新たなる街へ ③
宿でベッドに寝転がりながら、クラのもふもふに癒されている。こうして何も考えずに触り心地の良い毛並みをひたすら撫でまわすのって、何だか楽しい。
クラはされるがままである。他の人がこんなことをしようものなら問答無用で逃げられる気がする。
「咲人は僕の身体撫でるの好きだよね。博人もだけど」
「姉さん達もそうだよな。母さんは違うなあ」
「乃愛は博人が僕に取られるってよく不機嫌になってたから」
そう言われて、確かになと思った。
母さんはなんというか、本当になんにでも嫉妬する。父さんを独占したくて仕方がなくて、それが人以外の者だろうとも関係ない。
こうして異世界にきて、母さんが”神様”なんていう存在だと知ってからは母さんはこう……父さんっていう”生き物”が好きなんだろうなと思った。うん、人であるとか、人外であるとか、動物であるとか――そういう括りも全て含めて、その上で父さんだけを溺愛……いや、うん、偏愛しているみたいな。
神である母さんからしてみると、ただの黒猫であったクラだって父さんとの仲を邪魔するなら嫉妬するんだろう。
そう考えると、神様だからこそ何者に対しても平等なんだよな、母さんって。なんだろう、平等に興味がないと思っているというか、なんというか。それでいて父さんを誰よりも特別に思っていて、それに付属して俺達のことをとても特別に思っている。
あとは伯母さんのことはそれなりに大切にはしてそうだけど、そのくらいだよな。他は一律、同じなんだろう。うん、虫けらとか、魔物とか……そういうのと、どうでもいい人は一緒なのである。それこそ母さんの信者の中で、特別に思われているらしい人もきっとそう。
……なんかその事実知ったら、ショック死とか憤死とかしそうな人居るな。うん、自分が母さんの特別だって言いふらしている人はきっとそう。
そんなことを考えてぼーっとしていると、頭の中に急に声が響く。
『咲人ー』
(母さん、どうしたの?)
突然聞こえてきた母さんの声。幻聴でも何でもなく、ただ話しかけていることが分かるので、返答をする。
『博人がね、咲人と話したいっていうの。私が博人のことを独占して、私だけと話せばいいって思っているのに』
(そう。また家族会議でもする?)
『うん。そうしよう。博人ってば、私が居るのに他の人と喋りたいなんて我儘だよねぇ。でもそんな博人のことが好きなんだけれど。私だけで満足してくれたらいいのになぁ』
(うん、母さん、反応に困るから惚気すぎないで。両親が仲良いのは嬉しいけどさ)
母さんは父さんへの重すぎる愛情を全く隠しもしない。本来の姿に戻ってから、特にそうな気がする。
それにしても普通に反応に困るというか、嬉しい限りだけど、ふーんっていう気になる。俺には恋人とか居ないから余計にちょっとうらやましい感情もあるかも?
父さんと母さんみたいな関係性の恋人が出来たらそれはもう幸せだろうなとそんな風に思った。
『あ、そうだ。咲人が一緒に居る子も一回は参加するんでしょう。雄の方はどうするの? 私の信者なんだよね?』
(あー、うーん、そっか。フォンセーラだけより、ノスタも一緒の方がいいか。一先ず一回だけってことにして挨拶ぐらいはしてもらってもいいかも? ゲストが一人も二人も変わらない?)
『うん。変わらない。博人は咲人と一緒に旅をしている子達のこと、気になっているみたい』
(母さん、父さんが母さん以外を気にして不機嫌なのは分かるけれど二人に何かしないでほしいんだけど
)
声だけで母さんが不快になっていることが分かる。母さんの信者である二人が父さんに何かするなんてまずありえない。そもそもやろうとしても出来ないし。それなのに母さんは父さんがこうして息子の旅の同行者を気にしているだけでこれである。
……父さんはこんな母さんのことを簡単に受け止めているから、本当に凄いなと思ってならない。
『分かってる。何かしたら博人が嫌がるからやらないよ。挨拶をするのもいいし、博人が質問したら答えてはもらいたいけれど、二人には私の博人と会話を交わすのは最低限にしてもらって』
(はいはい。そうするよ。ちゃんと、俺は二人に忠告はしとくよ。だって母さんはそれで嫌いになっちゃったら、俺と一緒に旅に同行すること許可しなくなるだろう)
『んー、まぁ、それはそう。だって気に食わない存在と関わろうなんて思わないでしょう? それに私の博人に不快な思いをさせるのなんて絶対に嫌だもん。博人に嫌な思いをさせる存在は全員排除しないといけないもん。そうなったら咲人と彼らを引き離さなきゃならないの』
母さんって本当にぶれないななどとただ呑気にそう思った。
『会議はね、そうだね、明後日とかにする?』
(うん。一旦それで。こっちの都合つかなくなったらいうよ)
『了解、じゃあね』
母さんはそれだけ言って去っていった。
さて、二人が戻ってきたら家族会議のことを伝えないと。




