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524.起床と庭見学

・コミックス『魔導具師ダリヤはうつむかない~王立高等学院編~』2巻、12月18日

 アニメBD-BOX下巻、12月25日、発売となりました。

・オーディオブック1巻、Audibleでも配信中です。

・公式X『まどダリ』第26話公開となりました。

どうぞよろしくお願いします。

「……あれ……?」


 ダリヤは薄く目を開け、そのまま動きを止める。

 見上げれば水色のやわらかな天蓋、自分一人が横たわるには大きすぎるベッド。

 そして思い出す。

 ここはスカルファロット領主館、自分が案内された部屋だ。


 昨日の到着後、略式ということで、客間で夕食を頂いた。

 丸テーブルを囲んだのは、ヴォルフの父であるレナート、今回の護衛騎士で指示役を務めたソティリス、もう一人の騎士、そしてヴォルフとダリヤだ。


 メニューは、湖魚のムニエルや細かく野菜の切られたカップサラダ、ポテトとチーズのスープなど、食べやすいものが出された。

 緊張したが、メニューの湖魚から始まり、スカルファロット領の農産物や湖、河川など、なごやかに話が続いた。


 食後はヴォルフの部屋へ向かった。

 模造魔剣の見学を希望していたドナに、興味を持ったソティリス、模造魔剣の説明をかって出たレナート、その護衛騎士、メイド達も加わり、結構な人数での移動となった。


 模造の灰手アッシュハンドは、魔物討伐部隊長のグラートが持っているものと外観はほぼ一緒。

 ヴォルフいわく、重さは二割ほど軽いそうだ。


 流砂りゅうさの魔剣は、ダリヤは本物を知らないので比較できないが、鈍い金色の鞘に装飾がなされたきれいなものだった。

 ヴォルフとドナがとても盛り上がっていた。


 次に見せてもらったのは小石だ。

 紺色や黒に金の入った石は、グイードがヴォルフに見せたいと集めたもの。

 長三角の白や黒の石は、ファビオが剣に似ていてヴォルフが好きそうだと拾ったもの。

 灰色の平たい石は、エルードが水切り戦で勝てそうだと選び抜いたもの。

 ソティリスが、懐かしそうに説明してくれた。


 ファビオが集めたというセミの抜け殻二つに関し、保存方法を相談されたので、ガラスケースに入れることを勧めた。

 結果、ダリヤがピンセットで慎重に移動させることになり、息を止めて小さなガラスケースに入れた。

 模造魔剣の下に飾られたセミの抜け殻は、意外に似合っていた。


 なお、メイドの一人が、どうしても取っておけずに捨てたものがあると謝っていた。

 兄三人が集めた艶やかなドングリと、夢がみっしり詰まったカマキリの卵――

 話だけの思い出になってよかったと、心から思った。


 その後はヴォルフと分かれてこちらの部屋に戻り、入浴して就寝、と思ったのだが、入浴後、メイドが肩と背中を揉みにきてくれた。

 馬車の移動に慣れていないと、翌日、筋肉痛になることもあるのだという。


 ダリヤはありがたく受け、ほぐされてベッドに横たわった。

 そして、枕もシーツもつるつるの絹だと感動し――そこからの記憶が一切無い。

 よほど熟睡したのだろう。

 おそるおそる天蓋を開いて窓辺に向かい、カーテンを開ける。


「寝過ぎ……!」


 太陽はまぶしく、どう見ても午前のお茶の時間に近い。

 とりあえず部屋からつながった浴室で顔を洗わねば、そう思ったとき、ノックの音がした。


「おはようございます、ロセッティ様。入室の許可を頂けますでしょうか?」

「は、はい! おはようございます」


 入ってきたのは昨日のメイド達だ。

 ダリヤは思わず頭を下げそうになる。


「申し訳ありません、寝過ごしてしまい――」

「いえ、ロセッティ様におくつろぎ頂けましたならうれしいかぎりです。それに、昨日はヴォルフレード様があのように喜ばれ……感謝申し上げます」


 ダリヤは、いえ、と否定しかけた言葉を喉で止めた。

 ヴォルフが喜んでいたのは確かだ。ここで否定するのは違うだろう。


「こちらこそ、素敵な宝物を見せて頂きました」


 そう答えると、メイドは目元の皺を深くし、優しく微笑んだ。


 そこからは急いでシャワーを浴び、髪を乾かしてもらい、身繕いをする。

 髪と化粧は彼女達に任せた。

 丁寧に仕上げられ、鏡に映る姿は貴族の令嬢らしく――

 いや、男爵ではあるのだが、いつもよりも整った感じで、ちょっと落ち着かない。


 食事にするかと尋ねられ、先にヴォルフに挨拶をしておきたいと答えているとき、強めの声が響いた。


「失礼ながら、ヴォルフレード様、淑女がお休みになっている部屋へ、お一人でお越しになるのはいかがなものかと」

「す、すまない」


 部屋の前、ヴォルフが女性に注意されているようだ。

 自分が寝坊したせいだ、急がなければ、そう思ったとき、続く声があった。


「あの、確認だけですし、自分も同行しておりますので」

「ドナ、今のあなたは騎士でも従者でもありません。ヴォルフレード様の同行者として付くならば、騎士に戻るか、従者になりなさい」


 ドナは以前騎士だったのだろうか、そう不思議になった。

 が、現在進行形で、自分のせいで二人が注意を受けているのは申し訳ない。

 ダリヤは自らドアを開いた。


「おはようございます。私が寝過ごしたためにご迷惑をおかけしました!」

「ダリヤ、おはよう! 馬車の移動で疲れていない? もう少し休まなくて平気?」

「ロセッティ会長、なんでしたら予定をずらしますので――」


 ヴォルフに笑顔で挨拶後、すぐ心配されてしまった。

 続くドナからもである。


 そして、ドアの側に立つ中年の護衛騎士――おそらく、先程ヴォルフ達に注意をしていた女性と目が合った。

 ダリヤは爵位が下の客として、寝ずの番をしてくれたであろう彼女へ、ねぎらいを告げる。


「扉の守りをありがとうございます」

「おはようございます、ロセッティ様。本日もたいへん麗しく、金のイヤリングがよくお似合いです。どうぞよき一日をおすごしくださいませ」


 彼女は満面の笑みで言った後、その青い目をヴォルフへ移した。


「ええと、ダリヤ、今日もきれいで……コホン! 美しいあなたと共に過ごせる幸運に、感謝を」


 その様は、貴族らしく挨拶をしろと家庭教師に言われた少年のよう。

 ダリヤは慌ててヴォルフの母が綴ったメモを思い返し、貴族的切り返しであればこうだろうとあたりを付ける。


「ありがとうございます。私も、ここからも続く幸運を祈りたいと思います」


 ヴォルフの隣、ドナが顔を壁に向けて咳をする。

 今日の予定が押しているからかもしれない。


「ドナさん、ここからはお庭の見学ですね。よろしくお願いします」

「全力でご案内します。ただその前に、ヴォルフ様と軽食をお願いします。こちらのお庭は本邸より広いので、お疲れになるといけませんから」


 気を使われてしまったが、空腹感は確かにある。

 ダリヤはヴォルフ達と共に食事をとることにした。


 ・・・・・・・


「庭の定義って何だろう……?」


 ダリヤは、唇だけでそうつぶやいてしまった。


 朝食兼昼食をとった後、ヴォルフ、ドナ、護衛騎士二名でスカルファロット家の庭を周ることになった。

 家は城のような建物、その池はまるで湖。

 となれば、庭もかなり広いと思うべきだろう、その考えは当たった。


 領主館後方の庭には、広い芝生のエリア、花壇というより花畑、そして、どこまでも連なる緑の木々があった。


 芝生は貴族向けの多人数のガーデンパーティを考えればわかる。

 花壇に関しては、屋敷内に飾る花や薬用なども含むと思えばありだろう。


 しかし、連なる木々に関しては、庭木でも林でもない、絶対に森である。

 枝先が風に歌うようにそよぎ合い、鳥たちのさえずりを重ねる。

 青空から舞い降りる翼の長い鷹が、その奥へ消えていく。


 庭を周る装いに、丈長めのキュロットスカートを選んで正解だった。

 なぜならば、見学時、ダリヤだけが馬上だったからだ。


 騎士もドナも鍛えているので長い距離を歩くのは問題ない。

 だが、ダリヤは歩き疲れてはいけないと小さめの馬に乗せられ、ヴォルフに手綱を引いてもらう形となった。


 芝生の緑は爽やかで、色とりどりの花は美しく、森は――子供や慣れぬ者は迷子になりそうだ。

 もっとも、きりりとした表情かお夜犬ナイトドッグ達が、前後左右を一定距離で警護してくれている。

 自分が迷子になることはないだろうが――


「ダリヤ、何か気になるところでも?」

「いえ、広くて、とてもきれいなお庭だと思います」


 いいや、ヴォルフがいる限り、迷うことも怖いこともないだろう、そう思えた。


本年も多くの応援と共に、物語へのお付き合いをありがとうございました!

読者様、関係者の皆様へ、心より御礼申し上げます。

来年も楽しい時間をお届けできるよう努力してまいりますので、

どうぞよろしくお願い申し上げます!

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>ファビオが集めたというセミの抜け殻 亡きお兄ちゃんの優しさ(。´Д⊂) 中年の護衛騎士…女性! ヴォルフにもドナにもピシッと注意してる所がなんだか頼もしくてカッコいいね! >「おはようございます…
おかねとけんりょくって、あるところにはあるんだなぁ
庭…………庭?????
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