闇の女神に纏わる遺跡 ⑦
『『ノースシィーダ』?』
「……母さん、ぴんときてない? この世界だと母さんに纏わる遺跡だと言われているんだけど」
『んー。でも私に纏わるものって沢山あるからなぁ。ちょっと咲人、頭の中見せて』
「いいよ」
俺がそう言うと、母さんは俺の頭の中をのぞき始めたらしい。
多分色んな情報を見ているんだろうなと思うけれど、覗かれている感覚は全くない。今回は母さんは俺に許可を得て覗いているけれど、母さんなら覗かれている本人にも知られることなく覗くことは簡単なんだろうなと思う。
『ああ、なるほど。あそこね! あんまり覚えてないけど、確かに私とは関わりあるかもねー』
母さんはそんなことを告げる。
……なんだろう、世界の認識と母さんの認識ってかなりずれがありそうだ。母さんにとっては『ノースシィーダ』はそこまで気に留めるようなものではない。だけどこの世界にとっては母さんに関する重要なものなんだよなぁ……。
というか母さんって父さんのこと以外は本当にどうでもいいと思ってそうだから、この世界で母さんにとって特別なものってほとんどなさそうだけど。
「折角だから攻略してみようと思っていて。母さんから『ノースシィーダ』のことが聞けたらなぁって」
『んー。特に覚えてないかもー。でもなんか居た気がするなぁ』
本当に母さんは適当すぎる。
『母様、もっと真剣に考えて思い出して!』
『咲人に伝えた方がいい情報があるならちゃんと言って、母様』
『んー、そうはいってもなぁ。なんかあったっけ?』
華乃姉と志乃姉から言われても母さんは考え込んでいる。
……遺跡の謎を攻略したら母さんの声を聞けるとか言われているけれど、この調子だと絶対に違うよなぁ。
『あ、そうだ。あそこにね、私の周りうろうろしていたのが居るかも』
「うろうろしてたのって何? 乃愛、覚えてないの?」
『覚えてないかなぁ。関わったの数えられるぐらいだし、でもなんか確かになんか言ってたかも?』
俺の膝の上で相変わらずごろごろしていたクラが久しぶりに口を開けば、母さんは軽い調子でそういう。
うろうろしていたのって、名前を覚える気がゼロすぎる。流石母さんだって言えるけど。
『乃愛、そういう人の名前は覚えておいた方がいいよ? 後々咲人がお世話になるかもだろう? それに僕たちだって異世界をぶらぶらしていろんな人と交流を持つ予定なんだから』
『うん!! 博人がそう言うならこれからちゃんと覚えるね? でもなんていうか、私の周りうろうろしていて、私の言うこと聞こうって言う存在がとても多いんだよ? 全部覚えるのって大変なんだよ、博人』
『乃愛なら絶対覚えられるでしょ? ちゃんと覚えようね? 乃愛も僕が誰かに適当に扱われたら嫌でしょ?』
『博人を適当に扱う? うん、消す』
『物騒なことを言うのはやめようね、乃愛。なら、乃愛を慕っている子にも名前ぐらいは憶えてあげるといいかなって思うよ』
両親のいつも通りの会話を聞きながら、母さんが物騒すぎると思ってならない……。
父さんは物騒な発言をしている母さんを目の前にしながらこの調子なんだろうな、うん、いつもと声色が同じ過ぎて父さんってやっぱり凄いってそう思う。
「母さん、遺跡攻略したら母さんの声を聞けるって言われてるけど」
『そんなことしないよ? なんで私がそんなことしなきゃなの?』
「うん、まぁ、母さんはそういうよな。母さんの声を聞くために必死に遺跡攻略している人たちいるからさー。なんか、遺跡攻略しても母さんの声なんて聞けないよって周知は必要かなって思うんだけど。デマの為に危険な遺跡に入り込んで、それで命を落とすなんてなんか嫌な気分にならない?」
『私はどうでもいいけどなぁ。でもそっかぁ。博人も嫌?』
俺の話を聞いていた母さんは父さんに問いかける。
『うん。僕は必要以上に誰かが死ぬのは嫌だよ』
『んー、そっかぁ。じゃあ、ちょっとそのあたりはどうにかしとくねー』
俺は母さんの言葉に少しだけほっとする。だって苦労して攻略した先で望んでいる報酬がないって状況ってちょっとなぁ……って思うし。母さんが関わっているならなおさらそうしたいって思ったから。
「母さん、俺は『ノースシィーダ』の最深部まで出来ればいくつもりだけど、その人に伝言とかある?」
『んー、ないよ?』
「遺跡で母さんへの信仰心とか試しているらしいけれど、それはそのままでいい?」
『まぁ、勝手にやっているなら勝手にやらせてていいんじゃない?』
母さんが興味がなさすぎる!
そういう存在が好き勝手していると母さんの評判とかにも関わるんだけどなぁ。でも神様である母さんからしてみれば本当に人が行う些細なことなどどうでもいいのか。
「母さん、俺がその人のやってること気に食わないなって思ったらやめるように言うのはいい?」
『自由にしたらいいよ』
母さんから許可を得たので、俺は自由にすることにする。
そういう会話を交わして、二度目の家族会議は終わった。
父さんには、
『咲人、本当に何かあったらすぐに言うんだよ?』
と最後まで心配された。




