……?)
鏡を見ると、やはり髪は真っ白だった。
(女神アウラは、再び機会をくださった。次こそ、誰も死なせない……!)
一年間の猶予を使い、私はこれでもかと身体を鍛えぬいた。次は私が囮となり、殺そうとする者が現れたなら、いつでも返り討ちにするためだ。
――そして一年後、選定の儀を迎えた。
私はドレスではなく近衛が着るような華やかな騎士服を身にまとうと、三度目の初雪が降る中、早めに大神殿に向かった。まだ他の候補者たちが姿を見せない礼拝堂で辺りを警戒していると、どこか違和感がある。
(これ……前から壊れていたかしら?)
女神像の台座には、女神の眷属である地水火風の四大精霊を表す四色の宝玉が、しっかりと嵌め込まれている。だがそのうち『地精の緑』と『水精の青』の二つに大きなヒビが入り、白くくすんでいた。思わず近寄り亀裂に指を這わせると、今にも砕けそうなほどである。
(初めてここに来たときは、一つも壊れてなんていなかった気がする。二回目は気付かなかったけど、もしかして時間が戻るたびに一つ壊れているの? まさか……)
悩んでいるうちに刻限が来て、続々と人が集い始めた。
「ちょっと、厳粛なる儀式の場に私設の護衛を連れ込むなんて、礼典に反するのではなくて?」
私の姿を目に止めるなり、声を上げたのはフランチェスカ嬢である。私はかかとの高い長靴をカツンと鳴らして振り向くと、背筋を伸ばして応えた。
「これはフランチェスカ様、お初にお目にかかります。わたくしの名はファウスティナ。貴女と同じ、聖女候補です」
「あら、わたくしの顔を知っているなんて良いこころがけだけど……そういう貴女は、どちらのお家の」
「ああ、当然存じ上げておりますとも。貴女のように花もかくやの可憐なご令嬢を、ひと目見れば忘れようはずがございません」
そう言って私が微笑むと、フランチェスカ嬢は途中で言葉を遮られたことも忘れたようで、扇子を広げて咳払いした。
「ま、まあ聖女候補なのであれば良いわ。服装は少々いただけないけれど!」
「お許し、有難き幸せに存じます」
私は芝居がかった仕草で礼を取ると、他の方々に挨拶を始めた。この『男性のように振る舞い、令嬢の競争心をくじく』という対処方は武術を学んだ際の姉弟子からの受け売りだけど、なかなか有効であるらしい。
私は前回同様にアンジェリーネ様と仲を深めると、周囲に気を配った。ところが前回、前々回に届いた日付になっても、『予兆』が届く気配がない。私の様子が大きく変わったから、警戒しているのだろうか。
そこで私は手紙の偽造という仕掛けを、いっそこちらで使うことにした。アンジェリーネ嬢を殺害するという、予告状を偽造したのだ。
私は殺害予告を理由にアンジェリーネ嬢の護衛騎士を自称すると、少々迷惑がられているのを承知の上で彼女の人の良さにつけこんで、夜間までぴたりと張り付いた。
そろそろ、あちらも私が邪魔で苛立っている頃合いだろう。
(今度こそ下手人を、そして背後にいる者を、絶対に逃さない。いつでもかかってきなさい……!)
だが、ある晩餐の席。胃の腑に激痛が走って咳き込むと、手のひらに赤いものが着いた。
(これは……血!?)
手をまじまじと見れば、いつの間にか爪が青黒く染まっている。他の候補者たちの悲鳴が響く中、私は皿の上に倒れ伏した。
(そうだ、毒殺の可能性を、なんで、かんがえなかっ――)
――どこかで「ピシリ」と、亀裂の入る音がした。




